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「聡美!」
「ケイちゃん! あれ、アキくんもいるの、どうしたの!」
仕事を終え、待ち合わせの駅の改札を出たら圭輔と章穂がラケットを抱えて立っていた。
「サト、お疲れ。 今日はオレもこっちのサークルに参加させてもらうことになった。 ま、歩きながら話そうか。」
短い髪をかき上げながら章穂が笑った。
「・・・アキくんの大学時代の同回? そうなんだ。 ってことは、ナッちゃんとも一緒だった人?」
「そうそう。 だから、たまにちょっと上乗せ料金払ってこっちにスポット参加させてもらってる。 もともと一つだったのが、人数増えてきたとこにこっちに体育館が新設されて、で、分裂したんだって。 だから、オレが行ってるとこと今日行くとこは元は一つだったんだよ。」
元は一つのサークルが二つに分かれたため、前回参加したサークルと今日参加するサークルは交流が多いらしかった。
「オレの同期は桜井って言うんだけど、上手だぞ。 ケイ、負けるんじゃない?」
章穂のセリフに圭輔がムッとする。
「会う前から変なこと言うなよな。」
圭輔が軽くラケットケースで章穂を殴った。
「いってえなあ・・・。 な、ケイ、今日もダブル入ろう。 オレ、お前と組むのが一番やりやすいよ。」
高校時代は不動のペアだった二人のプレイが聡美はとても好きだった。
「ケイちゃんとアキくんのダブルス観れるの、すっごいうれしいな。 好きだったもん。 私、あまり観れなかったけど。」
2年上の先輩たちは春を過ぎると引退してしまうので、三人が同じ高校のバドミントン部で同じ時間を過ごしたのは短い間だった。
それでも、男子バドミントン部の主将、副将の幼なじみである聡美は羨望と妬みを一身に受けたことを思い出す。
「サトもダブルス入ろうな。 この間は一緒に入れなかったし。」
章穂が振り返って笑うので、聡美が突っ込んだ。
「ナッちゃんがアキくんのこと離してくれなかっただけだよ、私待ってたのに!」
「全く、いつまでラブラブなんだ、お前ら。」
けっ、と吐き捨てるように圭輔が言うと章穂がまた大声で笑った。
「夏実はサトのこと大好きなんだけど、オレがサトのことかまうのが羨ましいらしいよ。 サトは可愛いもんねー。 っていうか、オレ、そんなにナツのことかまってないのかなあ?」
「可愛いなんて嘘くさいよ、アキくん!」
「章穂はニブイからなー、ナッちゃんのこと怒らせてんじゃねえの?」
章穂の彼女の夏実は確かに聡美のことを気にいってくれており、会うといつもとても可愛がってくれた。
「うるさいなあ・・・。 あ、そこそこ、割と近いだろ。 お前とサトはこっちの方が断然参加しやすいと思うんだよね。」
章穂の声に顔を上げると角を曲がったところに体育館が見えた。
「よーし、動くぞ! ほら、聡美、覚悟しろよ!」
圭輔がにやりと笑った。
「・・・女子相手に大人げないでしょ、ケイちゃん・・・。」
「バカか、圭輔。 斉藤さん、怒ってたぞ?」
練習を終えた帰り道、電車に座れた三人は荷物を棚に上げるとシートに身を投げる。
最寄りの駅で居酒屋に行こうということで話がまとまり向かっているところだった。
「人生、何事も真剣勝負。」
初めて参加したサークルの練習の最後に、章穂と圭輔が組んで聡美ともう一人の女性とのダブルスに対戦して快勝したことを言っている。
聡美の相手も面白がって対戦したのだが、章穂と圭輔の息のあったプレーに感動しながらも容赦ないスマッシュに笑いながら怒っていた。
「何が真剣だよ、けっこうヘタレなくせに。」
章穂がからかうように何かを含ませると、途端に圭輔がぐっとつまった。
「あー、早くビール飲みたいねえ。」
「お前はいつもビールの話ばっかだな。」
章穂が呆れたように言うと、聡美が軽く舌を出して肩をすくめた。
「こっちの方が断然参加しやすいけど、お前のサークルもいけないこともないしな。 やっぱアキとすんのは楽しいし。 そっちに行こうかな。 でも、そしたら平日は練習行けるか微妙になるか・・・。」
二人のプレイは昔と変わらずやはり観ていて感動するほど息が合っていた。
圭輔のセリフに章穂が意味深な目線を送る。
「じゃ、さ。 ケイはオレと組んで市民大会とか出ようよ。 で、基本練習はこっちですればいい。 試合が近づくとお互い行き来してなるべく合わせよう。 実は、ほら、今日いた迫さん、な? オレのサークルの三戸部さんと高校、大学ダブルス組んでて、そうやってんの。 けっこう市民大会で名を馳せてるっていうかな。 普段はお互い近い方で練習してて、大会近づくとどっちかにそろって参加してる。 オレらもそうしない? 大会出よう、ケイ?」
章穂のセリフに聡美が乗った。
「わ、それいいね! 観たい、アキくんとケイちゃんのダブルス! それに、私もこっちの方が参加しやすい。 アキくんとナッちゃんとこに行きたいのもあったけど、たまに練習できるならそれで我慢する。」
すると圭輔が軽く聡美の髪を叩いた。
「なあ、お前はナッちゃんと組んで大会出れば?」
「へ?」
間抜けなセリフに章穂も食いついた。
「おー、そうだ、夏実と組め、お前!」
「ちょ・・・ちょっと!」
「イエッス! 決まり!」
電車の席の両方からなぜか抱きつかれて聡美は間で固まったまま、また、恭子のことを思い浮かべていた。




