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恋人

ライナが出て行く音を背後に聞きながら、イサヤは美月を抱いて自分のベッドに飛び込んだ。美月は突然のことに体が動かず、ただ震えていた。

イサヤが美月に体を重ねて押さえ付け、口付けた。7歳から、一度もしたことのなかった口付け…でも、あの時のように優しい感じではなかった。イサヤはただ怒っていて、ただ美月のことを奪おうとしているだけだった。

イサヤ…嫌じゃない。きっと、私もイサヤが好きなんだ。でも、こんなイサヤは嫌。どうして、こんなになってやっと分かるんだろう…。

美月は、ぽろぽろと涙を流した。イサヤはずっと思ってくれてたんだ。私も思ってたんだ。なのに、お互いに言わなかったから、こんなことになってしまって…。このままこんな仲になっても、きっと辛いだけなのに…。

外が、暗くなって来ている。胸元に唇を寄せていたイサヤが、ふと動きを止めた。

「…美月。」

美月は、目を開けた。イサヤが、目に涙を溜めてこちらを見ていた。

「ここまで、大事にして来たっていうのに。」イサヤは声を詰まらせた。「オレは何をしようとしたんだ。」

美月はイサヤをじっと見た。

「イサヤ…。」

イサヤは、美月を抱き締めた。

「だが、愛しているんだ。オレは初めて会った時、お前を見てまるで雷が落ちたみたいに感じて、目を反らせなかった。ずっと一緒に居たいと思って、通う必要もない幼稚園から学校と、ずっと一緒に来た。国からはもう帰って来いと言われてる。だが、大学を卒業するまではと、父上もそれ以上何も言わなかった。卒業したら、お前を連れて帰るつもりで居たんだ。」

美月はイサヤを見つめた。イサヤは続けた。

「だが、お前はそんなつもりはなかったんだな。あの時のことは、子供の戯れと…。」

美月は首を振った。ここではっきり言っておかなればと思ったのだ。

「違うわ!イサヤ、私わかったの。イサヤが好きよ。でも、それが兄弟の気持ちなのか、それとも恋なのか分からずに居たの。だって、イサヤがあまりに何も言わないし、しないし、きっと妹みたいに思ってるんだろうなって…期待したら、つらいから…。イサヤ、とてもモテるし、それに小さな頃から綺麗な顔だったけど、そんなに凛々しくなってしまって。気おくれしていたの。」

イサヤは上から美月をじっと見た。

「美月だって、こんなに綺麗じゃねぇか。オレはお前以外は考えたことはない。オレと共に、国へ来てくれないか。大学を卒業するまでは待つ。だから、一緒に帰国しよう。」

美月は涙ぐみながら微笑んだ。

「ええ。イサヤ…愛してるわ。」

イサヤが、涙を一筋落とした。

「…そうか。よかった…オレも、どうしたらいいのか分からなかっただけなんだ。これからは、恋人同士とやらになれるようにすればいいのか。」

美月は笑った。

「そうね。私も彼氏が居たことがないから、どんな感じが恋人同士なのか分からないのだけど。」

イサヤが頷いた。

「オレもだ。とりあえずライナに調べさせておく。」

美月はイサヤをまじまじと見た。本当に綺麗な顔…この人が生きて動いているなんて。私を愛してると言ってくれるなんて…。

「ふふ、子供の頃みたい。」

イサヤは笑った。

「そうだな。小さな頃はこうして一緒に寝たもんだ。」と唇を寄せた。「だが、もう大きくなったぞ?」

「イサヤ…。」

二人は、唇を寄せた。今度は、とても優しく深く、愛情深い口づけだった。

そしてそのまま、何事もなかったかのように、二人は寄り添ったまま眠ったのだった。


二人はそういう意識をしていた訳ではなかったのだが、回りから見たら、十分に恋人同士だったらしい。

ある日、思い切って結奈に話した時、悲しげに頷いて、言った。

「知ってたよ。でも、美月気を使ってくれて何も言わなかったでしょう?だから、それに甘えちゃって、ついつい手紙書いたり、いろいろしちゃったの、黎貴くんに。」結奈は寂しげに微笑んだ。「でも、話してくれたってことは、何か約束でもしたの?」

