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「神様のいる島」

作者: 蒼斐 菫

小さな島。

昔は、無人島だった、島に長く奇妙な塔が建っていました。

他に何も無い島に、とてもとても、高い塔。屋上からは海の向こうの都市が見渡せます。


塔の主は、何処にでも居そうな、ごく普通の青年。

けれど、彼には誰も近づこうとしません。目の前に広がる街、それどころか、世界中から彼は遠い存在になっていました。


青年には古代の呪いがかけられていました。

ただ、呪いといっても、まじないめいたものではなく、人類が生まれる以前に死滅したはずの強い病原体に侵されていたのです。生まれながらにして、忌まわしい病原体に感染していた彼が一番最初に死なせてしまったのは、生んだ母親。次に父親を、そして彼を診察した医師、被害はどんどんと広がっていきました。


彼は直ぐに隔離され、研究所に送られました。

世界中から彼を研究するべく、たくさんの科学者たちがやってきました。

しかし、彼の侵されている病原体は、どんなに慎重に扱っても逃すことがなく、研究に来た科学者、そしてその家族にも牙を向けました。

対処法が無いため、どうすることもできませんが、唯一の救いは、彼を離れた病原体は、感染者を殺したあとは消えてしまった事です。


どうすることも、できないと知った勇気ある男が、彼を殺そうとしました。彼さえ死ねば、病原体の宿主は居なくなり、この忌まわしき災いは終わりを告げるだろうと、考えたのです。

