きつねのよめいり
初めての投稿です。
8割がたノンフィクションと思って読んで頂けたらと思います。
お気軽に、感想など書いて頂けると勉強になりますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
自分自身で言うのも何だが、私はすごく純粋に育った。
と同時に、父親が酒乱のDVだった事もあり、夢見がちな一面もあった。
現実逃避から、空想したりする時間が幸せだった。
ガラスが割れる音や怒鳴り声なんかより、耳を塞いで空想してる時間が幸せだった。
塞いだ両手を話せば、聞こえるのは荒れた音ばかり。
耳を塞いで、ひとりで歌を口ずさみながら過ごす時間が、私を純粋にしたのだと思う。
中学生になって初めて、『疑問』や『不信』といった感情が、日々経つ毎に音もなくパリッと、まるでグラスに少しずつ入るヒビのように、心を傷つけていく。
中学入りたての一年生から、内気な男子にストーカー行為をされた。
3校の小学校がひとつの中学校に行く形だった為、自分が卒業した学校以外の2校から来た人とは、初対面ということになる。
ストーカー行為の彼は、別の小学校から来た、名前も知らない人だった。
自分は相手を知らないのに、ストーカー行為の彼は、その人の家族から親戚までが、私の住所から生年月日から好きなこと…もう、ありとあらゆる事を知られていた。
彼から話しかけられる事はなくても、なにも言わずに廊下でじっと見ていたり、何故か自宅付近で頻繁に会ったりと、違和感のある不自然さがあった。
初めて、同級生に対して『怖い』と感じた。
そんな頃、同じクラスにいたヤンキーと呼ばれる男女に、話の流れで、世間話のように、ホントに軽い気持ちでそれをボヤいた。
…次の日から、ストーカー行為をしていた彼は、ヤンキー達のストレスの捌け口になっていた…
私は、そんなつもりでボヤいた訳じゃなかった。
ただ、その行為がちょっと怖いな、とボヤいただけだった。
まさか彼らが標的にするとは考えてなかった。
だって、彼らは、周囲からはヤンキーとか不良とか言われてたけど、私にとっては、笑って会話したりの普通の同級生でありクラスメイトだったから。
私のせいだ…って思った。
ストーキングしてた彼も悪いかも知れない。
でも、私も『最低』というジャンルの枠に入ってしまったように感じた。
幸い、自分がイジメの標的にされることはなかった。
その後も、こんな事を、他数人の地味な男子からされたりを繰り返し、やや人間不信気味になりつつあった私は、仲の良かった友人とも広く浅く付き合い、自然と自分の周りに壁を作り上げていった。
私の気持ちとは裏腹に、何故か分からないけれど、事あるごとに、私に何かあればヤンキー達が勝手に動いた。
何故だかはわからない。
ボヤくだけでも必要以上に痛め付ける人たち…と認識してからは、ボヤくことすらしなかったから。
私自身はといえば、運動部に所属し、大会の成績をいくつも残した。
自分が部活引退の頃には、校内でちょっとした有名人になっていた。
その間、異性からも同性からも告白されたけど、他人との距離を広く浅く保ってた私は、その全てを断ってひたすら部活と勉強にストレスをぶつけた。
自宅へ帰れば、相変わらず両親の喧嘩に巻き込まれ、父親からも母親からも、二人からDVを受けた。
時には、歳の離れた弟を守る楯になって殴られたりもした。
それでも、まだ腐ってはいなかったんだ。
まだ夢見がちだったんだ。
そうして私は、そのまま高校生になった。
誰も私の事を知らないだろう…という高校を、あえて選んで。
平穏に過ごした高校時代。
早く家から逃げたいが為に生活力が欲しかった私は、看護師への道を選んだ。
看護学校に一番の成績で合格し、両親に有無を言わせず家を出た。
でも…そこからは地獄の日々だった…
19歳の時にひょんな事から知り合った男性に付き合いたいと言われ、私も彼を好きになった。
「彼女いないの?」
「彼女?いないよぉ(笑)」
彼は温和な性格で、一緒にいて楽しかった。
5つ年上の彼は、営業マンとしてバリバリ働き、時々は残業で会う約束がパーになったりもしたけれど、仕事なら仕方ないし、嫌われたくなかったから、ものわかりの良い女を演じた。
本音では寂しくても。
そんな関係が3年続いた、ある夜。
彼に預けられたものを渡しそびれた私は、彼が困るんじゃないかと思い電話をした。
…彼の携帯電話に出たのは、紛れもなく女性だった。
そういえば妹さんがいるって言ってたなぁ…と、少し気まずいながらも問いかけてみた。
「あれ?妹さん…ですか?」
「妻です。」
一瞬、言葉が理解できなかった。
妻?つま?ツマ?ってなんだったっけ??