美月は下を向いた。

「実は、小学生の時に結婚するって約束していたの。でも、子供の口約束だと思っていたら、イサヤは覚えていて、大学を卒業したら一緒に国へ来て欲しいって…。」

結奈は、驚いたように口を押えた。

「まあ!じゃあ、そんなに小さな頃からなの?」

美月は自信なさげに頷いた。一緒に居るのはそうだけど、完全に意識したのはついこの間なんだけど…。

結奈はホッと息を付いた。

「そう、仕方ないわね。それじゃあ、私は勝てるはずないもの。やっぱり私には、日本人かな?」と結奈はわざとおどけて見せた。「ねえ美月、付き合って。私、サークルの勧誘受けようと思ってるんだ~。」

なになに?と手作りのチラシを見た美月は、表情を曇らせた。ここは、三島の言っていた、あのアウトドア&飲み会サークルというやつだ。それを見て、結奈は苦笑した。

「ごめん…きっと嫌かなとは思ったんだけど。美月、三島さんにすごい気に入られてるもんね。でも、私、田端さんにずっと誘われてるの…ほら、バスケのサークルにも入ってた人。」

美月は思い出した。そう言えば、イサヤを誘いに来たのも田端だった。背が高くて嫌味のない、とてもさわやかな感じの明るい快活な男だった。結奈はおとなしめのお嬢様な感じで、密かに男子に人気があったのは知っている。あの人なら、結奈がもしも付き合うってなっても、いいかな。

美月は、頷いた。

「入るのは無理だと思うんだ…イサヤ、結構そういうのうるさいから。でも、勧誘の飲み会でしょ?それだけなら、行ってもいいよ。」

結奈は、とても嬉しそうに立ち上がって笑った。

「わあ、ありがとう!美月、きっとよ!明日の7時だからね?黎貴君は連れて来ちゃ駄目よ?女子が皆そっちばっかり見て、男子がむくれちゃう。」

美月は困ったように頷いた。

「わかったわ。じゃあ、明日7時にね。」

振り返ると、イサヤが立っていた。美月は立ち上がりながら、そちらに向かって歩いて、イサヤはライナに調べさせた通りに、美月の肩を抱いてそこから歩き去って行く。

そんな二人を見送りながら、角を曲がった時、結奈の表情は驚くほど険しかった。


イサヤが眉を寄せた。

「なんだって?あいつの来る飲み会だって?」

帰ってからイサヤの屋敷に戻り、部屋で座って話していたのだ。美月は頷いて、弁解するように言った。

「あのね、田端さんが結菜を誘ってるらしいの。ね、私イサヤのことを結菜にちゃんと話したから、新しい恋に前向きになろうとしてくれてるのよ。だから、お願い。二人きりじゃないの、たくさん来るから。」

イサヤは、本人はあまり意識していないが、美しい美月の顔を見た。

「なら、オレも行く。」

美月は首を振った。

「イサヤはモテすぎるのよ。他の男子が大変だから、遠慮してほしいと結菜が言ってた。」

イサヤは考え込むような顔をした。

「…なあ美月、女ってのは分からねぇもんだぞ。結菜だって、お前が思ってるほどいいやつじゃねぇかも…。」

美月は、イサヤを見て眉を寄せた。

「なんてこと言うのよ。高校からずっと見てたけど、いい子よ?人付き合いが苦手みたいだから、うまく表現出来ないだけで。」

イサヤは、首を振った。

「お前は誰でも信用し過ぎるんだ。結菜だって、女なんだぞ。」

美月は憤って立ち上がった。

「私の友達よ?悪く言わないで!」

「違う、話を聞け!」

イサヤを見ずに、美月は後ろを向いた。

「もう、いい。帰る。」

「美月!」

美月は、怒りながらそこを後にした。いくら心配だからって、結奈まで悪く言うなんて、イサヤなんか嫌い!

美月は怒ったまま、その日は布団に入ったのだった。

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