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翌日は予報通り夕方から雨が降り始めたので、ランチはそこそこ人が入ったが夜は客足もまばらだった。
最後の客も11時半に引き上げ、その後あまり客も見込めそうにないことから早々に店を閉めることにした。
徒歩10分ではタクシーに乗るのもはばかられ、二人は足元を気にしながら自宅に戻るとビールを出してきて乾杯をした。
「明日はゴルフに行きます、って、お父さん。 もう、呆れるよね。 夕方帰ってくるんだって。 亮一とは会うつもりもありません、って、これまた子供じみたメールがきたよ。 ごめんね・・・もう一年になる。」
ビールを飲みながら陽菜がため息をつくので、亮一が小さく笑った。
「会ってもくれないってのはキツいけど・・・待ち伏せしたりとかした方がいいのかな。」
「や、絶対余計にへそ曲げる。 会いたい、って言って、向こうがわかった、って言う、正攻法以外ないのよ、お父さんには。 ほんと、ごめん。」
陽菜が何度も謝るので亮一がポンッと頭をたたいた。
「謝りすぎ、陽菜は悪いことしてないだろ。 明日はお昼前に送っていくから、お母さんとのんびりしたら?」
陽菜はグイッとビールを傾けて頷いた。
「うん・・・。」
その夜は亮一がシャワーを浴びて出てきたら陽菜はもう寝息をたてて寝ていた。
翌日は洗濯と掃除を済ませると、1泊の荷物を持って陽菜が実家に帰った。
「ごはん食べて行く? お母さんが親子丼作ってる、って。」
道中届いたメールに目を通しながら陽菜が言うが、亮一は笑って首を横に振った。
「お父さんの許可なく家には上がれないよ。」
亮一のセリフに陽菜が黙りこくる。
「ごめん・・・。」
「あ、また謝った! こら、陽菜!」
亮一がおどけて声を上げたけれど、陽菜は一気にトーンダウンしたように見えた。
「亮一さん、いつも送ってくれてごめんなさいね。 お父さん、出かけちゃって・・・ほんと、子供みたいで・・・。 一年経ったからね、そろそろお母さんもイライラしてきたから、ちょっとお父さんのことは任せてね!」
表に降りてきた母親のセリフに思わず亮一が慌てた。
「そんな、オレは・・・あの、お父さんが納得してくださるまで待ちますから・・・。」
陽菜はまた少し困った顔を見せたが亮一に向かって笑った。
「送ってくれてありがとね。 明日はまた夕方お願いしていい? 連絡する。」
「わかった、のんびりしてこいよ。 じゃあ、お母さん、失礼します。」
父親が亮一を認めない以上は陽菜の家に上がることはよくないことだと思っている亮一は、エントランス前で簡単に挨拶をすると陽菜を置いて実家へ戻った。
「あれ、リョウ兄、早かったね。 オレ、ちょっと出かけてくるけど。」
2台停められる自宅の駐車場に車を置いて玄関に向かうと、ちょうど出かけようとする圭輔と鉢合わせる。
「何、ケイ。 デートか?」
お約束のセリフに圭輔が吹きだす。
「いないよ、相手が。 聡美と章穂とバドミントンしてくる。 アキの行ってるサークルの練習に混ぜてもらうんだよ。 夜は家でご飯食べるから!」
圭輔が靴を履きながらそう言っていると向かいの玄関から聡美が姿を見せた。
「あれ、リョウくん、お帰り!」
ラケットと少し大きめの荷物を抱えた聡美に亮一が軽く手を振る。
「電車か? どこかまで送ろうか?」
亮一のセリフに途端に圭輔の顔がほころぶ。
「マジ? 体育館までとは言わないからさ、M駅まで送ってくれない? バス乗って電車だとけっこうかかるけど、Mからだとかなり早く行ける。」
・・・圭輔は孝誠と違って甘えるのが上手だな。
亮一はうれしそうに聡美を呼び寄せる弟の姿を見て思った。
「リョウくん、お腹空いてるんじゃないの? お昼なのに送ってもらうなんて、なんか悪い。」
聡美らしい遠慮を見せる姿に亮一が車へ戻りながら笑って答えた。
「ケイだけなら放っておくけど、聡美いるならたまには送ってやろっかな、って思ったんだよ、サトに感謝しろ、ケイ。」
「わ、冷たい!」
圭輔が笑いながら聡美のラケットケースを持ってやる。
一瞬躊躇しながら聡美が素直に圭輔にラケットケースを渡して、圭輔は亮一が車を出すのに邪魔にならないように聡美の手を引っ張って自分の方へ引き寄せた。
・・・やっぱ、ケイはサトのことが好き・・・なんだろうな?
そして、サトも・・・。
亮一は運転席から二人の様子を見ながら車を停めると、助手席に荷物を投げ入れて圭輔まで後部座席に座った姿に思わず吹きだした。
「タクシーかよ!」
「リョウ兄の横より、サトの隣の方がいいし!」
「わ、何バカなこと言ってんの、ケイちゃん! 助手席行きなよ!」
じゃれる二人をルームミラーで見て笑うと、亮一は車を発進させた。
「ああ、うるさいよ。」
圭輔と聡美はまだ二人で言い争っていた。