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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
天野亮一の場合
3/308

-1-

「陽菜、カナたちにコロナ出してやって。」

それほど広くないカフェバーに幼なじみたちが立て続けにやってきて、とりあえず亮一は陽菜にオーダーを通す。

「はい、了解! それにしても、カナちゃんとヨウくんは仲いいね?」

冷蔵庫から櫛形に切ったライムを取り出しながら陽菜がくすくす笑う。

その通りで、昔から陽一郎は奏によくなついていて社会人になってもそれは変わらず、しょっちゅう二人で飲みに行ったり遊びに行ったりしているらしい。

この店にも週に一度は二人でやってきては楽しそうに飲んでしゃべって帰って行く。

二人とも彼女はいないと言っていたけれど、こんなに二人でつるんでいたら彼女に割く時間なんてないよな・・・。

亮一はメガネを外して穏やかに笑う奏と、奏を覗きこんでずっと何かをしゃべっている陽一郎の二人を交互に見て、少し吹きだしてしまった。


亮一の彼女の陽菜は、この店で働くようになってから幼なじみたちと知り合ったのだが、今は亮一より人間関係に詳しくなっている。

コロナビールの栓を抜いてライムを挿すと、陽菜は奏と陽一郎の前にコロナを置いた。

奏と陽一郎は二人でくるとだいたいこのコロナを頼んで乾杯していた。

「はい、お待たせ。」

「あ、陽菜さん、ありがとう!」

陽一郎がわざわざコロナを奏に手渡してやり、それを合図に先に来ていた章穂と二人が乾杯する姿をみて、亮一はまた小さく笑う。

章穂と奏は同い年で、どちらかというとおとなしい奏は昔からもう一人の同い年、亮一の弟の圭輔と章穂によくかばってもらっていた。

特に中学時代は、色白でメガネ姿でひょろりとした奏はいじめっ子の格好の的となったが、成績もよく運動神経もよかった圭輔と、生徒会執行役員をして先生から絶大なる信頼を得ていた章穂が表だって奏のことをかばい始めるとなると、誰もいじめる子はいなくなった。

奏はいつも俯いて二人の後に隠れるようにしていたけれど、二人の裏のない好意に少しずつ明るさを取り戻していったことを、ついこの間のことのように思い出しながら、亮一は別の客のフードを作る。

・・・奏が高校に入った頃から、陽一郎が奏にべったりになったんだったかな。

陽一郎のところに園子が産まれて、奏のおじさんがここを出て行ったんだったか・・・。

幼い腹違いの弟と妹を持つ陽一郎は、世間のセオリー通り思春期には色々葛藤を抱えていたようだったが、その頃から奏と陽一郎はずっと一緒にいるようになった。

結果、奏はもっと明るくなり、陽一郎も居場所を見つけたからか生活が穏やかになった。

その二人の仲は今でも変わらず続いているようだった。

章穂は賑やかにしゃべる陽一郎を見てさっきからずっと笑っている。

幼なじみの遠慮ない楽しい会話を横目で見て、亮一は思わず独り言をつぶやいた。

「こいつらもバカだね、誰かの家で飲めば安くつくのに。」

小声で一人呟いた亮一のセリフを律儀に拾って陽菜が笑うと、亮一にぴったりくっついて立ち、みんなに見えないように後ろ手に亮一の手をぎゅっと握った。

「大事なお客様だよ! ・・・居心地いい、って言ってくれてんだから、ありがたいことじゃない。」

・・・だな。

カウンターで笑顔を見せる奏を見ると亮一はなんとなく安堵のため息を漏らす。

・・・生きているのか、息をしているのかすらわからないような時期もあったからな・・・よく乗り越えたもんだ・・・。

奏のことをよく知る亮一がもう一度奏をみてから陽菜の手をギュッと握り返すとパッと離して顔を上げた。

すると、ドアの向こうにまた見知った顔が見えた。

「あ、ケイまで来た。」

今度は弟の圭輔の顔をドアの外に見つけた亮一が低く呻いて、陽菜は反対にニコニコ笑って圭輔が入ってくるのを待った。

「ケイくんと、いつものシスターズね。 今夜はマーちゃん以外は賑やかね!」

後ろを振り向いて何かを言いながら圭輔がドアに手をかける。

陽菜がちらりと窓際の円に視線を走らせてから、圭輔に笑いかけた。

円はまだ電話中だった。

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