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もう一度

イサヤは、碧黎に手伝われ、あの地のもの達の振り分けを考えた。満足して巻物を巻いていると、碧黎が言った。

「何度転生しても、その姿は変わらぬの。十六夜…やはり維月を維心と分け合うのだな。主らも複雑なものよ。」

イサヤは居心地悪げに碧黎を見た。

「好きでこんなことになった訳じゃねぇよ。ただ、イスリークには腹が立たない。それだけのことだ。」

碧黎はフフンと笑った。

「知っておる。だが、良い気もせぬだろうが。主らはうまくやっているようで、たまにお互いに嫉妬して諍いを起こしてのう…。だが、お互いに辛い時は維月の事でもフォローとやらをするのよ。なんやかんや言うても、仲は良かったの。」

イサヤはため息を付いた。まるで見られていたようだ。イスリークとは、小さな頃から何だかんだ言っても仲は良かった。自分が日本に来て居ても、良く念で話したものだ。帰ったら顔は見るが、しかしそれほどにあからさまに仲よくするわけでも無かった。それはいつも同い年の王だと比べられるのが鬱陶しかったからだった。イスリークが優秀なのは、回りに言われなくても分かっている。イサヤはそう思って、それがまた面白くなかったりもしていた。

「…なあ、オレは本当に十六夜とかいう月だったのか?月だったのは分かる。なんとなく覚えがあるからだ。」

碧黎は、考え込むようにじっとイサヤを見た。

「そうよな。」碧黎は、イサヤの頭に手を翳した。「本来、記憶は魂の奥底に沈んで転生の度に層になり、よみがえって来ることはない。しかし、主らは記憶を表層に残して転生することを考え、それを前回の転生の折には使っておった。しかし、どうも今回は違う。何を考えてどのようにしたのか、我にも分からぬのだが…少し探らせてもらおうかの。」

途端に、碧黎の手がグッと心を掴むような感覚がして、イサヤはよろめいた。眩暈がする…相手の記憶も、断片的に見えた。これは、心を繋いでいるのだ。それが、イサヤにも分かった。

澱のように沈んでいた、イサヤの記憶が碧黎の手によって巻き上げられるような感覚だった。湧き上って来る、膨大な記憶…前世は、驚くほど長い記憶だった。しばらくそれを見ていて、それが二回の生の記憶が一度にまとめられているからだと知った。つまりは、前回は転生した後も同じ記憶で引き続き生きたということなのだ。

イサヤは、その記憶の多さに圧倒された。飲まれる…!

そして、気を失った。

碧黎は、そんなイサヤをじっと見降ろした。

「…そうか。」碧黎は言った。「今生は、何もせずに来たのか。なのに、主らの魂は大したものよな。」

イサヤは、それを聞いては居ない。ただ、長い夢を見ているだけだった。


「十六夜。」

維心に呼ばれ、十六夜は振り返った。

「なんだどうした?」と、維心の表情が硬いのを見て取って、十六夜も表情を引き締めた。「何かあったのか。」

維心は、手を翳した。手の下に、まるで鏡のように丸いものが開き、その中には、地上の神達が見えた。

「…あの時、霧に憑かれた者を皆浄化することが出来ずに、全て滅するより他、戦を終結させる術がなかった。ゆえ、我と将維、明維、晃維、亮維、それに維明は、一斉に地に向かって力を放って、霧に憑かれた全ての者を消し去った…黄泉が大混雑したあの時ぞ。人も神も、霧ごと滅してしもうた。」

十六夜は頷いた。

「オレ達の力が及ばなかったからな…あの霧の量ではな。あの後、オレ達は必死に浄化の光を放った。広範囲過ぎて、気が尽きたからここへ来た。仕方がないだろう、あれより他にどうしようもなかったんだから。人も文明もあれで滅んで、僅かに生き残ったものが、今ではあの頃の繁栄を取り戻して来ていると言うじゃねぇか。」

維心は暗い顔をした。

「人はの。」と、自分が出したその鏡のようなものを見た。「十六夜、神はこうよ。残ったのは龍の宮ではほんの僅かな龍のみ。それも蒼に庇われたからこそ残った。月の宮の神だけ、無傷で残った。月の結界の中だったからの。霧も付いておらなんだ。」

