森野塚四丁目の仲間たち-2-
「おーす、リョウくん! 席、空いてる?」
オレがおしぼりで手をぬぐい終わったとこへ聞き慣れた声がした。
「あ、アキ、いたのかよ! そっち行っていい?」
「カナ、ヨウ、久しぶり・・・でもないか。 カナ、お前あっちに姉ちゃんいるぞ?」
振り向くと、同級生の木元奏と2歳下の佐藤陽一郎がそろって立っている。
高校時代はサッカー部で一年生の秋からレギュラーの座を守り、就職した今でもフットサルを続けている陽一郎は無駄な贅肉のないスラリとした体形をしていて、背も高い。
奏はグラフィックデザイナーをしていて、背はそこそこ高いがどちらかというとやせ型。
この店のロゴも奏がリョウくんと相談して考えた。
二人が立っていると、体型のせいなのか、いつも陽一郎が年上に見えてしまう。
「げ、姉ちゃんいるのかよ。」
さっきからワイン片手にずっと電話をしている円をチラリとみると、奏はオレの左隣に座る。
陽一郎がそれを待って奏の隣に座った。
「アキくんもよく来るね、ここ。 居心地いいもんね。」
カウンターに肘をついて、陽一郎が笑う。
「そうそう、家で飲んだ方が安くつくのはわかってんだけどね。」
陽一郎は元気印そのもので、運動が昔から苦手で色白の奏とは正反対のキャラだけど、この二人は昔からとても仲がいい。
「オレらも居酒屋で飲んで来て。 しゃべりながら帰ってきたら喉渇いたからもう一杯飲もう、ってカナが言うから。 マーちゃんいるとはね。 昨日も家でなんか荒れてたよなあ?」
陽一郎が呟くと、リョウくんがオレのマッカランを持ってやってきた。
「なんだ、今度はカナとヨウか。 何飲む?」
「いまさらのコロナビールで!」
「あ、オレもカナと同じで!」
二人のコロナが運ばれてきたところで、三人で乾杯をした。
「あれ、なんだよ、今日は勢ぞろいだな。 あ、リョウ兄、席空いてる? サトと恭子もいるんだけど?」
マッカランを口に含んだところで、また聞いたことのある声がして振り向くと、オレの大親友の天野圭輔が立っていた。
「圭輔!」
「おう、アキ。 カナとヨウと一緒に飲んでんのかよ。 オレ、こっちに合流したいなあ。」
圭輔から遅れて女性が二人入ってくる。
「リョウくん、こんばんは。 あれ、アキくんにカナちゃん。 ヨウもいる・・・あ、マーちゃんだ。 勢ぞろいだね、席あるの?」
賑やかな声は、オレの一つ下の松尾恭子だ。
茶色に染めた髪をポニーテールにして、小さなカバンを振り回してしゃべる。
「こんばんは。 わ、どうしたの? みんないる!」
恭子の一つ下、陽一郎と同い年の城戸聡美が圭輔たちの後ろに立っていて、オレたちを見渡して笑った。
「あ、サト、こっち来いよ。 ・・・リョウ兄、あっち座るよ。 アキ、久しぶりにお前と飲みたいからあとで来るよ。」
「待ってる。」
三兄弟の中でも一番のイケメンと評判の圭輔が、聡美と恭子を連れて円と反対のコーナーへ向かう姿をオレはぼんやり見つめていた。
圭輔と恭子と聡美は、家が三角形を描いて隣同士に住んでおり、恭子と圭輔が仲良くて・・・オレには恭子が押しかけてるだけに見えるけど・・・恭子と聡美がお互い一人っ子なんで姉妹みたいに仲良くて、結果、三人で飲んだりすることが多い。
聡美と同い年の陽一郎がたまにそこに加わることもあるし、同じく同い年のオレの弟が仲間に入ることもあるが、基本的にこの三人が核となりよくつるんでいる。
聡美はいつも少し恭子に遠慮してるように見えるけど、このトリオはとにかく仲が良いのでちょっとうらやましい。
「・・・なんだか、本当に勢ぞろいだなあ。 あと、オミがいたら・・・。」
リョウくんと陽菜さんがぐるりと店を見て笑ったところに、オレの二歳下の弟、北嶋隆臣が賑やかに飛び込んできた。
ここに寄ったのはコイツを待つ意味もあったので、ジロリと一応弟を睨んでおく。
「兄ちゃんごめん、カギ忘れてきたからさあ! 待っててくれてありがとう! わ、陽一郎、また髪切った? あ、カナちゃん、お疲れ。 あ、陽菜さん、これ残り物でよかったら。 あ、この焼き菓子はキョウちゃんたちにあげよ、あ、マーちゃんもいる?」
「・・・相変わらずうるさいなあ、オミ・・・。」
奏が露骨に顔をしかめると、意に介さない表情でニコッと笑って隆臣が陽菜さんを見てごそごそと紙袋を漁る。
「わあ、オミくん、いつもありがとう!」
パティシエ修行中の隆臣は残り物のパウンドケーキを陽菜さんに渡すと陽一郎のとなりに座り、六人がけのカウンターはムサイ野郎で満席状態。
「兄ちゃん、おごって! リョウくん、オレもコロナとビーフシチュー! パン、厚めに切ってよね、内緒で!」
「厚かましいな、隆臣!」
「はい、毎度!」
オレが苦い顔をする一方でリョウくんが笑いながら隆臣におしぼりを渡す。
さっき座った圭輔たちは、酔ってご機嫌の恭子が何やら無茶ブリをしているようで、圭輔が怒って聡美が笑っている。
・・・これが、オレの大切な仲間たち。