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オーディションの存在が発覚してからまもなく、それは僕から三人に伝えられた。三人ともこの件に関しては知らなかったようで、翌日から部活のあとに三人で集まり、曲の選定をし、楽譜を買い、土日には個人での練習が始まった。
そして、土日明けの月曜日。ついに仮初めの夏休みーーーー前期補習がスタートした。
◆◇ ◆◇ ◆◇
その放課後。ショートホームルームで再び放課後に集まってくれとの裕人の要望により、クラスみんながこうして席に座っている。
「それじゃあ、劇のことだけど」
既に前に立っていた裕人が口を開く。教卓にはプリントがつまれている。
「この土日で鈴木さんが台本を仕上げてくれました。今からそれを配るので、今日中に目を通しといて下さい。それで、今日やってもらいたいことなんですけど、この台本にそれぞれの役ごとにしないといけないことがかかれているんで、役ごとに集まってスケジュール立ててください」
「裕人、しつもーん」
「なんだい、天馬」
「その台本の中身って、絶対? 」
裕人は鈴木さんに目配せする。すると、鈴木さんもうなずいた。
「えーと、たぶん実際に劇をやっていく中でいろいろと修正はあると思うけど、あんまり大きくは変わらないと思うよ。だから、背景班や衣装班とかに影響はないと思う」
「りょーかーい」
他に質問は? という問いに対して、手を挙げる者はいない。裕人は台本をみんなに配った後、それぞれのグループの座る席の代替の位置を決めて移動するように指示を出した。僕も、配られたばかりの台本と、筆箱を持って移動する。役者の人は教卓のすぐ前が集まる場所になっている。
「いやあ、どんな台本になってんのか楽しみだな」
「そうだね。変な話になってないといいけど」
女子が僕に女装させたいなんて言うのを聡介が言うから、心配でならない。役者十一人と、台本係の鈴木さん。そして文化委員の裕人の十三人が集まり、適当に椅子を並べて机の周りに集まった。
「それじゃあ、役者の話を始めるね。っていっても、今回は僕がここにいるけど、今後は基本的な指示は鈴木さんにしてもらうことになるから。まあ、僕が話すのもなんだから鈴木さんよろしく」
裕人が鈴木さんにバトンを渡し、今度は鈴木さんが話し始めた。
「台本役の鈴木です。とりあえず、役の配置を確認したいんだけど、白雪姫役の一人目が相原君。二人目が三浦君。魔女が加賀君。で、小人役が、長谷部君、一ノ瀬くん。守泰君。桐原さん、篠田さん。加宮さん。平松さん。それで、王子役が日向子ね」
最後の子だけ呼び捨てなのは、鈴木さんの昔っからの友達だから。それでも、なぜ女子が王子なのか。それは「女装するなら男装もあった方がいいよね」っていう、天馬の謎の発言が原因だった。しかしそれでもなお、なぜ普段大人しい七瀬さんが「王子」役で男装させられるのかはわからない。スポーツ特異な篠田さんや、ちょっと気の強い平松さんあたりがやった方があっているような気もする。ただ、顔で選ぶとすれば確かにダントツで七瀬さんだとは思う。このひとほど整った顔をしてる人は、このクラスにはいない。なるほど、やっぱり僕と同じような理由で男装するんだろう。つまり、「女子が男装させたいから」という。
まあ、そんな話は置いといて、僕は鈴木さんの話に耳を傾ける。
「とりあえず、今日みんなにやってもらいたいのは、セリフの確認です。白雪姫役の二人はもうどっちが先に出るかこちらで決めてるけど、小人役の七人の分は決めていないので、話し合ってセリフを決めてください」
小人役の人たちが、口々に了解の意を示す。僕と俊はもう決まってるらしいけど、どっちがどっちなんだろ。
「それと、もう一つ。文化祭の劇はみんな面白いギャグ要素を詰め込んでくるけど、このクラスはそれを極力避けて台本を書きました。つまり、本気の劇にするつもりなんです」
話を聞いていた十二人が、とても真剣な鈴木さんの言葉に頷いた。
「絶対に、私たちのクラスが優勝しましょう! 」
意外な力強い言葉に、僕らは笑みを浮かべていた。
うん。やってやろう。少し不本意な形での参加になったけど、絶対に優勝しよう。