心機一転
鳳 一騎
たった今から高校1年になる。
星陵学園は県内きっての進学校だ。私立だけあって金銭的にも県下一である。
一騎は公立の高校へと進学するつもりでいた。
だが成績が割とよかったため担任の教師および校長に泣きつかれ、ため息交じりに受験を承諾したのだが余裕で合格。
倍率も高く並みの成績では受験する事もできず、願書での審査があると噂される程の学園にだ。
そこに通う生徒は特に優秀な者が多く、大手企業の御曹司やら政治家の子息子女やらが多いと聞く。
一騎の家族は両親と姉二人。家族である俺が言うと贔屓目だと思われるかもしれないが、ご近所でも評判の美形一家だ。
ただしその中に俺は含まれていない。
何故かはわからないが、俺は両親のどちらにも似ていないという不思議現象にみまわれた。
幼いころは周囲に指摘される度に疎外感を感じ、思春期には血の繋がりさえ疑った。
両親に隠れてこっそり市役所まで行き戸籍を確認したくらいだ。
家族と共にいるのが嫌で、拒絶した事もあった。
けれども両親と姉たちの悲嘆にくれた様子に、俺の方が耐えきれず短い反抗期となった。
その時の事は今でも思い出すと、うざ・・げふんげふん・・とにかく今では外見ではなく中身の方は両親のいいところをもらったと思っている。
実際両親もこの学園出身だ。頭は良かったらしい。
なので俺がこの学園に進学する事を喜んでくれるかと思いきや、その逆で盛大に反対された。
もちろん姉たちにもだ。
その時の様子を思い出す。
「嫌!!ダメよ!ママは反対だわ!だって、そこは全寮制なのよ!?」
「パパも反対だ。一騎は可愛いし、大人しいからパパは心配だ!」
「私も嫌!一騎ちゃんが居なくなるなんて考えられないし!ね?麗羅」
「愛羅の言う通りよ。一騎ちゃんがいなかったら私寂しい。」
「でも、もう担任の先生も校長先生もその気になってるし。お金かかるから無理にとは言えないけど、俺も少し1人で頑張るのもいいかなと思って。自分がどのくらい出来るのか試してみたい。」
反対された事にやや落ち込んだものの、みんなが心配してくれているのは分かったので少し複雑だ。
それでも両親の出た学校に自分も行きたいと言う気持ちは変わらなかった。
そこに行く事で、家族の一員になれる気がした。
「父さんと、母さんが通ってた学校に俺も行きたいんだ。」
その一言に両親は渋々だが納得してくれた。
しかし姉達は納得しなかった。
「だめ!!絶対だめよ!一騎ちゃんがいなきゃ誰が愛羅たちのこと守ってくれるの!?」
「そうよ!!一騎ちゃん私達の事ずっと守ってくれるって言ってたじゃない!!」
「それは・・・」
愛羅と麗羅は誰から見ても美少女だ。
中学の時は常に傍には男子がいて、2人を守る騎士気取りのイケメン達に度々睨まれた。
ただ2人は傍にいるイケメンではなく、平凡な俺を何故か慕っていた。
何かトラブルが起こった時に頼ってくるのは必ず俺。傍にイケメンがいたとしても、必ず俺の所に逃げてくるのだ。
そして、そのトラブルを文句を言いながらも解決してやると2人は決まって「一騎ちゃん大好き。」と極上の笑顔で頬にキスをする。その笑顔に弱いのだ。
だってかわいいんだから仕方ない。守ってあげたいと思ってしまうのだ。
小さいころに約束した事を言いだした2人に、少し罪悪感が沸く。
最終的に泣いて訴える2人に、俺は言いたくなかったが切り札を出した。
「愛羅も麗羅も彼氏がいるんだから、もう俺が守ってあげなくても平気だろ。」
ぴたりと泣きやんだ2人を見て、やっぱりなと思った。
最近やけに2人ともめかしこんで出掛けていたり。
そわそわと携帯を眺めて、電話が来ると蕩けるような笑顔で長電話したり。
相変わらず自分にべたべたしてくるけど、以前よりは距離感を感じていた。
「なんで知ってるの?」
「そ、そうよ。なんで言ってないのに?」
頬を染めて睨んでくるその顔もやっぱり可愛い。
「そんなの見てれば分かるよ。愛ちゃんも、麗ちゃんも前よりもずっと可愛くなったし。きっとすごくいい人が傍に居て守ってくれてるんだろ??だったら、俺はちょっとくらい離れても大丈夫。」
にっこりと笑って2人に言う。2人にぴったりのいい男なんだろう?と仄めかして。
「えへへ、なんだ知ってたんだ?紹介しなくちゃとは思ってたんだよ?ね?麗羅。」
「うん。私達すごくいい人に出会えたの。同じ高校の先輩なんだ。」
2人してお互いの恋人を褒めつつ、のろけ初めた2人。そんな2人の話を笑顔で聞きながら、結局進路はそのまま変えることなく両親の承諾を得た事で願書を提出するに至った。
結局受験の時期になって思い出した2人に、盛大に反対され咎められ泣かれて困った事態になったが志望校が一択であったことが幸いした。
高校浪人などさせるわけにいかないと両親が説得してくれたのだ。
その結果2人も泣く泣く納得し、晴れて入学する事が出来たというわけだ。
今日から1人、この学園に通う。
ここには俺を知る人物はいない。
新しい生活に胸を躍らせながら、豪奢な門をくぐった。
閲覧ありがとうございました。