けれど、それは果たせませんでした。彼に拳銃を向けた瞬間、勇気ある男は、音を立てて床に崩れ、そのまま死んでしまいました。まるで何かの呪いのように。

そして、彼を殺そうとする人間が居なくなったのは、施設ごと爆破しようとした、ある科学者がはるか遠方の地で死んだからです。


彼を殺そうとする人間、彼を憎む人間が、ついに病以外の何かによって死んでいくことに気づいたは、この頃です。


彼はまるで死神のようでした。

国の役人は、何処か遠いところにおいておけば良いと考えました。

それに、反対する人たちがいました。

軍人でした。彼を軍事利用されたら世界が滅んでしまうと考えての反対です。外国の大使も反対しました。

目の届かない場所に置かれると、今度は自分の国に来るかもしれないと考えたからです。

誰だって自分たちの国の人間が死ぬのは嫌です。それも、訳のわからないままに殺されたとあっては、国民に申し訳がないと、言いました。


彼は小さな島に連れて行かれました。

彼を運んだ人たちは、みんな死んでしまいましたが、なんとか人の居ない場所まで

運ぶことはできました。本当はもっと、遠くに運ぶつもりでしたが、途中でバタバタと人が

倒れていくので、思っていたより近くになってしまいました。

それでも、彼を運んで死んでいった人たちは英雄と呼ばれて、立派な像が立てられました。


彼の住まいはとてもとても高いところに作られました。

悪いことに利用する人がなかなか入ってこれないようにするためと、できるだけ遠くに、更には目に見える場所に彼を置いて置きたかったからです。



こうして、彼は小さな島の塔の主になったのです。



彼が塔の主になってから、幾ばくかの時が過ぎました。

食料は、最初のうちこそ塔の下や島の波止場などに置かれていましたが、

そのうち、空から落とされるようになりました。死人が出たのか、煩わしくなったのかは

判らないことではありましたが、彼には関係のないことでした。


教育らしい教育を受けては居なかった彼に、義務教育を請ける権利は誰にでもあると主張する、熱心な教師が彼に教育を施しにきたことがありました。

しかし、教師は三日もせぬうちに帰らぬ人となりました。以来、テレビを使った授業が行われるようになり、彼はそれで知識を身に付けるようになります。

その頃には、熱心な教師は教育者の鏡であるという扱いをされるようになり。島に一番近いところに、称えるための石碑が建てられました。


また幾ばくかの月日が流れ、成長した彼は、立派な青年となっていました。

島を出てみたいと思うようになりますが、それはままならないことを知って、とても悲しんでいました。

あるとき、彼を世界に使わした救世主であると主張する人たちが、やってきました。


彼らは塔の下に住まいを作らせてほしいと、彼に言いました。

退屈な日々を送っていた彼は喜んで、彼らを受け入れました。


それと彼の世話係として、2人の少女を彼に預けさせてくれないか。と、一団の代表が言いました。

少女たちは間違った生まれ方をした卑しい生き物なので、青年の力で汚らわしい罪を開放して欲しい。それまでの間、精一杯、青年の世話をさせてくださいと。

彼は最初は困惑していましたが、それも喜んで受け入れました。

友人という存在。それを手に入れることができるかも知れないと思ったのです。

彼女たちが死んでしまっても、構わないと言われた事に腹は立ちましたが、それで彼女たちも救われると聴いていたので、受け入れることにしたのです。


一団は、塔の下に各々住み始めようとしました。

しかし、瞬く間に人が倒れ始めました。なんとか助かった人たちも、触れてはいけなかったと後悔して島を去っていきます。

そして、少女を預けた代表は、1週間もしないうちに死んでしまいました。

代表は青年の力を利用しながら、島に自身の国を作ろうとするような野心家でしたが、それは誰にも知られる事はなく、

島からもっとも近い教会に青年を救おうとした聖者として、銅像が立てられました。


島には青年と2人の少女が残されました。

友人がほしいと言う彼の気持ちの表れが、彼女たちを殺さなかったのかもしれません。

仕組みは判りませんでしたが、彼らにとって理由なんて、どうでもいいことでした。

青年は彼女たちに恋をすることはありません。

話す友人ができたことが、なによりの幸せだったからです。また、恋という概念が彼の心にはなかったのです。

少女たちもまた、青年に感謝をしていました。誰にも咎められることなく生きることができるのだから。

それから、彼らはできるだけ塔から降りないようになりました。


幾ばくかの月日が流れました。

友人との日々は、あっさりと終わりを迎えます。

少女たちは医者が居れば簡単に治るような、別の病で死んでしまいました。

死に顔がとても安らかであった事、続けて二人とも死んでしまったのがせめてもの救いでした。

青年はとても悲しみました。彼は生まれて初めて涙を流しました。


彼は悲しいという気持ちを生まれて初めて知ったのでした。


この頃には、島の外の人たちにとって、島はどうでもいいものになっていました。

とりあえず、触れないでおこう。そのままにしておけば、問題ないだろう。そんな風に思われていました。

そんな折、島にいらなくなった物を捨てる人たちが現れました。

ガラクタやいらなくなった動物、しまいには、面倒を見切れなくなった人間をこっそり置いていく者も現れました。

ここに棄てれば、ばれる事は無いし、面倒を見なくても済むと考えたのでした。

人々は、それは素晴らしい考えだと、たくさんの要らなくなった人を島においていくようになりました。

国の役人たちは、慌てて対策を考えましたが、島に人を連れて行くだけだと言われるとどうしようもありませでした。

それに、困ったような顔をしている役人たちにとっても、これはいい考えだと、心の中では思っていたのです。


なぜなら、島に人を置いていくだけなのですから。


置き去りにされた人の中に、ある老人が居ました。

その老人は、散歩をするのが趣味でしたが、最近は昼も夜も散歩をするようになってしまった為に、島に連れてこられたのです。

ある日、久しぶりに塔の下へと降りた青年は、その老人に会いました。

塔を降りる気になったのは、前に比べてどうも島がごちゃごちゃしているような気がすると思ったからでした。


塔の下は、たくさんのガラクタと人の骨が散らばってました。それもどうやら、塔の下だけでなく、島中がこのようなありさまになっているようでした。


青年は老人に聞きました。

「何故、こんなに酷い事になっているのでしょうか」と。

もちろん彼は知っています。この沢山の人の骨が、自分の存在によって増えていった事を。

老人は答えました。

「悪いのは、君ではなく、外の世界にいる人間なんだよ。」と。


悪いのは自分じゃないのかもしれない。そんな風に考えるようになりました。

悪いのは自分ではなく、世界なのかもしれないと。

それはとても、恐ろしい考えでしたが、彼を恐れる人間は世界にはいなくなっていました。

彼の力が及ぶ前に、つまらない戦争で死んでいたからです。


青年だけが世界に残されていました。

青年は、世界に自分だけが取り残されている事には気づいていません。

静かになった島からの眺めを見ながら、青年は思います。

「もしかしたら、人を殺さないで済むようになったのかもしれない。」

そう思うと、自然と笑みが零れました。少女たちと暮らしていたときも、憂鬱な顔をしていた青年でしたが、

初めての笑顔が溢れ出してきたのです。

ひとしきり笑ったあと、たった一人の世界で青年はある事に気づきました。


「自分には名前が無い。最初は有ったのかもしれないけど、誰からも名前で呼ばれることはなかったな。」


その時、少女たちが死ぬ前に残した言葉を思い出します。

弱弱しく、まっすぐな瞳で青年を見据え、

「貴方は私たちにとって神様です。」と、言った事を思い出したのです。


思う分には誰にも迷惑を掛けないし、別に良いだろうと青年は思います。

そして、一人の世界に佇む彼は、まさしく神様でした。


こうして、青年は神様となったのです。



ひとりぼっちの悲しい神様に。

この作品は、2008年7月にmixi用に作成したものを修正したものです。

修正しながら、読み返してみたけど、

「全体的に荒い」

もう少し、少女たちとの日々を描くべきだったような気がするのと、テーマが判りづらい。


お題を出していて、「ウィルスに犯された青年」「塔」「散歩好きの老人」

を含めた作品にしなくちゃいけなかったんだけど、


「散歩好きの老人」は最後にちょろっと出ただけだったし。

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