十六夜は、その鏡を覗いた。映し出されたのは、完全に死に絶えて誰も居なくなってしまった、他の神の宮々だった。

「白虎の宮、鷹の宮、そのほか小さな神の宮々、神威の宮…」維心は次々に映し出した。「このように荒れ果てて。誰の気も感じられぬ。あるのは、蒼が大きく張った結界の中に、月の宮と龍の宮の神がおるのみ。」

十六夜は黙った。維心は、十六夜を見て続けた。

「我は、あれから皆平穏に生きておるのだとばかり思うておった。だが、実際は龍の宮では王を失い、広い領地をもてあまし放置し、南と西の砦は無人のまま。何に生きがいを見出せば良いのかもわからぬような、そんな毎日を送っておる。人がこのようにもう一度文明を作ったのに比べ、神は何もかもを諦めているようぞ。」と、鏡の中の場面を変えた。「見よ。これが今の蒼ぞ。」

十六夜は、息を飲んだ。

あの、穏やかで優しく明るかった蒼が、険しく眉根を寄せ、じっと一人居間に座って考え込んでいる。その姿は、まるで維心…たった一人で神の世を背負っていた、あの維心そのままだった。

「蒼…。」

十六夜は、聞こえないのを承知で、呼びかけた。蒼。オレ達はお前に不死の命を残し、王の責務を残して勝手に先にこっちへ来てしまった。維心はまだ寿命が尽きるのを待つことが出来たが、お前は…。

維心が、十六夜に頷き掛けた。

「蒼がどれほどに孤独であるのか、我には分かる。もう1700歳にもなるのだ。我らがこちらで安穏としておる間、あれは何度も別れを経験し、ああして生きて来た。我らは蒼に全て押し付けて、さっさと楽になってしもうたのだ。」

十六夜は、蒼を見つめ続けた。オレの息子。不死の命…。

考えに沈んでいる十六夜に、維心は言った。

「十六夜。我は転生する。」維心は言い切った。十六夜は維心を見た。「もう、ここで平穏にしておっても良いことは分かっておる。だがの、我には神達を放って置くことは出来ぬ。蒼も、このまま未来永劫たった一人で過ごさせる訳にも行かぬ。我は行く。維月も、我と共に行くと言うた。主、どうする?」

十六夜は考えた。人や神の愚かしさは嫌というほど思い知った。だが、蒼に全てを押し付けて放って置くことは、これ以上出来そうにもなかった。

「維月が行くと言ってるのに、オレが残るはずはないわな。だが、転生の原理は知ってるだろう?たまにおかしくはなるが、大体その魂に見合った位置へと転生する。前はどこに転生するのか分かっていたが、今回はまるで分からねぇぞ?もう二度と会えなくなるかも知れないんだ。」

維心は、グッと指輪を握った。

「のう、十六夜。もう、前と同じようには恐らく出来ぬ。転生のシステムも結構学習しよるゆえ、記憶を表層に残すことも無理であろう。だが、我らにはこの魂がある。これは力を持っている。我らが望んだものではなかったが、これを利用しない手はない。我らの生きて来た記憶を、この魂にしっかり刻んで転生しようぞ。思い出すのは前よりは困難やもしれぬ。だが、綺麗に洗い流されてなくなってしまうことは絶対にない。記憶を己の魂の内に取り込み、守って行こうぞ。」

十六夜は、まだじっと考え込んだまま沈んでいる蒼を、鏡の中に見た。そして、頷いた。

「わかった、行こう、維心。何もかも忘れちまうかもしれねぇ。だが、きっと思い出す。オレ達がやることは同じだ。維月を探すこと、蒼と一緒に地を守ること。この二つを成し遂げるために、きっと同じように動く。無意識にな。オレ達は、きっと会える。維月と、三人で。」

維心は頷いた。

そして強い意思の元、三人は転生した。維心は北の龍族の国ラミエナの世継ぎの王子、ルーク・イスリークとして、十六夜はミリオナの世継ぎの王子、イサヤ・黎貴として、そして、維月はなぜか一般家庭の一人娘の、人として。

そして皆、何も覚えていなかった。

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