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領地

蒼は、イサヤが事もなげに結界をすり抜けて入って来るのを感じていた。

イスリークもイサヤについて入ったので、月の結界は意味がなかった。やはり、この感覚は十六夜。蒼は、懐かしさも手伝って、気持ちが高揚するのを感じた。この千年以上、たった独りでこの地を守って来た。十六夜と維月が逝って、維心が逝って、維心を手伝った将維も逝って、その後一緒に地をまとめてくれていた炎嘉も、転生後の寿命を迎えて逝った。自分は取り残されて、膨大な記憶の中、たった独り僅かに残った神達を束ねて生きて行かねばならなかった。

維心が、同じような状態で居たことを思い出していたものだ。維心は父親を恨んで殺してしまってから、その罪を償うように1600年生きた。その命の終わる数十年前に、心の底から愛し合う者を見付けて、その間だけ幸せを感じながら生きたのだ。自分も、王になったからには皆を守らねばならない。それだけを心の支えにしていたら、あの頃の維心と同じ歳になってしまっていた…自分は、まだ孤独なままだった。このまま、ずっと皆が生まれて逝ってを見て生きて行くのかと、本当に闇の中を歩くような気になっていた。

それが、ここに来て十六夜が帰って来た。記憶はないまでも、あの命は十六夜の命。あれだけ自分と共に過ごした十六夜が、戻って来てくれた…。

思わず知らず、蒼は笑みがこぼれた。

そこへ、イサヤとイスリークが、美月を連れて入って来た。険しい顔をしている…恐らく、良くない状況なのだろう。イスリークが言った。

「蒼殿。お邪魔するが、良いか?」

蒼は頷いた。

「入るが良い。報告に参ってくれたのか?」

三人は蒼の前の椅子に座った。

「そうではないのだ。折り入って、頼みたいことがあって参った。」

蒼は両眉を上げた。

「頼み?我は月。イサヤが出来ることぐらいしか出来ぬぞ。」

イサヤが首を振った。

「蒼殿、実はドミナスの命の気の枯渇は、人の世の化学兵器が起こしたことだった。回りの国はもう、草も生えないほどの荒れようで、その薬品は、隣国、さらに隣国と伝わって来ている。オレが見ている限りでは、あの地はもう住めない。ミリオナもラミエナも、遅かれ早かれ同じ運命をたどる。」

蒼は驚いてイサヤを見た。では、あれは草木を枯らす薬品のために起こったことで、それゆえにドミナスは生きるため、回りの国へと侵攻していたと…。

「では、あの地はもう離れねばならぬの。」

蒼が言うのに、イスリークが頷いた。

「そうなのだ。こちらのことを聞きたい。どこか、我らが移住出来るような地はないだろうか。」

蒼は、眉を寄せた。

「ある。だがの、あの戦で滅んだ神達の宮と領地ぞ。我が今管理しておるのは、王が居なくなった龍の宮の旧領地のみ。他は、荒れるに任せておるゆえ、住めるようにするには時間も掛かろう。ここには、かなりの数の宮があった…300以上だったかの。それが、ここと龍の宮を除いて軒並み全滅したのだ。なので、住む場所だけというなら、ある。それから先は、住む者達の努力次第よの。」

イスリークは、ホッとした顔をした。

「良い。とりあえず、形があるのなら、そこを整備して住めば良いだけ。我ら、どこへ住めば良いのか蒼殿に指示頂ければ、そちらへ一族ごと移ろうほどに。」

蒼は、頷いて手を翳した。その手に、持っていなかった巻物がスッと現れた。

「旧領地の分布図ぞ。そこにあった宮の規模、領地の境界などを書いてある。主らの方でも、いくつかの国があろう…それらを、主らで振り分けよ。我にはそちらの規模など分からぬゆえの。しかし、イスリーク殿」と、蒼はイスリークを見た。「主は龍。主の種族は、皆龍か?」