彼女は毅然とした口調でもう一度、
「妻の梨佳と申します。只今主人は寝ているのですが、主人とは、どのようなご関係ですか?」
とハッキリ言った。
私は、まだ状況が読み込めない。
彼女はいないって…妻ならいるけどって意味だったの?
私には婚約しようとまで言っておいて、自分はすでに結婚してたの?
『つま』って『妻』?
『主人は』って言ったから既婚者?
私、不倫していたの??
私、不倫相手だったの??
…言葉がでなかった。
全ての疑問の言葉が、濁流のように一気に脳に流れ込んできて、言葉がでない。
喉が一気にカラカラに乾燥していく。
息もできない。
「…『妻』って…結婚してたんですか……」
ショックを隠せずに、掠れた声でやっと出た言葉は、あまりにも幼稚なものだった。
電話の向こうの空気が変わるのを感じた。
「そっか…騙されちゃったんだね…」
彼女が、同情するような声で言った。
彼女の言葉を聞き、自分でもわかるほどに目を見開いたのち、一気に現実の波が押し寄せてきた。
ダマサレタ?
3年間幸せだった。
それは全部演じられたものだったの?
不倫は最低だと思ってたこの私が、不倫してたの?
「…結婚してるなんて知らなかった……」
電話ごし掠れた声のまま、ひとりごとのように呟いたのと、涙が溢れるのは同時だった。
最初は一筋…そのうち次から次へと涙が溢れてきた。
その後は、電話の声に気がついて起きたらしい彼と、梨佳さんの激しい争いの声が、電話の向こうから聞こえた。
茫然自失となっていた私は、電話から聞こえる罵声をしばらく聞いていた。
自分に何が起きたのか、言葉が理解できなくなってしまったのか…これは夢なのか…
電話の向こうから聞こえる二人がお互いに向ける罵詈雑言。
ゆっくりと自分の耳から電話を離し、私は静かに通話を切った。
朝まで泣き明かした。
静かに、声も出さずに、溢れる涙をそのままに。
後日、梨佳さんから電話があり、緊張しつつ電話に出たのだが、
「あなたは、ヤツに騙されてて知らなかったんだから、私に対して慰謝料とか、あなたには関係ないから!だから、気にしなくていいから。」
「……は…い…」
返事をしたものの、私の声は、急速に水分を失ったかのように掠れたままだった。
それから数ヵ月後。
梨佳さんと離婚した彼から電話がきた。
お前と結婚してやり直したい、と。
もちろん断った。
何度も何度も電話が来ても、しつこく毎回断り続けた。
やりきれない気持ち。
厚かましいって怒りの気持ち。
色んな気持ちのミックス…
けじめをつけようと決めた。
自分自身のために。
幸いとてもお酒に強い私は、いつも会う時にしていたのと同じように、最後に一緒にお酒でも飲んで終わりにしようと決めた。
本音は、真実を知った時のドロドロ濁流が脳を支配したまま、逃げるようにして終わりたくなかっただけだった。
そんな気持ちが、私に悪夢を見せてくれた。
彼は、私がお酒に強いことを、もちろん知っていた。お酒を飲むと、お手洗いが近くなる体質の事も。
彼は心療内科に通っていたらしい。
溜めに溜めた薬の一部を、濃いめのクセのある酒を飲んでた私のグラスに、私がトイレに立った隙に少しずつ入れ溶かしてたようだ。
一気に入れられたら、味も明らかに変わるし、さすがに少し酔っていても気がつく。
だけど、私自身、心のどこかで信じていたのかも知れない…
それにまさか、薬を盛られるとは予想外だった。
自分が、いつ眠ってしまったのかはわからない。
ボンヤリと目を開けた時に目の前にあったのは、首を吊った彼だった。
見たことないほど変わり果てた姿に変わって。
薬で頭がまわらない中、目の前に揺れる彼を見たまま、
『…ふーん…そっか……っていうか…なんで私動けない…??』
って、淡々と思ってるうちにまた眠ったらしい。
次に目を開けた時には、白い風景だった…病院の個室にいた。
当然ながら、天井からぶら下がってる、変わり果てた彼の姿もなかった。
誰が発見してくれたのか、何もわからない。
ただ、そこに両親も誰もいなかった。
数日後、動けるようになって鏡を見たら、白目部分が明らかな黄色になってて、自分が妖怪みたいに見えた。
自殺に見せかけるため?
