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神の庭・5

手に持った資料を後ろに控えていた力天使に渡すと、それはそのまま御方に手元に渡った。


「え?なになに?何か始まんの?」


隣の席のアベルが肘でつつきながら聞いてきた。


説明しても理解出来ないであろう彼は置いておくとして、どのていど迄皆に伝えるべきなのだろう。


「最近の下界の様子を思えば…ま、だいたい予想はつきますよね」


向かいのセツは既に覚悟を決めているようだ。


そうなのだ。


我々の主、偉大なる「御方」は遂に決意されたのだ。


愚かな下界の人間を一掃し、その病みきった自らを苛み続ける哀れな茨や槐の代わりに、瑞々しく穢れを知らぬ清らかな種を蒔く事を。



つまりだ、諸君。我々は良心という未だに肉から生じ、聖霊の高みに上がれぬ未熟な心と決別し、為さねばならぬのだ。

この粛清という名の大掃除を。


それには先ず、一つ決めねばならぬ事は皆も承知の通りかとおもう。そう、全てを一から作り直すか、今ある種から病に侵されておらぬ良い芽を探しだし、それのみを保護し、新しい大地に蒔くか。である。しかしこれは慎重に決めねば……


「エノク、はしょれ。そういうのは要らんから」


えっ…、そ、そうですか…今からが良いところなんですが…。


「気持ちは分からんでも無いがな。アベルにも分かるようにやってくれ」


逆にハードル高いですよ、それ。


「御方、それでは折角の原稿が台無しになってしまいますしエノクが可哀想です。」


あ、カインさんがフォローしてくれるなんて珍しい。

そうですよね、こういうのは雰囲気っていうか形式美って大事ですよね。


「かくなる上は、アベルをこのハンマーでドツキ回して退場させれば、そういう面倒な真似をエノクさんにさせずにすむのでは無いでしょうか?」


……カインさん、それは一流のジョークですよね?


また新しい印を刻まれちゃいますよ?


トバルカインさんも、その大きな白い鈍器何処から出したんですか?


「エノクよ、違うぞ。これなるは決して人を害する凶器では無い」


え?そうなんですか?


すいません、このタイミングで出されたものですからてっきりカインさんに便乗されるのかと……。

では、凶器では無いとしたら何なのですか?


「芸術だ。鉄と火が織り成す、な。後は返り血という名のハイライトが付けば完成なのさ」


あー、はいはい。


取り敢えず、アベルにも分かるように説明しますね。


つまり、御方は堕落しきった地上の生物を滅ぼして、一から作り直そう、と仰られてる訳です。


で、問題は方法と程度ですね。


今回は……完全に滅ぼしてしまわれるのですね?


「左様だ。」


何で殿様チックなんですか……。ま、いいですけど。


方法については、非常に気が進みませんでしたが何件か候補を出しておきました。それが皆さんの手元にあるリーフレットに書いてある物です。


「どれどれ……。成る程、面白いのがいくつかあるな」


「え?御方も見るの初めて何ですか?」


御方の呟きにレメクが驚いて返す。


「ふむ。発注は半年前に済ましたんじゃが、なかなか原稿を寄越さんでの。今回の下界には随分思い入れが有るようじゃな、エノクよ」


申し訳ありません、我が主よ。どうしても踏ん切りがつかなかったのです。


今一度考え直しては下さいませんか?


「ほう、ではこのままの下界を放置しろと?見逃す要素等無いと思うがな。ワシとて悩んだ末に決めたのじゃぞ」


わかっております。


何も私も人類を無条件で見逃せとは、とても申せません。


ですから、もう一度だけ試してみるのです。人類を。


普通では乗り越えられぬ試練です。


もしそれをクリア出来たら今暫く猶予を与え、出来なければ今度こそ全身全霊で人類粛正に尽力致しましょう。


「しかし……そんな事に我らの力を注ぐより新しい人類をより良くする事を考えた方が建設的なのでは……」


セツか……不味いな。余計な事を言われる前に止めを放り込むか。


え~、つまりですね、人類の中から無作為に選んだ100人……しかもこの下界から更に時が進んだ時系列から選び出した魂達に一つずつ、強力な力を与えるのです。


そして生存に厳しい考えを用意して、一年程様子を見るのです。


もし人類がどうしようもない生き物なら滅ぼし合うでしょう。


現在よりも更に時代が進み、堕落も進んでるのですから。


しかし、もし救うのに足るのであれば力を合わせ、助け合いの道を選ぶでしょう。


「成る程、つまらん」


あれ?駄目か……御方から却下されたならもう打つ手無……


「どうせなら、最後まで残った奴をお前が当てられたら救済。外れたら粛正でいいんじゃないかの?」


……へっ?


「御方、それでしたら我々もその賭けに参加出来ないでしょうか?一年かけたサバイバルレースなんて滅茶苦茶楽しそうですし、ギャンブラーの血が疼きます。」


えっ?ちょっと待って……


「あっそれなら僕たちにも当たった時のお楽しみ下さいよー。そっちのが盛り上がるよー」


アベルさん、もう余計な事は……。


「よし、それなら生き残りを当てた者は望む物は何でも与えようかの。」


「「よっしゃー!最高の暇潰しキター‼」」


ここが一番堕落してないでしょうか……もういいですけど(泣)

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