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繰り返し

イスリークは、虎の宮を臨む位置まで来てから、人型に戻った。高く宮を臨みながら浮いて見下ろす宮は、確かに結界と、何か他の術で覆われ、中の気を見通す事が出来なかった。

「…なんと鬱陶しい術ぞ。」

イスリークが言うのに、十六夜が言った。

「これを破る呪がある。」と、ギリシュを見た。「義心、お前も思い出したなら知っているだろう。厄介な仙術だ。まさかこれがまた使われる時が来るとはな。」

ギリシュは、頷いた。

「知っておる。だが、今それを使って良いのか。あれに、こちらにも仙術を使えるものがおるのだということを、まだ知らせぬ方が良いのではないのか。」

イスリークが、ギリシュを見た。

「確かにの。何を企んでおるのか分からぬのだ。その仙術とやらが、我らの知らぬ術であるのは明確ぞ。あちらの地には、こんなものは無かった。」

十六夜は頷いた。

「これは、一度滅ぶ前の人が修行をして仙人というものになり、その仙人が自分達にも術が使えるようにと編み出したものだ。なので、神にも使えるし神が使うとより強力になるが、神自身はその存在の全てを知る訳ではない。人が書き残した、膨大な量の巻物から、その術を学ぶんだ。」と、そこまで言ってハッとした。「…そうか、虎。ここは虎の宮の跡だったな。砦に建て変えたとはいえ、どこかに仙術が遺されていたのかもしれないな。虎は、仙術をいくつか知っていた。」

イスリークは刀を抜いた。

「ふん。それならば力で破れば済む。大概の術は、術者が死ねば破れるだろう。片っ端から斬れば良いのよ。」

薄っすらと光るイスリークの目に、十六夜は維心を見た。間違いない…これは、維心だ。本人は、全く気付いていないだろうが…。

そんな十六夜の思惑には気付かず、イスリークは命じた。

「行くぞ!全軍宮へ!全て斬り捨てよ!」

敵の軍神達が、次々に集結して来ているのが見えていたが、イスリークはそのただ中へ斬り込んで入った。龍軍はそれに続いたのだった。


その頃、旧鳥の宮南の砦跡のドミナスでは、ルイがその知らせに腰を上げていた。

「…なんと。では、ラミエ王は妃を取り返す為にマーラスへ攻め入ったと申すか。」

ルイの筆頭軍神、エンシが頭を下げた。

「は、誠に迅速に動かれた由、今頃はもう、マーラスの宮へ到着して攻め入っている最中ではないかと。」

ルイは、炎嘉としての記憶のほうが強かった。前世、維心が、維月を取り返そうと、記憶を無くしておるにも関わらず、迅速に鳥の宮と虎の宮を殲滅させた時…。自分は、維月を求めるあまり、あの最中に維月を気を遮断する膜に篭め、連れ去った。結局は見つけられたが、それからも維心は、自分を友と呼び、共に生きた…。

しかし、あの時とは状況が違った。あの時も記憶を失っていたとはいえ、その時点で維心は維心だった。しかし、今は異国の地の王だった龍に過ぎない…地の利が、全くない。ルイは、エンシに命じた。

「我らも出る。一万ほどで良い。ついて参れ。」

エンシは、驚いたような顔をした。

「しかし王、ラミエナはそのように早く出撃するような間柄ではありませぬが…。」

ルイは、甲冑に腕を通しながら言った。

「恩があるゆえな。ついて参れ、エンシ。」

エンシは、頭を下げた。

「は!王。」

ルイも、炎嘉の記憶の中では慣れた虎の宮へと向かって飛び立った。


イスリークは、素早かった。

ギリシュがぴったりと横に付き、寸分たがわぬ動きでイスリークを補佐して宮へと攻め入った。ギリシュは、イスリークより数十年早く生まれて、その才能を買われ、生まれた世継ぎの皇子、イスリーク付きの軍神として幼い時よりずっとついて来たのだ。なので、イスリークのくせも、どんな時に補佐をすれば良いのかも、経験で知っていた。加えて義心の記憶が戻ったギリシュにとって、イスリークのことに関して知らぬことはないようになっていたのだ。

