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バドミントンの夜から一夜明け、聡美は目を覚ますとつけっぱなしにしていた部屋の電気を消した。
服も着替えずシャワーも浴びないままソファで眠りこけていたが、夜中に目を覚ましてシャワーを浴びて部屋に戻ったのは4時半だった。
・・・また寝不足。
そして、ぼんやりとバスの中で泣いてしまったことを思い出す。
母の死を思い出すかのような、あの日に似た雨の日から少し情緒不安定になっているな、と冷静に分析すると、章穂に簡単な詫びメールを送った。
「章くん、昨日はバスで取り乱してごめんね。 来週から、圭ちゃんと臣とで楽しくやってきます!」
食事をしていると、章穂から返信が来た。
「昨日はいらないこと言ってごめんな。 またじっくり飲もう!」
・・・心配してくれてありがとう。
章穂のメールを読んで、聡美は菓子パンをかじった。
水曜日に早く帰ったツケでもないが、木曜日はとても忙しくて残業を終えて駅に降り立つともう9時だった。
ご飯を作るのも面倒なので、駅前のスーパーでダンピングの始まった惣菜やヨーグルトなどを買い込む。
料理は得意な方だったが、自分のためだけにご飯を作るというのは意外に面倒だとしみじみしていた。
金曜日も少し残業をして自宅に帰ると8時を回っていた。
冷凍ご飯が貯まってきたので簡単にチャーハンを作るとビールを取り出して一人で乾杯をして食事を始める。
観たくもないけれど静かなことが嫌なのでつけているテレビはあまり面白くなかったが、それでもぼーっと画面を見ながらふとカレンダーを見ると、雨の日の翌朝につけた赤い丸が目に入った。
・・・明日ケイちゃんの買い物につきあうんだよね、何買うつもりだろう?
二人で飲みに行ったことは数少ないけれどこれまでにもあったが、週末にわざわざ二人で出かけるということは初めてだった。
・・・キョウちゃんとは、たまにはこうやって二人で出かけたりしてきたのかな。
またそうやって恭子のことを思ってしまう自分に気づいて、ため息をつく。
「アキくんにまであんなこと言われて・・・アキくんってニブイ方なのに・・・。」
章穂に失礼なことを呟くと、聡美は一気にグラスのビールを飲み干した。
・・・何着て行こうかな。
素直に、楽しみだよ、ケイちゃん・・・。
聡美はその夜も電気を点けたまま寝たのだが、なかなか寝付けないのは明るい部屋のせいではないことに気づいていた。
11時を少し過ぎた時にチャイムが鳴ったので聡美はカバンをつかむと玄関へ向かった。
「よ、少し遅れたか。 お待たせ。」
10月にしては暖かい土曜日だったが、圭輔はベージュのニットにジーンズを履いて立っていた。
天野家の三兄弟は近所でも有名なイケメン揃いで、中でも圭輔は端正な顔つきをしていて近所のおばさんたちの中でも一番評判がよい。
聡美も圭輔の顔が好きなのだが、シンプルなニットが思いのほか圭輔に似合っていて、思わず聡美はときめいてしまった。
「き・・・今日、暖かいね! さ、行こう!」
聡美はショートパンツから深いグリーンのタイツを覗かせて、ヒールの低いブーツをひっかけると鍵をかけて家を出た。
「なんか、こうやって二人で出かけるのって何気に初めてじゃねえ? お前、週末何してんの。」
バスを待ちながら圭輔が聞いてきて、同じことを考えていたことに思わず笑う。
「そう、初めてだよね。 なんか緊張するよ。」
聡美が笑うと圭輔が少し照れた顔をした。
「週末は家事だよ、平日はなかなかできないもんね。 あ、この間は会社の友達と山登りしたよ、気持ち良かった!」
聡美が笑いながら圭輔を見上げる。
聡美は165センチあるので女性にしてはそこそこ背がある方だが、圭輔は180センチあるので、聡美が多少のヒールを履いてもまだ見上げる格好になる。
そして、見上げて視線が合ったのだが、思っていたより寄り添って立っていたことに気づいて思わず聡美がのけぞった。
「何逃げてんだよ、失礼だな!」
その様子をみた圭輔が茶化してきたので、焦りながら聡美が正直に答える。
「思ったよりケイちゃんの顔が近くってびっくりしたの。」
聡美の答えが面白かったらしく、圭輔は大声で笑った。
「そりゃ悪かったな。 あ、バス来た。」
「ねえ、どこ行くの? 何買うの? いくらでもつきあうけど。」
聡美が基本的な質問をすると、圭輔が小さく笑って聡美の肩を押し、先にバスに乗せてくれた。
「いいとこだよ、着いたらわかるから。 ・・・たかが10分だけど寝るからさ、着いたら起こして。」
後ろの方に並んで座りながら、まるでこれ以上質問させないとでも言うかのように、圭輔が少しいたずらっ子の笑みを浮かべるとそう言って目を閉じた。
「何よ、もったいぶっちゃって。」
不思議に思いながらも、聡美はタヌキ寝入りしている圭輔のことを見つめてくすっと笑った。




