雨
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朝からぱらぱらと雨は降っていたのに。
俺の数メートル先を歩く男は傘をささず、ややうつむいて前屈みに駅までの道を歩いていた。
風が無いのがまだ救いかも知れない。
その背中には見覚えがあった。
いつも、見ていたからだ。
高校生活三年間、盗むように見ていたからだ。
同級生の皮を被って過ごす日々。
その黒髪に何度触れたいと思ったか知れない。
彼が笑う度、俺は自分を殺したくて仕方がなかった。
良い人間に見られたかったから、いつも背筋を伸ばし笑っていようとした。
少しでも彼の記憶に残りたくて、それでも友人なんてポジションにおさまる程の積極性も勇気も無かった。
生徒会長にでもなったら覚えてくれるかもなあ、なんて馬鹿な事を思ってそれを実行したりもした。
結局、話す機会があるのは数度で、それが余計に思いを強くさせた。
俺の中に勝手に理想の彼を築いているのかも知れない。
人が人を好きになる理由はなんなのだろう。
俺はあんたが好きだよ。
濡れて色の濃くなった肩に、傘を差し向けた。
唐突に止んだ雨に、彼は立ち止まって振り返る。
「……久し振り、俺の事覚えてる?」
束になってしまった彼の前髪から、ぽたりと鼻に雨滴が落ちた。
「覚えてる。久し振り、会長」