「ギリシュ!我は宮へ入る!回りの邪魔者は軍神達に相手をさせよ!」

イスリークはそう言い置くと、さっと急降下して宮の窓を破って入った。ギリシュは回りの軍神に頷き掛けてすぐにその後を追った。

イスリークは、斬り掛かって来る敵の軍神など歯牙にもかけないほど素早かった。イスリークの通った後は皆、いつ斬られたのかも分からないまま倒れて行く。ギリシュは、なぜか不安を覚えた…あの時、虎族を殲滅するように命じられ、ここに攻め入ったのは、自分。ここで、何か気を付けねばならぬことがあったのではなかったか。

ギリシュは、戻ったばかりの記憶をたどった。前の王なら、当然のように知っていたこと。わざわざ、自分にそれを教えてくれたのは、維心その人だった。だが、今のイスリークはその時の記憶がない…。

ギリシュがなんとか思い出そうとしていた時、イスリークが不意に振り返って言った。

「ギリシュ、王が居るのはどっちぞ!」

ギリシュは、左の通路を指した。

「あちら、回廊を行った先を左へ参るのが一番の近道でありまする。ですが王、ここは確か仕掛けがあったはず。あれを復活させておったら、こちらは不利でありまする。」

イスリークは眉を寄せた。

「そんなもの気にならぬわ!」

イスリークは先を急いだ。ギリシュは、必死に考えた。前世、王がくれぐれもと言ったこと。敵の居なかった龍王が、警戒した宮の仕掛けとはなんであったか。

しかし、イスリークが止まる様子はなかった。回廊を進み、次々に出て来る軍神達をその行く先に転がして、行く。すると、開けた先に大きな扉があった。

「ここか!」

イスリークは叫んでその戸を気で一気に吹き飛ばして開いた。すると、そこには遠く正面の王座にシンタが座っていた。

「よう来たの、龍王よ。」

イスリークは、その横に手を後ろ手に縛られた維月を見た。

「…よくも我が妃をそのような目に。許さぬ!」

しかし、維月が叫んだ。

「イスリーク様!なりませぬ!義心!止めて!んー!!」

後ろに居たスーラが、維月の口を塞ぐ。イスリークは飛んだ。

「滅してくれるわ!」

すると、そこの床が開き、脇に隠れていた軍神達が何かの術をイスリークに向かって発した。イスリークは事もなげにそれを凌ごうとしたが、その術はイスリークの結界を抜けてもろにイスリークに当たった。

「う…!」

イスリークは、途端に力を失って開いた床下へと落ちて行く。維月がスーラの手を振り払って叫んだ。

「イスリーク様!」

「そやつもやれ!」

シンタがギリシュを指して叫ぶ。維月がそれを聞いて言った。

「義心!龍封じよ!龍封じの仙術よ!」

ギリシュは、それを聞いて思い出した。そう、龍封じ…!王が言っていたのは、命懸けで掛けて来るこの龍封じの術のことだった!

ギリシュは、すぐに前世習得した盾の呪文を発して、その術を跳ね返した。そして、イスリークを追って床下へと飛び降りた。

「追え!あやつは仙術を知っておるぞ!」

しかし、ギリシュは中からその床板を跳ね上げて閉じた。シンタは、歯ぎしりした。

「早よう追え!地下へ!確かに龍王が串刺しになっておることを確かめて、あやつを殺れ!」

維月は、涙を流した。維心様…!下は大きな針の山だと聞いている。力を封じられて、人のように落ちてしまったなら、今頃は…!

「なんてことを!」維月は叫んだ。「あなたもこちらへ移住することを手配したかたなのに!恥を知ればいいわ!」

シンタは維月を振り返った。

「うるさいわ!あやつが死ねば龍軍など恐れることはない!ラミエナがなんだというのだ!この地の王は、我がなるのだ!」

維月はうなだれた。そう、人も神も、この権力欲から逃れることはないのかもしれない。何度生まれ変わり、転生しても、この心の闇、黒い霧を生む負の想いは、消え去ることはないのかもしれない…。

繰り返す歴史の中で、維月は自分の無力さを感じていた。

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