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部活が終わってからの帰り道。隣にいるのはクラスきっての秀才で知られる長谷部聡介。前にも言った通り、同じ書道部の人だ。
さっきまでは快晴だったのに、今の空は少し灰色がかっている。あまりにも僕の心とマッチングしていて、少しさびしくなる。原因はもちろんあのことだ。
ほんと、なんで白雪姫役に選ばれたかなあ。
予想外の結果に嘆くしかないけど、友人が隣にいる手前あまりおかしなことはできない。盛大なため息をつくのは心のなかだけに押し止めた。かわりに、これ以上ないほど疲れた声でそのともだちに問いかける。
「ねえ聡介。なんでああなったんだと思う」
「『ああ』とは? 」
「『白雪姫』の配役」
「あー。そうだな」
聡介は少し考えるように腕を組んで、再び口を開いた。
「まずは、意外性があって面白いこと。あと、女子票が増えるから。かな」
「いや、一つ目はまだいいとして、二つ目は違うだろ」
「そうかな、イイセン言ってると思うんだけど」
うちの高校では偏差値八十くらいのルックスに、性格も温厚で信頼厚い俊はともかく、その幼馴染なだけの僕が女子から好印象だとは思えない。もちろん、俊に加えてスポーツ万能で顔もいい天馬まで幼馴染になっちゃってるわけで、自分としてもある程度のことには気を付けてる。それも身だしなみとか、必要最低限のことだけだ。
「もしかしてさあ、夕士は気づいてないの」
「何に」
「実は、夕士、女子の中で結構人気高いんだよ」
「それはさすがに嘘くさい」
そう、嘘くさい。けど、聡介の目は笑っている。これは、何か裏があるって疑った方がいいみたいだな。
「ほんとだよ。みんな『女装させたい』って言ってたし」
ああ、やっぱり、そっち系なんだ。そりゃそうだよね。純粋に僕が人気だとは思えない。
「純粋に『いいよね~』って言ってた人もいたけどね」
「もういいよ。決まったことをとやかく言っても仕方がないし」
「言い出したのは夕士だけどね」
「小さいことは気にしちゃダメだよ」
小さいことではないけど。ここで、『女装系男子』というまったくもってうれしくない称号を戴くわけにはいかない。かといって、どうすればいいのかはわからないけど。
「そういえばさあ、夕士ってバンドに参加するんだよね」
「うん、まあ。思い出づくりにね」
「いいね~。青春だね」
お前が言うか勉強バカめ。しかも、お前彼女いるだろ。ぜったい聡介の方が青春してると僕は思うよ。
「あ、そういえばオーディションあるって言ってたけど、どう? 完成しそう? 」
「……は? 」
心の中でとはいえ、罵って申し訳ない。聡介。もう一度言ってくれないか。
「あれ、知らなかったの? 後期補習に入ってから二週間しらた、文化祭に出るバンドを決めるためにオーディションをするんだよ。ここを通れなかったら、本番出れないんだけど……」
「しらなかった……」
まさか、そんなことがあるなんて。僕らはつい昨日バンドの結成が決まったばっかりだ。練習なんてまだ一回もしてないどころか、曲さえも決まってない。
これは、たいへんなことになったなあ。