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ミリオナ

二人はそれぞれの国へと飛んだ。

イサヤは姿を今ではまでの髪の色に戻し、王宮へ入った。日本の屋敷を大きくしたような造りの宮に降り立つと、従弟のレキヤが臣下と共に奥から走り出て来た。

「イサヤ!無事だったのか。王が…、」

「知っている。」イサヤは頷いた。「オレが間に合わなかった。父上は、急襲を受けたのだ。正確にはオレも助からなかった。」

レキヤが驚いた顔をしたが、慎重に気を読んだ。

「…主の気、変わっておる。その強大な力はなんだ?見ていて冷や汗が出て参るようぞ。」

イサヤは歩きながら話し出した。

「あちらの神に助けられた。月だ。オレの体はもうない。滅んだ。」

臣下が、イサヤを見上げた。

「しかし王子、そのお体は?体が無くなって生きていられるなど、聞いたこともありませぬ。」

イサヤは混乱する宮の中を歩いて謁見の間に入り、両側に急いで並び出す臣下達を見ながら、少しためらって玉座に座った。隣に、レキヤが立つ。

「皆に言わねばならぬ。オレは死んだ。敵の軍神に討たれたのだ。息があるうちにあちらの神に助けられ、体が滅ぶ前に命を切り離し、月に上げられた…今のオレは月。この体は実体化させたエネルギー体で、生物学的には存在しない。オレはここに座ったが、王にはなれぬ。レキヤが第二王位継承者だった。レキヤを王にせよ。」

皆がざわざわとした。

「ですが王子」臣下筆頭のネキアが言った。「王はあなた様を後継者にと、亡くなられる僅か数時間前にこちらへ使者を送って来られた。譲位なさるおつもりであられたのですぞ。」

イサヤは首を振った。

「父上が譲位なさるおつもりであられたのは、身を持っていた頃のオレだ。あれはもう死んだ。今のオレは不死なのだぞ。オレが未来永劫ここで王をする訳には行かぬ。月と神とは違うのだ。主らには主らの営みがある…オレがそこに組み込まれることがあってはならぬ。」

ネキアは絶句した。王子が不死…。

それを見て、イサヤは表情を緩めた。

「それに、オレよりもレキヤのほうが国のことには詳しいだろう。オレはずっと日本に居た。最近の近隣諸国の動向も、イスリークから聞いたほどだ。オレよりも、レキヤのほうが王に相応しいだろうよ。」と、レキヤを見た。「お前、王になれ。どうせオレが完全に死んでいたら、お前が王だったんだろう。」

レキヤが、首を振った。

「イサヤ、我には主ほどの力がない。今の主は最強であろう…王の気構えも、主のように幼い頃から育てられた訳ではなかったから、主ほどでは無い。今回のことも、どうすればいいのか途方に暮れておった。ドミナスは侵攻を速めている。」

イサヤは頷いた。

「今度のことは、収まるまでイスリークと連携して戦うと約して来た。オレが指示する。全て収まったら、お前がこの国を治めよ。オレは月に帰る。」

臣下達が顔を見合わせる。イサヤは、まだ納得していないような皆に、髪を元の青銀に戻して言った。

「見よ。オレの今の姿はこれぞ。主らに分かりやすいように元の姿に変えておったが、もうオレはオレではない。」と、立ち上がった。「この話はここまでぞ。軍を整えよ。ライナ、行け。一気にラミナスと共にドミナスを叩く。皆準備せよ!父上のご葬儀はそれを終えてからぞ!」

「は!」

皆が一斉に動く。

イサヤは甲冑を身に付け、軍と共に出陣した。


ドミナスの軍神達は、疲弊していた。

隣国へ侵攻すると、そこで気を補充出来るが、本拠地であるドミナスへ戻れば、食物を採って気を補充しなければならない。それが、大きな気を使う軍神達の体に負担を強いていた。

それでも、本国に残された妻子の為に、軍神達は必死に戦っていた。その領地を手にしなければ、皆の命が危ない。生きるためには、どうしても戦って勝たねばならない。それを背負い、軍神達は無我夢中であった。