無理心中のため?
彼は私の手首をバッサリ切たらしく、私の手首には包帯がぐるぐる。
痕残らないといいなぁ…なんてボンヤリ見てた。
私を発見したとき、彼は既に亡くなっていたらしい事は聞いた。
目の前で揺れてた彼…私が見たのは既に…
その事があってから、しばらくは、人が変わったように遊び狂った。
自分の居場所を見つけたくて探しだしたくて。
…でも、どこにも居場所なんてなかった。
笑っていても何をしていても、心の奥ではいつも冷めてる感情。
都会の片隅。行き交う人を眺めながら缶ビールをのんでいても、自分だけ別世界にいるような錯覚がした。
ヒトリボッチか…
何本目かの缶ビールをあおる。
いくら飲んでも、何を飲んでも、全く酔えなかった。
ナンパやキャッチや勘違いなオヤジ達は徹底無視した。
いつしか冬が来て雪がちらつくようになる頃には、飲み物はウォッカになった。それでも、相変わらず道行く人を眺めながら。
ウォッカは寒さに強くなれていい。
だけど、どんなに探しても見つからないんだ…自分の居場所が。
桜の咲く季節になっても、赤や黄色の葉が枚落ちる季節が来ても、イルミネーションに彩られた華やかなイベントが来ても。
感動も何も感じなかった。
心が壊れてた。
何年も、何年も。
結婚、結婚、と周囲がうるさくなり始めた頃に、その頃軽く付き合ってた人と、お互いに適当な気持ちで結婚した。
お互いに、周囲からの結婚コールに辟易していたから。
でも、愛なんてものはそこにはない。
ドライな関係の結婚。
ルームシェアに近い感じで、二人で過ごすなんて甘いものは必要としなかった。
思えば、結婚しても、最初からほとんど二人きりでなんていなかった。
そのまま自由に放置してたら、いつのまにか10年も経ってた。
思えば10年間、結婚っていう名前だけの『ルームシェア』をしていた。
そのうち、相手が仕事で嫌なことがあると、決して外からは見えない、足や脇腹なんかを笑顔で思い切り蹴られるようになった。
笑顔で。
それが、幼少時代の記憶と重なり、私はPTSDを発症した。
本当に突然だった。
息も出来ない苦しさと、日によっては寝たきりで、空を見上げて身動きひとつ出来なくなった。
何を食べても、味がしなくなった。
笑うこともなくなって、玄関のチャイムや、電話の呼び音に過呼吸をおこした。
何を食べても味はしないし楽しくないから、いつからか水だけ飲んでいれば満足な日々になった。
まだ理性の残ってた私は、これ以上は危険だと判断し、そっと荷物をまとめて家を出て弁護士をたて、生まれて初めて、心療内科の扉を『患者』として通った。
離れたことが幸いし、思いの外トントン拍子に快方に向かった。
薬も最初の頃こそ増えたものの、減薬の段階に入るのも早かった。
今はもう、お守り程度に頓服薬としてカバンにいれてるだけで、全く使っていない。
どしゃぶりの雨の深夜、私は二度目の結婚をした。
PTSDの元凶となった実家には帰れない。
私には、帰る家もなかった。
きつねの嫁入りは、雨の深夜に行われると、昔聞いたことがある。
警察に行き、消息願いを出されても断るよう被害届をだし、役所にも、私本人しか所在をわからなくするよう手続きをした。
どしゃぶりの深夜の婚姻届。
感情を失っていても、それでもいいから一緒にいてくれ、と言ってくれた人のところに行く事にした。
きつねの嫁入り…
神隠しと思い、もう誰も私を探さないで欲しい。
現在は少しずつですが、感情を取り戻してきたようです。
若年齢の頃に沢山の経験をさせていただき、ある意味、自分の人生に感謝しています。
書き方に慣れない文章だったかと思いますが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。