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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
城戸聡美の場合
35/308

-15-

「・・・降りるか。」

圭輔がドアのロックを解除すると、先に運転席から出た。

途端に恭子が掴みかかるように飛んできて圭輔が思わずよろける。

「圭輔、いつ車買ったの! 何、この色! ねえ、なんで聡美が乗ってるの、私は?」

予想通りのセリフに聡美が気まずい思いで外に出ると、圭輔がちらりと聡美を見た。

「今日、納車。 聡美とパスタ食べる約束してたから行ってきたんだ。 どうよ、いい色だろ?」

圭輔が恭子がすがりつくのに任せたままそう言うが、パスタは買い物の約束の後だったような・・・と聡美が首を傾げた。

「いいなあ、聡美ずるい、声かけてよね! 自分ばっか圭輔独り占めして、もう!」

恭子の言葉に後ろめたい聡美は一気に罪悪感を感じて思わず謝ろうとした。

「・・・ごめ・・・。」

そこへ圭輔がセリフをかぶせた。

「聡美も今日が納車って知らなかったんだ。 な?」

「うん。」

聡美がやっと顔をあげたけれど、まだくっついたままの二人の姿は今の聡美には痛かった。

聡美を見つめる圭輔の視線も痛かった。

「じゃあ、私も乗せて、どっか連れてって、今!」

相変わらずストレートな恭子を、聡美はある意味うらやましく見つめた。

「母さんに呼ばれて今からうちで食事。 キョウも来る? 一人増えても構わないと思うけど?」

母親の名を出されたからか、恭子が急におとなしくなった。

「私もごはんなの。 なんだか聞き慣れない車の音したな、って思って、外見たら圭輔のとこに車停まってたから飛び出してきちゃった。 じゃあ、いつ乗せてくれるの? 私、行ってみたいケーキ屋さんがある!」

そこに聡美がいることなどお構いなく、恭子は圭輔の左手を握るようにしておねだりする。

「明日は? 聡美も空いてる?」

「へ?」

ケーキ屋さんに連れていってもらうのか・・・と他人事のように眺めていたら、突然自分に会話をフラれたので聡美は間抜けな声をあげた。

「明日ケーキ屋行くんだと。 サトも来れば?」

あまりに空気を読まない圭輔のセリフに、聡美は笑顔で答えた。

「私都合あるよ。 明日はキョウちゃんの下僕だね!」

「誰がゲボクだ!」

「え、圭輔のおごり? ラッキー!」

「どこをどう取ったらそうなる!」

・・・キョウちゃん、気を悪くしなかったかな。

何もドライブから帰ったところに出くわさなくってもいいのに・・・。

私が出し抜いてケイちゃんを独り占めした、って思われちゃったかな。

まだ二人で明日のことを賑やかに話し合ってる姿に聡美はとても胸が痛んだ。

「・・・じゃ、そういうことで。 サト、入ろう。 キョウも早くご飯済ませろよ、おばさんたち待ってるだろ?」

「あ・・・黙って出てきた。」

恭子は笑って聡美を見た。

「また今日どこ行ったか教えてね! 来週、飲みに行かない? またメールするよ!」

明日自分も乗せてもらうことで満足したのか、最初の恨みがましい節は消えていた。

「キョウちゃんも明日のこと教えて。」

「じゃあな!」

圭輔が強引に切り上げると、聡美の背中を押して家に向かった。

「・・・恭子は関係ない、つったろ。 謝るな。」

ボソッと圭輔が呟いて、聡美は小さく頷いた。


食卓では、今日どんなに聡美が驚いたか、とか、どこに行ったか、を中心にずいぶんと盛り上がった。

「絶対言うなって言われてたのよ、もう、母さん苦しかったわ!」

母親が安堵のため息をついてグイッとビールを空ける姿に聡美が大笑いした。

「これから呼びつけたらいいよ、サトちゃん。」

「聡美は優しいから、タダでは呼ばないもんな?」

圭輔が聡美を見るので聡美は顔をしかめて見せた。

父親がそんな二人を見て目を細めて笑った。

「いい色だな。 大事に乗れよ。」

「うん。」

それからもずっと車の話題が続いた。


「ちょっと送ってくる。」

「お邪魔しました!」

いつもの通り圭輔がそう言って二人は外に出た。

目の前の聡美の家に行く前になんとなく二人で新車の前に立つ。

「キレイな色。」

「・・・オレらしくない?」

「ううん、今のケイちゃんらしい。 似あってる。」

「この色キライとか似あってないとか言われたらさすがに凹むとこだった。」

聡美のセリフに圭輔は満足したようだった。

「来週土曜は車で行こう。 今日下見したし。」

急に練習の話になった。

「水曜はもう一度オミに車出せって脅しておく。」

圭輔が追加でそう言ったので聡美が大笑いした。

今日のことを少し話をしたあと、聡美が改まって圭輔を見た。

「今日、ほんと嬉しかった。 ありがとう。」

圭輔は笑って聡美の背中を押すようにして聡美の玄関へ向かった。

カバンから聡美がカギを取り出すと、圭輔とお揃いのキーホルダーが揺れてドキッとした。

ドキドキするのを抑えてカギを開けると、ポンッと頭を叩かれた。

「それ・・・外すなよ・・・。」

振り向くと圭輔はもう背中を向けて自宅へ帰ろうとしていた。

「絶対外さないよ!」

聡美が叫ぶとぎょっとして圭輔が振り返り、そして満足そうに笑うと手を振った。

聡美はドアを閉めるとギュッとキーホルダーを胸に抱いた。

サプライズに満ちた一日が終わった。

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