ルイも、そんな軍神達の気持ちは分かっていた。

しかし、ラミナ王とミリオナの王子が戻ったいう報告を受けた。ラミナ王ルーク・イスリークは、生まれたその時から強大な気を持ち、父王ですら畏怖したと言われているほどの気を持つ、史上稀なる王。どちらにしろ命がないなら、最後まで臣下達に希望を持たせて抗い、世を去りたい。

ルイは、そう思うようになった。ラミナ王に簡単に散らされたレクスは、ルイが子供の頃から世話をされた軍神だった。正に無敵に近い筆頭軍神だったレクス…我も後を追うゆえな。

ルイは、遠くミリオナとラミナスで、軍神達が集結するのを感じていた。


美月は、一人残された月の宮で、部屋を与えられて月を見上げていた。遠くミリオナとラミナスのある地で、今戦が起ころうとしている。私の夫とされた二人は、そこで命を掛けて戦うのだ…そう思うと、居たたまれなかった。

「維月、お茶を頂きましょう。」

声に振り返ると、そこには地の化身の一人、自分の母だと言われている陽蘭という人型が居た。美月は頷いた。

「はい、お母様。」

地には、父と母と呼ぶように言われていた。維月と呼ばれるのも、僅かの間にすっかり慣れた。まるで、自分の名は最初からそうであったかのようだった。

そこへ、もう一人の地が入って来た。

「おお、我も共に飲もうかの。」

陽蘭が微笑んだ。

「では、もうひとつ。」

陽蘭は機嫌良く茶を淹れる。美月は碧黎を見た。

「お父様、イサヤ達はいかがでしょうか。」

碧黎は美月を見た。

「今、ぶつかり合っておるの。十六夜の軍が先に立っておるようだ。あやつらがどうするつもりか分からぬが、皆に良いようになれば良いの。」

美月は下を向いた。イサヤが戦っているの…あまり、戦い慣れていないと、あの軍神が言っていた。それは、きっとずっと自分の傍に居てくれたから。美月は考えると気になって仕方がなかった。

それを見た碧黎が、苦笑して言った。

「心配せずとも、十六夜は不死。あの体はエネルギー体で、消えたとしても月へ帰るだけだ。生物として存在するのではないのでな。つまり、神の気で相殺でもされなければ死することはない。そのうちに分かって来るであろうて…十六夜は、もう記憶を戻しつつある。前世月であった自分のな。」

美月は頷いた。イサヤは、十六夜という生まれながらの月だった。それが闇と戦って、同じ月であった自分と共に消えて行った。そう、蒼からも聞いた。十六夜…なぜか、覚えのある名。まるで、魂の奥に響くような…。

「私も、思い出すのでしょうか。」

碧黎が首を傾げた。

「どうであろうの。前の転生の時は、我が止めたにも関わらず、主らは勝手に記憶を持って来おった。だが、今度のどうも違うような気がする…すんなり記憶が戻る様子もないゆえ。主、生まれる時何かを握り締めておったとかなかったか?」

美月は驚いた顔をした。

「何か?そう、気が付いたら、何かの指輪を握っていたと母が言っておりました。生まれた直後、助産婦達が必死に手を開こうとしたのに決して開かなかった左手に、結婚指輪のようなものを握って…。」

碧黎は、頷いた。

「それは今、どこに?」

美月は考え込む顔をした。

「…私の部屋の、机の引き出しに。でも、私は居なかったことになったのでしょう。では、持ち物もあの部屋ももうないのではないですか。」

碧黎は首を振った。

「何を言う。主の持ち物は我がここへ運んでおるぞ。隣りの部屋に積んでおるゆえ、後で要るものを要らぬものを分けるが良い。」

美月は立ち上がった。

「まあ!とても嬉しいです。全て諦めていたから…。」

碧黎は微笑んだ。

「そう、指輪は大切にするのだぞ。主はその指輪を、もう1700年近くは持っておるのだからの。」

美月は驚いた。1700年?!

「まあ!すごいですわ!さっそく探して参ります。」

美月は隣の部屋へと急いだ。そんなに長く持っている指輪。知らなかった…重要なものなんて思わずに、ただ仕舞い込んでいただけだったから…。

そんな美月を、碧黎と陽蘭は微笑ましく見送っていた。自分達の娘…。自分達が、間違いなく生み出して転生の魂の循環に加えたもの。このまま、ずっと見守って行けたならば…。

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