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聡美のジョッキが届いたので改めて四人で乾杯した。
「オミ、腹減ってるなら頼めば? あと明太子きゅうりで全部だけど。」
圭輔がメニューを渡すと隆臣がお腹を押さえた。
「・・・ペコペコなんだ、頼んでいい? あ、でも、ごはん用意してくれてるみたいだから軽く焼きそばと焼鳥盛合せにしとく。」
「どこが軽く・・・あ、焼きそば頼むならひと口ちょうだい。 あと、焼盛のつくねも!」
聡美が隆臣の正面から身を乗り出してメニューを覗きこんで言うと隆臣が笑った。
「・・・聡美はいっつも『ひと口ちょうだい』だな。 つくねも横取りかよ、半分くれ。」
「だってここのつくね、軟骨が入っててこりこりしておいしいんだもん! うずらの黄身がとろん、とかかって。 半分しか食べられないなんて・・・あ、いっそ単品で一皿追加しちゃう? ね、ケイちゃんとアキくんもつくね食べるよね?」
鶏が好物の聡美が嬉しそうにメニューから顔を上げると、圭輔が聡美を見つめて穏やかに笑っていて、聡美が少し驚いてのけぞった。
「な・・・ケイちゃん、何?」
聡美のセリフに圭輔がビールを一口飲んで笑う。
「いや、つくねもここまで愛されたら幸せだろうなあ、と!」
「何よ! 食いしん坊でごめんね!」
圭輔と聡美のやり取りに章穂と隆臣も吹き出した。
「よし、じゃあ、焼盛りと、つくね一皿と、焼きそばと、シーザーサラダ!」
「・・・この上、母さんのごはんも食べる気かよ!」
章穂が呆れ顔で隣の隆臣の頭を叩いた。
料理が運ばれてくるのを待ちながら、またバドミントンの話になった。
「・・・あ、ケイくんもサトも入会? じゃあ、オレも入る! バドやりたかったけど土曜の練習は無理だし一歩が踏み出せなかったんだよね。」
キノコバターを根こそぎ箸でつまみ上げながら隆臣が言う。
「オミにサトにオレかよ。 なんか高校時代思い出す。 なあ、アキもこっちに来いよ。」
圭輔が唐揚げを食べながらそう言うと、章穂がうなった。
「めちゃくちゃ魅力的・・・。 けど、うち週末が変則土日じゃない? 週末は夏実と遊ぶこと多いから一応平日練習がメインなんだよね。 仕事帰りにこっち来るのはちょっと不便なんだよ。 30分は余計にかかるし、実は全く反対方向になるし。」
章穂のセリフに聡美が笑った。
「そっか、ナッちゃんいるもんね。 でも、アキくんもたまにはこっち来るし。 高校時代再来。」
今回も圭輔が誘い出してくれたのだが、あの時も圭輔に強く誘われてバドミントンを始めたのだった、と聡美が思い出す。
入部見学に行って、圭輔と章穂の息の合ったダブルスのプレイを見て、彼らを・・・圭輔をもっと近くで見ていたいと思ったのもバドミントン部に入部した一因だった。
隆臣は兄の影響でとっくに入部を決めていたので、数か月の間ではあったが幼なじみの四人が隣り合わせのコートで走り回った。
主将の圭輔と副将の章穂は女バドでも人気があり、ぽっと出の一年生の聡美が「幼なじみ」というだけで何かと二人にかまわれるのは女子たちには気に入らなかったらしく、いらぬ妬みを受けたことも思い出す。
隆臣も何気に人気高かったからすごいけん制されたり・・・この人たちのせいでけっこう色々あったっけ。
一つ上の先輩にネチネチといじめられたことや同期から敵対心を燃やされたことを思い出して聡美が思わず身震いすると、また圭輔と目があった。
「・・・さっきから一人で赤くなったりトリップしたり、お前大丈夫?」
また顔が赤くなったことに触れられて聡美は自分の頬に手をやったけれど、圭輔が自分を気にかけてくれていることが単純にうれしかった。
聡美は軽く目を伏せた後でぱっと顔をあげるとにっこりと笑った。
「大丈夫。 練習頑張ろうね、ケイちゃん!」
「オレも行く!」
「車出せ、オミ!」
「だからオレの車だっての! 勝手に決めるな、圭輔!」
四人が大騒ぎしているところへサラダと明太きゅうりが運ばれてきて、軽く食べると宣言した四人にも関わらず一気に争奪戦が始まった。
終バス近くになったのを機にお開きとなり、立ち上がった圭輔があくびをした後で軽く聡美を羽交い絞めにした。
「今夜はよく眠れそう? いつでも呼べよ?」
耳元で小声でそう呟くと、圭輔が何事もなかったかのように体を離す。
聡美はドキドキする胸を軽く押さえながら、隣に立つ圭輔を見上げた。
「・・・ありがとう。 ケイちゃんも寝不足でしょ、あくびばっか・・・ごめんね。」
聡美のセリフにまた圭輔が穏やかに笑う。
「謝んなくていい。 ・・・さて、帰るか。」
当然のように聡美のラケットケースもまとめて持つと、圭輔は先に靴を履きに行く。
「あ、お札がない! 兄ちゃん、おごって!」
「お前・・・社会人としてどうかと思うぞ、隆臣!」
相変わらずの隆臣の姿に章穂が財布を持ったまま固まり、隣で圭輔が遠慮なく大笑いして、そんな三人を見て聡美もお腹を抱えて笑った。




