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「で、突然だけどさぁ。なんかいい意見ある人いる? 」
――――いや裕人、それは唐突すぎるんじゃないのかな。
と思って心の中で突っ込みを入れたのだが、意外にもいくらか手が挙がっている。しかもその中の一つは僕の右隣の天馬。
たぶん、天馬が一番最初に当たるんだろう。で、あ次が篠田さんかな。天馬が手を挙げた時に一番最初に指名されるのは、一年の時から続く恒例行事になっている。それは、こいつが明るくて、面白くて、だめだしされてもへこまない前向きな性格をしてるからだ。ついでに、篠田さんも女子の割にハキハキしてて、いい人だ。
「それじゃあ、手は挙げてないけど夕士。なんかない? 」
「え? 」
あれ、なんで俺の名前が呼ばれてんだろ……。
「夕士、当てられてるよ? 」
いや、当てられてるのは知ってるけど……
「なんで僕なのさ裕人」
「いや、いつも天馬ばっかだと面白くないだろ。たまには側近の夕士にも当ててみたくもなるじゃないか」
クラスが笑いに包まれる。側近っていうのはよくわかんないけど、あまり目立たない僕がよく目立つ俊や天馬といつも一緒にいることを揶揄して裕人が即興で考えたんだと思う。
「いや、側近は違うから。ただの幼馴染で仲いいだけだから」
「ごめんごめん。悪かったよ。それで、案は無い? 」
そんないきなり聞かれても、全く考えてなかったんだから浮かぶわけないじゃないか。と思った僕の脳裏に、小学生の時に見たある有名劇団のミュージカルが浮かんだ。
「それじゃあ、ミュージカルがいいな。『美女と野獣』とか、『ロミオとジュリエット』とか、女装込みでやったら面白いと思うんだけど。ちなみにヒロインは女装はで俊にやらせます」
再び教室で笑いが起こる。まあ、咄嗟の思いつきにしては悪くないんじゃないかな。と僕も思う。
「本命の天馬。何か言いたいことは? 」
「そうだな、女装っていうので先越されちゃったんだけど、俺は『白雪姫』がいいと思う」
今度は笑いじゃなくて、感嘆の声が漏れる。
「『白雪姫』ね。おっけー、じゃあ、次。篠田さん」
「そうね......わたしは」
予想通り、裕人は篠田さんに振った。こんな風にして、大体十五分間くらいみんなの意見を聞いて、それが出尽くしたころ、裕人は多数決を取ろうと言い出した。
「みんないい意見だったからね。多数決が一番手っ取り早いじゃないか」
「裕人、今日の間に考えといてっていってたよね」
「俺もそう思ってたんだけど、みんな結構考えてくれたからこのまま行っちゃおっかなと。みんな、それでも問題ないよね」
クラスのみんなも大半が賛成のようだ。まあ、僕もクラスの大意に背く気はない。
「それじゃあ、多数決をとります」
裕人が案を言って、みんなが手を挙げる。それを何回か繰り返していく。僕のミュージカルの案は結局『ロミオとジュリエット』に決まったんだけど、意外と受けがいいらしく、天馬の『白雪姫』と同じ票数でトップだった。
「夕士の『ロミオとジュリエット』と天馬の『白雪姫』で決勝戦をします。俺が入ると引き分けになるかもしれないから、俺以外の三十九人で多数決します、あ、せっかくだからみんな伏せる?そっちの方が面白いよね」
みんな、この意見に賛成して顔を下に向ける。さすがは文化委員。面白いことを考える。僕もみんなと同じように机の上に顔を伏せた。
「それっじゃあ、『ロミオとジュリエット』! 」
威勢のいい裕人の声が教室に響いて、決勝戦が始まったのだった。