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歩いて来た道

蒼と共にイスリークと美月が戻って来たのは、夕方になる頃だった。蒼の居間へ戻ると、碧黎が眠っているイサヤの横に座っていた。

「イサヤは疲れたのか?振り分けは決まっておるか。」

蒼が問うと、碧黎は首を振った。

「振り分けは決まったが、十六夜は寝ておるのではない。我が頭の中を見たゆえ、気を失っているのだ。」

美月が驚いてイサヤに駆け寄った。

「お父様…!そんな、イサヤは大丈夫なのですか?」

碧黎は微笑んだ。

「大事ないぞ、維月。おそらく膨大な記憶を整理しておるのだ。もう直に気が付くであろう。」

イスリークが、驚いた顔をして碧黎を見た。

「イサヤは、思い出すのか。我も記憶が欲しい。碧黎殿、同じようにしてくれぬか。」

碧黎はじっとイスリークを見ていたが、首を振った。

「主は己で思い出す方が良い。主らがどんな覚悟で転生したのか分かった。己の力で取り戻せ。その方が良い。」

美月は、イサヤを見た。一体、どんな記憶を見ているの。その中には、私も居るの…。

イスリークが、諦めたように下を向いた。そして、そこに置いてある巻物に目を止め、それを持ち上げた。

「イサヤと主が振り分けたものか。」

イスリークは巻物を開けた。蒼も横から覗き込む。ラミエナは龍の宮、ミリオナは月の宮にほど近い白虎の宮に振り分けられている。次の大国、ドミナスは、南の砦の辺りにあった。蒼は顔をしかめた。

「…そうか。この巻物しかなかったために、まだ鳥の宮があった頃の分布図であったのだな。虎の宮も、あの頃には全て龍の領地に変わって今は西の砦になっておったものを。こうして振り分けられてしもうて…碧黎、主はイサヤに教えなかったのか。」

碧黎は、蒼を見た。

「これで良いと思うた。今の龍の宮は、維心の頃と違ってあの砦まで治めるだけの力はない。それに、イスリークとしての記憶しかない維心が、最初から全て管理できるか疑問ぞ。なので、ちょうど良いと思うてこのままにしたのだ。蒼、いきなりこの地に連れて来られた龍の軍神達が、広く守れると思うか?今残っておる龍達だけでは、監督しきれまいに。」

蒼は、もっともだと思った。元々、諍いがあって龍の領地になっていただけの場所。この方が、龍も守りやすいだろう。イスリークが頷いた。

「それに、ドミナスは鳥族。昔鳥が守った地であるなら、そのほうが良いであろうな。」

蒼は驚いてイスリークを見た。

「ドミナスは、鳥なのか?」

それにはイスリークのほうが驚いた。

「そうだ。何をそんなに驚くのだ。」

蒼は、炎嘉のことを考えていたのだ。炎嘉が、転生して来ないはずはない。自分と二人、生き残った者として必死に世を落ち着かせてくれた。そして、寿命が尽きて逝く時、必ずまた戻って来て蒼を助けてくれると言って、旅立って逝った。炎嘉は、王。間違いなく王の器なのだ。ならば、おそらくそれに近しい場に転生しているはず。あの時は龍だったが、もしかして、鳥として…。

「その王に、会ってみたいものぞ。」

イスリークは頷いた。

「すぐにでもの。あちらは今、イサヤが降ろす気を命の気として皆生きておる状態。一番先にこちらへ来なければならぬのだ。」

蒼は頷いた。

「西と南の砦跡は、定期的に清掃しておるゆえ、今すぐにでも使える状態であろう。しかし、宮として使うなら、ある程度は手を加えねばならぬであろうがの。南の砦は、類稀な軍神であったものが設計したもの。おそらく気に入るだろうとは思う。」

イスリークは、頭を下げた。

「感謝し申す。とにかく早急にこれを布告せねばならぬ。ミリオナもそうであるが、我の民の数も多い。あれを一度にこちらへ移すのは無理であるから、段階を踏んで移動させねば。その上、ミリオナの方が入る宮は荒れておるのだろう。」

蒼は重々しく頷いた。

「この千数百年の間、誰も立ち入っておらぬ。遺体などもそのまま…おそらく、もう塵になっておろうが、そんなものまで片付ける必要がある。我とて何とかしてやりたかったが、あの折は王族を葬って回るので精一杯であってな。何しろ、この地には300以上の宮があった。全ての民を葬るには、残った我らでは荷が重かったのだ。」

