第1話 氷の令嬢は微笑まない ――あまりに理不尽な婚約破棄
数ある作品の中から目に留めていただき、ありがとうございます!
この物語は、
「冷徹だと虐げられた有能な令嬢が、現代知識と数字を武器に、自分を捨てた奴らを後悔させる」
そんなスカッとする逆転劇を目指しています。
同時に、仕事を通じて少しずつ心が通じ合っていく、不器用な大人同士の甘い恋もお楽しみいただければ幸いです。
※第1章のラストには、圧倒的な「ざまぁ」と「溺愛」をご用意しております!
それでは、エルゼの華麗なる逆襲劇をお楽しみください。
シャンデリアの眩い光が、広間の大理石に反射して私の目を刺す。
舞踏会の喧騒が、一瞬にして静寂へと変わった。その中心にいるのは、婚約者である第一王子、ジュリアン・ド・ラ・ヴァリエール。そして、その腕に縋りつき、守られるように震えている「聖女」ことクララ令嬢。
「エルゼ・フォン・クロムウェル! 貴様の悪行はすべて暴かれた。地味で冷徹、挙句の果てにはクララへの度重なる嫌がらせ……。もはや、我が王国の王妃として相応しくない。たった今、貴様との婚約を破棄する!」
ジュリアン殿下の朗々とした声が響き渡る。
周囲の貴族たちは、待ってましたと言わんばかりの冷笑を私に向けていた。「氷の令嬢」「数字の亡者」「感情のない人形」。そう陰口を叩かれていた私への、これは公開処刑なのだろう。
私は、手に持っていた扇をゆっくりと畳んだ。
心拍数は平常。脳内では、この瞬間に生じる王家とクロムウェル公爵家の経済的損失、および現在私が進行させている王都整備事業の停滞による損失額を試算していた。
「……殿下。確認ですが、その『悪行』とやらの証拠は揃えていらっしゃいますの?」
「黙れ! クララの涙が何よりの証拠だ!」
論理が破綻している。
私は小さく溜息をついた。この男は、私がこの三年間、どれだけの時間を彼の尻拭いと、破綻寸前だった王室予算の健全化に費やしてきたかを知らない。私が夜通し帳簿と格闘し、ペンだこを作り、可愛げのない「数字」と向き合ってきたのは、すべて彼が座るはずの玉座を守るためだった。
「左様でございますか。感情が証拠になるのであれば、これ以上の議論は無意味ですわね」
「ふん、相変わらず可愛げのない女だ。貴様には、その冷徹さに相応しい場所へ行ってもらう。……ザイフリート領。北の果て、廃鉱山しか残っていない死の地だ。そこで一生、鉄の匂いでも嗅いで暮らすがいい!」
ザイフリート。
その名を聞いた瞬間、私の脳内データベースが瞬時に検索結果を弾き出す。
かつては鉄鉱石で栄えたが、今は資源が枯渇。強酸性の廃液が川を汚し、作物は育たず、領民は飢えに喘いでいる。そしてそこを治めるのは、戦場で心を失ったと言われる「鉄仮面」ゲルハルト・ザイフリート辺境伯。
(……素晴らしい)
私は、唇の端が僅かに吊り上がるのを懸命に抑えた。
この王都は、もう限界だった。古びた利権、無能な役人、そして何より、未来への投資を拒むこの愚かな王子。
けれどザイフリート領は違う。
誰も見向きもしない廃鉱山。異臭を放つ荒れ地。そこは、私の知識という「魔法」を試すための、真っ白なキャンバスだ。
「承知いたしました。謹んで、その命、お受けいたしますわ」
私は完璧なカーテシーを披露した。
ドレスの裾を翻し、一度も振り返ることなく広間を後にする。
背後でジュリアン殿下が「最後まで傲慢な女だ!」と叫んでいるが、もはやどうでもいい。
馬車に乗り込み、私は暗闇の中で手帳を開いた。
そこには、王都の古本屋で見つけた古い文献の写しと、私の前世――「化学」という学問が発達した世界――の記憶が混じり合った走り書きがある。
『ザイフリート領の廃液は、特定の植物と反応すれば強烈な芳香成分を抽出できる可能性がある』
「……鉄の匂い、ですって?」
私は暗い窓の外、はるか北の空を見据えた。
今はまだ、錆びた鉄の臭いしかしない土地かもしれない。
けれど、私は知っている。最悪の環境でこそ、最も気高く、甘美な香りを放つ花が咲くことを。
「半年後、あなたに教えてあげますわ。数字と香りが、どれほど残酷に世界を変えるのかを」
エルゼ・フォン・クロムウェル。
冷徹な氷の令嬢が、その夜、初めて不敵な笑みを浮かべた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「このお嬢様の逆転劇が見たい!」「辺境伯との恋の行方が気になる!」
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次回、いよいよ鉄仮面の辺境伯との緊迫の初対面――お楽しみに!
当面の間は1日3話を投稿予定です。
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