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第21話 神の火か、人間の知恵か。最終断罪

「跪け、魔女エルゼ! この『浄化の炎』こそが、神が下す審判である!」


 博覧会の喧騒が、一瞬にして凍りついた。

 審問官マラキが掲げた黄金の聖杯から、不気味なほどに青白く、巨大な炎が噴き上がる。それは魔法を超えた「奇跡」として、教国の民たちが畏怖してきた神聖なる火だ。


「この炎は、罪なき者を素通りし、魂の汚れた魔女のみを焼き尽くす。……さあ、貴様の『まやかしの知恵』が、神の御前で通用するか試してやろう!」


 マラキが狂気混じりの笑みを浮かべ、炎をこちらへと放つ。

 周囲の貴族たちが悲鳴を上げ、後ずさる。だが、私の前には、岩のごとき背中が立ちはだかった。


「……下がっていろ、エルゼ。この男ごと、その火を叩き斬る」


 ゲルハルト閣下が、抜刀せんとして大剣の柄に手をかける。

 だが、私はその逞しい腕をそっと制した。


「いいえ、閣下。……神の奇跡を斬っても、愚かな民は新たな偶像を求めるだけですわ。……ここで必要なのは、絶望的なまでの『説明ロジック』です」


 私は、震えるマラキの目を見据え、一歩前へ踏み出した。


「審問官様。その炎、青白いのは『神の意志』ではなく、単なる『ホウ素化合物』の炎色反応ですわね? 聖杯の底に仕込んだ魔法石を、特定の触媒で反応させているだけ。……これを奇跡と呼ぶには、少々、化学かがくの基礎が足りていなくてよ」


「な……貴様、何をデタラメを!」


「デタラメかどうか、今すぐ証明して差し上げますわ。……アンナ、例の『消火液ニュートラライザー』を!」


 私は、新しく開発した特殊な液体――強酸を中和し、特定の化学燃焼を強制停止させる試作薬――を手に取った。

 

「神の火が、ただの『火遊び』に過ぎないと知るがいいわ」


 私がその液体を青白い炎に向かって一気に散布した。

 

 刹那――。

 轟々と燃え盛っていたはずの「浄化の炎」は、一瞬にしてシュウシュウという情けない音を立てて消え失せ、代わりに、鼻を突くような硫黄の臭いと、聖杯の底に隠されていた黒ずんだ『仕掛け』を露わにした。


「……あ、あ、ああ……っ!?」


 マラキが絶望の叫びを上げ、膝をつく。

 広場を埋め尽くした群衆から、どよめきが起きた。奇跡が、ただの「手品」として暴かれた瞬間。


「審問官様。貴方たちが神聖だと称したそのインセンスも、この火も、すべてはこの大地の資源を消費するだけの技術に過ぎません。……人を救うのは、目に見えない神の火ではなく、明日を生きるための知恵と、それを分かち合う誠実さですわ」


 私は、青ざめたマラキを見下し、冷徹に言い放った。


「貴方の神は、私を裁けませんでしたわね。……さて、次は『詐欺罪』と『不当な脅迫』で、この地の法が貴方を裁く番ですわ。……ハンス、連れて行ってくださる?」


「はっ! 喜んで、エルゼ様!」


 衛兵たちに引きずられていくマラキ。

 その背中を見送り、私は大きく溜息をついた。


「……見事だったな、エルゼ」


 背後から、ゲルハルト閣下が私を強く抱き寄せた。

 甲冑の冷たさと、彼自身の鼓動の熱。


「貴様は、神の火さえも黙らせるのか。……。俺は、貴様という魔女に、一生をかけても勝てる気がせんな」


「……。閣下に勝つ必要など、ございませんわ。……私はただ、貴方の隣で、黒字の帳簿を眺めていたいだけですもの」


 私が彼の胸に顔を埋めると、ゲルハルトは私の顎をクイと持ち上げ、そのまま深々と唇を重ねた。

 博覧会の会場中から、地鳴りのような歓声が上がる。

 

 もはや、この地を疑う者も、エルゼの価値を否定する者もいない。

 

 鉄の匂いに、奇跡の香りは、今や「不動の真実」として根付いたのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

宗教的権威を「科学」で物理的に論破するカタルシス、楽しんでいただけましたか?

エルゼ様の理路整然とした追い詰め方は、書いていても非常に爽快でした。


そして、人前を憚らずに熱い口づけを交わす二人……。

完結に向けて、恋愛濃度も一気に加速させております!


「エルゼ様のドSな論破、最高!」「閣下の溺愛が公衆の面前で爆発した……!」

と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価】をいただけますと幸いです!


次回、ついに最終回。

王都での最後の始末と、二人の結婚式。

ザイフリート領の未来を照らす、最高のハッピーエンドをお届けします!

お楽しみに!

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