イスリークは、その惨状を思った。蒼は、そんなものまで目にして来たのだ。この重い雰囲気は、そこから出ているのであろう。

「では、まずは軍神にそれらを埋葬する命を下そうぞ。」と、イサヤを見た。「気付いてくれぬことには、我がこやつの民に命を下す訳には行かぬ。」

碧黎がイサヤを見た。

「もう半時かの。」と、イサヤの額に触れた。「こやつは十六夜として目が覚める。もちろんイサヤの記憶もあるが、十六夜として過ごした時間に比べれば僅かな時しかイサヤではなかったからの。主が、ミリオナとやらの王の代行に話しを付けよ。それから、こやつにはそちらへ向かわせるゆえ。」

イスリークは、ためらいがちに頷いた。

「美月、主は引き続きここに居れ。ここは何よりも安全ぞ。我はあの地の神を安全な場に移してやらねばならぬ。」

美月は頷いた。

「イスリーク様、どうか、お気を付けて。」

イスリークは頷いて微笑むと、そっと美月の頬に触れ、そして窓から空へと飛び立って行った。


十六夜は、自分の髪を優しく撫でる手を感じて目を開けた。懐かしい。維月の気だ…。

「維月…。」

十六夜が手を伸ばすと、相手はためらいがちに十六夜を見た。

「イサヤ…?」

十六夜は、ハッとした。そう、自分はイサヤ・黎貴。オレは転生した…。

「…美月か。」十六夜は、微笑んだ。「悪かった。お前はまだ記憶が戻っていないんだな。」

美月は頷いた。

「イスリーク様もなの…。イサヤ、私のこと、どう思う?あの、思い出してみて、やっぱり結婚してても良かったと思う…?」

十六夜は、そんな美月を見て、笑った。何を心配しているんだ。そうか、維月はまだ美月でしかないからか。

「前世を思い出して、結婚したのは当然だったと思う。」十六夜は答えて、美月に唇を寄せた。「大丈夫、思い出したからって、今生のことを忘れたわけじゃねぇ。オレ達はやっぱり幼い頃からずっと一緒だ…何度生まれ変わっても、何も覚えてなくても、ずっとな。安心しな。」

美月はホッとしたように十六夜に抱きついた。

「ああイサヤ…十六夜と呼んだほうがいいの?」

十六夜は美月を抱き締めながら答えた。

「どっちでもいい。どっちもお前がオレを呼んでるには変わりねぇし。まあ、お前が思い出してからいい方で呼びな。」

美月は微笑んで頷いた。

「分かったわ。でも、なんだか懐かしいの…この部屋、イサヤと二人、こうして庭を向いて、二人で一緒に居るのって…。」

十六夜は、寝かされていた部屋を見回した。そこは、ずっと自分達の部屋として使っていた場所。懐かしいのも、道理だ。オレだって、ここがこんなに懐かしい…。

「蒼に会いに行く。」十六夜は立ち上がった。「それから、オレはあっちを何とかして来なきゃな。従兄弟に王座を譲ると言ったが、譲位まではオレが指揮を取ると約束して来たんだ。さあ、い…美月。」十六夜は言いにくそうに言った。「行こう。」

美月は苦笑して、十六夜と共に蒼の居間へと向かった。


蒼は、自分の居間へ入って来た美月とイサヤを見て、椅子を示した。

「ああ、気が付いたのか。座るが良い。」

イサヤは、じっと蒼を見つめた。その目は、潤んでいるようだった。蒼は、不思議そうに言った。

「イサヤ?どうしたのだ。」

イサヤは、言った。

「蒼…すまねぇ。オレは、人や神に嫌気がさしちまってたんだ。お前のことなんて、考えてもいなかった。ついこの間、維心がオレに見せるまで…あいつは、死んでもまだ自分の一族のこと、それにお前のことを案じて見ていたんだよ。あいつは世を立て直すと言った…だから、オレも転生した。オレは何回生まれ変わっても、結局維心には敵わねぇんだよ。」

蒼は、驚いた顔をして絶句した。そしてしばらくまじまじとイサヤの顔を見ていたが、言った。

「十六夜…思い出したのか…?今度こそ、本当に?何もかも?」

イサヤは、涙ぐんだまま頷いた。

「ああ。全部な。」

蒼は、涙を流して、震える唇から何かを言おうとしたが、無理だった。そして、突然に抱きついた。

「十六夜…!十六夜、オレ、ここまで頑張ったんだよ…!」

美月は驚いた。まるで、人のような言葉使い…。しかしイサヤは、涙を流して蒼を抱き締めた。

「分かってるよ。よくやったじゃねぇか。よくここまで守って来たな。」

美月は、分からないながらも涙がこみ上げて来るのを抑えられなかった。何かの記憶が告げる、この蒼という王のことを考えると、どうしても抑えられなかったのだ。

蒼は、そのまましばらく泣き続けていた。

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