イスリークは驚いた顔をしたが、頷いた。

「そうだ。我らは龍族。あの戦のあと、あの地に発生した龍だと言われておるが、我も、皆も深くは知らぬ。」

蒼は頷いた。

「では、主は龍の宮の王をしなければならぬの。我は月であるのに、こちらとあちら、全てを見ていて疲れておったのだ。龍族の王であるなら、同じこと。王の血筋が途絶えて久しく、あの宮は今は龍もかなり少なく、心細い雰囲気であるのだ。龍族は、史上最強だった。それがあのように衰退していくのを、見るに忍びぬのだ。」

イスリークは、分布図に視線を落とした。龍…かなりの広さの領地だ。これを、我が…。

「…今すぐ良いとは言えぬ。我は龍族とはいえ、違う発祥であるのだろうし、そこの龍達の意見も聞かねばの。」

蒼は頷きながら、苦笑した。

「主らしいの。では、早めに龍の宮へ参ろう。領地を早く決めねば、準備が出来ぬ。手付かずの宮は荒れ放題であるぞ。回りの民の家の事もある。急がねばな。」

イサヤがイスリークを見た。

「イスリーク、お前、蒼殿とすぐにでも龍の宮へ行け。オレは、この図面から適当に考えて振り分けておく。」

イスリークは、気遣わしげにイサヤを見た。

「しかし主、この地を知らぬだろう。そんなことが一人で出来るのか?」

イサヤは肩をすくめた。

「多分、地の人型が手伝ってくれるような気がするんだ。何でだか分からないが、あいつらはオレを手伝ってくれると分かる。」

蒼がそれを聞いて、目を細めた。

「確かにの。あやつらは、主を手助けするだろう。では、我はイスリーク殿を龍の宮へ案内しようぞ。」

イスリークは、ためらいがちに頷いた。

「参ろうぞ。」と、美月に手を差し出した。「主はどうする?共に見に参らぬか?」

美月の目は、イスリークを見ていなかった。イスリークの手に釘付けになっていたのだ…左手に光る、銀色の輪。あれは…。

イスリークは、怪訝な顔をした。

「…美月?どうした?」イスリークは視線の先を見た。「この輪が珍しいか?これは…」

蒼が、後を引き継いだ。

「生まれる時に左手に握り締めていた。」イスリークは驚いた顔をして蒼を見た。「違うか?」

イスリークは頷いた。

「なぜに知っておる。まさか…」

蒼は微笑んだ。

「前回の転生がそうだったからの。」

美月は、自分の左手を抱き締めた。イスリークは、その手を見た。

「美月、主、その輪はどうしたのだ。」

「私が生まれた時に」美月は、イスリークを見上げた。「左手に握り締めて…。」

イスリークは慌てて美月の手を掴んだ。そしてその指輪を見て、全く同じ輝きを放つそれに、目を潤ませた。

「そうか。」イスリークは、自分の指輪を取った。「見よ。」

中に、うっすらと「永久に共に 維心・維月」と読める字が彫ってある。美月も慌てて自分の指輪を抜いて、中を見た。そこには、薄くなって読み取りづらいとはいえ、確かに同じ文字が彫ってあるようだった。

「ああ…」美月は涙を流した。「そうなの。そうなのですね。イスリーク様は、維心様なのですわ。そして私は維月なのです。思い出せないけれど…。」

「そして、オレは、十六夜なんだろう。」イサヤが口を挟んだ。「断片的な夢を見た。オレは、月だ。いつも上から見ていた。イスリークと美月が居て、死んでも一緒にいると約した。オレ達は、一緒に転生したんだ。きっとそうだ。」

蒼が、満足げに頷いた。

「その通りだ。時間はある…思い出せるなら思い出せば良いし、そうでなければそれでも良い。もう、前世に囚われないため、記憶を持たずに来たのかも知れぬしの。」

美月は、イスリークの手を取った。

「参りましょう、龍の宮へ。」

イスリークは頷いた。

「我らの記憶を探りにの。」

蒼は目頭が熱くなるのを感じていた。維心様、母さん…。

三人は、龍の宮へと飛び立った。

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