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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
天野亮一の場合
16/308

-14-

「ただいま。」

父親の予告通り、圭輔は一時間後に帰ってきた。

「お早いお帰りで。」

10時を周り、ちょうど風呂から上がった亮一がニヤリとしながら言うと圭輔が目線を逸らす。

「今日の練習の話してたら盛り上がったんだよ。アキとナッちゃんのダブルスにオレとサトが逆転して・・・。」

「あっそ。」

亮一はまだニヤニヤしながら会話を切ると、圭輔が少しムッとした顔でポケットからスマホを取り出してちらりと時間をみた。

「あ、圭輔。 今からオリジナルのカクテルの実験台になって欲しいんだ。 すぐにキッチン来て。」

「えー、また実験台?」

自分の部屋に上がろうとする圭輔に亮一が声をかけると、そうは言いながらもラフな服に着替えた圭輔がキッチンに降りてきた。

亮一はラムをベースにカシスリキュールを混ぜたロングカクテルを出すと、圭輔が軽く香りを確かめる。

「ん? なんか、甘い。 きれいな色。」

「ああ。 カシス入れたからな。」

薄い紫色の液体を軽く口に含むと、圭輔は目を閉じてカクテルを口の中で転がした。

「ラムベース? 意外にカシスと味がケンカしてないね。」

甘いといいつつも圭輔はけっこう気に入ったようで、軽くグラスを揺らすともう一口飲んだ。

「ラムはお前好きだよな。 カシスは聡美が好きだっけ。 どうだよ、相性いいかよ。」

何かを含んだ言い方に圭輔が黙るところへ亮一はさらに直球を投げてみた。

「なあ。 お前、サトのこと好きなの?」

「は? なに、急に。」

圭輔は怒ったような声をあげたが、一瞬黙って長兄を見ると横を向いてため息をついた。

そういえば、昔から圭輔は亮一には隠し事をしなかったな・・・ということを、亮一はふと思い出す。

「好き・・・って言ったらどうなんの?」

自分からカマをかけたくせに、九つも離れた弟の照れた様子を見て、さらに相手は11歳も年下の幼なじみであるというシチュエーションに想像以上に自分が照れることに亮一は慌てた。

「どうなんの、って・・・別に? そっか、と思うだけ。」

圭輔はもう一度亮一を見るとまたボソッと呟く。

「じゃあ、別にそんなんじゃねーわ、って言ったら?」

さらに絡んでくる弟に亮一は苦笑いした。

「そうだなあ。 そっか、と思うだけ。」

さっきと同じセリフが返ってきて、圭輔は大笑いした。

「なんだよ、それ!」

お腹を抱えるようにして大笑いした後、圭輔はやっといつもの表情を見せて亮一へ言った。

「なら、誰が教えるか、っつーの。」

圭輔はまだ笑いながらカクテルを一口飲むとそう言って目線をそらした。

「ま、からかうつもりはないけど・・・けど、なんか微妙だな、とか思って。 お前ら三人。」

亮一が言葉少なに呟くと圭輔はまたカクテルを飲んだ。

「微妙っていうか・・・まあ、オレなりに考えてる。 見守ってよ、マスター。」

そう言うと圭輔はカクテルを飲み干して急に話題を変えた。

「なあ、リョウ兄。 今回は陽菜ちゃんのお父さんに会えた?」

突然の痛い話題に、露骨に亮一がテンションを下げた。

「・・・言うなよ。 ってか、会えてたらすぐに親に言うよ。 ・・・全く、一年経つ、っつーのにな。 情けない。」

2つ下の弟よりこの9歳も下の弟の方が遠慮なく弱音を吐けるのは、やっぱ孝誠とは歳が近すぎるからかな。

そんなことを思ってため息をついた兄に向かって、圭輔は柔らかく笑った。

「もうすぐ店が一周年記念だもんな。 なんか作戦考えて、なんとかパーティーには来てもらおうよ! オレも手伝う、応援する!」

亮一はテーブルに突っ伏して顔だけ圭輔を見上げる。

「なんかいい策でもあんのかよ?」

「いや、ないね!」

「なんだ、ないのかよ!」

明るく力強く応える圭輔の頭を軽く叩くと、亮一はバカルディのボトルを持ち上げた。

昔からこの弟の前向きな明るさには救われる。

「さて。 マジ、新作考えよ。 ケイ、これに何足すよ?」

また話題が変わったが、圭輔はそれ以上突っ込むことはしない代わりにニヤリと笑うとボトルを見て一瞬たじろいだ。

「えー。 美味しいのにしてよ、兄ちゃん。 前の実験台の時、夜中に気持ち悪くなって目覚めたんだよ!」

数ヶ月前に新作作りに付き合わされたことを思い出し、今度は圭輔がテーブルに突っ伏した。

たまに圭輔が呼ぶ「兄ちゃん」という響きはなんだか昔を思い出して気恥ずかしい。

弟の頭を亮一が二度軽く叩いた。

「・・・兄ちゃんも頑張るから、圭輔も頑張れ。」

圭輔は突っ伏したままこもった声で答えた。

「うん。 ・・・まずはトシの順で兄ちゃん頑張れ。」

「うるさいよ。」

亮一はロングのグラスに氷を入れるとバカルディを多目に注いだ。

・・・頑張るよ。

嫌われてもいけないかと・・・怒らせてもいけないかと、陽菜の言う事を聞いて、もう十分待った。

でも、つまりは逃げてただけだ。

正直、父親と同じ世代の人と修羅場を迎えるってのは避けたいと思ってた。

でも、それじゃダメだよな・・・これからはちゃんとぶつかろう。

軽く頭を振るとまだテーブルに寝そべっている圭輔を見た。

「色つけたいな。 ウイスキー足すか。」

「ラムだろ、勘弁して!」

弟の間髪入れない悲鳴に亮一は大笑いした。

・・・頑張ろう。

亮一はもう一度氷を軽くステアした。

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