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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
城戸聡美の場合
33/308

-13-

「お連れ様、よろしければこちらでキーホルダーをお選びくださいませんか。 ・・・本当ならこのキーホルダーは一台につき一つプレゼントなんですけど、天野様がどうしても二つ欲しいってことで、特別にお渡しするんです。 周りの人には内緒にしてくださいね。」

圭輔が書類を眺めているときに、先ほどから聡美の世話を焼いてくれる受付の女性がにこやかにやってきて耳元で囁いた。

「え?」

小声でも圭輔には届いたらしく、圭輔が笑って聡美に言う。

「オレもお前が決めたのにあわせるから、決めてきて。 一個はお前のな。」

「え、いいの?」

状況がよくわからないまま、聡美は女性に連れられて受付に案内されると、3種類のキーホルダーが展示されていた。

どれも有名なメーカーのロゴが入っていたが、その中でも一番ロゴが目立たないデザインが一番スタイリッシュに思えた。

「これ・・・だと男の子は物足りないって思うかな・・・。」

聡美が呟くと、受付の女性がロゴの目立つキーホルダーを手に取って笑った。

「いいえ、実はこちらとこちらがほぼ並んで人気なんですよ。 すっごく目立つのがいい方と、さりげないけど実はあの車のロゴ、みたいなのが好きな方といらっしゃいますからね。 男女でお揃いで持つにはこちらがよいかと思います。」

『男女でお揃い』という言葉を聞いて、途端に聡美は頬が赤くなるのがわかった。

「ご準備いたしますね。 お車ももうじき到着しますからお待ちください。」

聡美は女性に軽く礼をすると、圭輔のところに帰るのもためらわれたのでもう一度ショールームで圭輔が買った車を眺めていたら、圭輔に名前を呼ばれた。

「帰るぞ!」

慌てて出口に向かう圭輔に合流すると、表にさっきまで見ていた車が停まっていて思わずため息をついた。

「本当に買ったの・・・。 これからしばらく地味な生活だね・・・。」

「うるさいな! 欲しかったんだよ、ずっと!」

圭輔のセリフに吹きだすと、圭輔が助手席のドアを開けてくれたのでとりあえず素直に乗り込んだ。

回り込んだ圭輔が運転席に乗り込み、満足そうにキーを回してエンジンをかける。

ディーラーたちの熱いお見送りを受け、車は颯爽と走り出した。


「・・・っと、そこのコンビニ入る。」

「え?」

走って3分もしないうちにコンビニの駐車場に車を停めると、エンジンをかけたまま圭輔が聡美を見てニヤッと笑った。

「どう、オレの買い物?」

「ケイちゃん、ほんっと、人が悪いっていうか、びっくりさせすぎ! 普通思う? 買い物つきあって、って、車買うだなんて? 貧血起こすかと思った。」

またそのセリフに圭輔が吹きだした。

「ショールームで叫んで注目浴びてたな!」

「恥ずかしかったよ!」

聡美がうつむくと、圭輔がさっき渡されたキーホルダーを一つ聡美に渡した。

「家のキーにでもつけといて。」

「え?」

「超レアものだから、人にやったりするなよ?」

・・・なんだか他意があるのかないのか・・・?

聡美はドキッとしたけれど、圭輔とお揃いのものを持てるというのはとても嬉しかったので素直に喜ぶと早速家のキーリングにつけた。

今のキーリングは誕生日に両親が送ってくれた、有名ブランドのイニシャルキーホルダーでそこに自宅のカギだけがぶら下がっていたが、今もらったキーホルダーをつけるとなんだか一気にゴージャスになった。

「重っ・・・。」

「うるせえな・・・。」

圭輔はナビを操作しながら聡美がキーホルダーをちゃんとつけることを確認した。

「でも、なんでわざわざ取りに来たの? うち、営業さんが納車に来たよ? 普通そうじゃないの?」

突然の聡美の質問に、なぜか圭輔の顔が赤くなったような気がして聡美は首を傾げる。

「・・・かよ。」

「は?」

小声の圭輔のセリフが聞こえなくて、聡美が聞き返すと圭輔が言った。

「あっちに納車してもらったら、色々ややこしいじゃないかよ! 母さんが乗せろって言い出しかねないし、他のヤツラに見つかったらそのまま拉致されて車乗せろ、って言われるだろうし。 ・・・一番に聡美乗せてやろ、って思ってたんだ。 そしたら、お前連れ出すのが一番確実でしょ。」

最後は怒ったような圭輔のセリフが純粋にうれしかった。

「なんか、すっごいお得感。 ありがとう、ケイちゃん。」

「お得感とか言うな、軽いな!」

圭輔が吹きだすと聡美も笑った。

「・・・よし、じゃあ、約束だから明太子パスタ食べに行こう。 カルボナーラも。 ひと口ちょうだい、じゃなくって、正々堂々、半分こな! あ、薄焼きのピザもウマいんだよ、それも頼もう!」

ナビを設定し終わった圭輔が聡美を見るので聡美がまた驚いた。

「え、連れていってくれるの?」

「買い物つきあってくれたからな?」

圭輔のいたずらっぽい笑顔に思わず胸がときめいた聡美はそのまま圭輔をみつめて頷いた。

「よし、出発!」

圭輔の赤い車は軽快にまた滑り出した。

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