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(仮題)番長が幅を利かせる和風異世界に転生したけど前世日本に帰りたい  作者: ぱちぱち


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第8話 あれは魔物だ。国を傾けるほどの

「新興宗教ぉ!? この大和皇国で!!?」



 思いがけない言葉に素っ頓狂な声を上げてしまったが、目の前に座る青年は真面目な顔を浮かべたまま一つ頷いた。というのも、大和皇国は八百万の神々を祭る神道と大陸から渡ってきた仏教を合一させた皇国大神道が唯一の国教であり、大和皇国の民ならば全ての者がこの皇国大神道の信者である。無理やり信じてるとかじゃない。ほとんどすべての国民はこの皇国大神道を熱心に信じているし、周辺諸国でもこの皇国大神道に帰依して大和皇国の民になりたいという中小国家は非常に多くある。


 なぜなら皇国大神道には他の宗教と違って唯一、学生ボタンという名前の実際に起こせる奇跡が存在するからだ。


 大政奉還の折、徳川将軍家から献上された総番ボタンを手に取った時の大和大帝様は虹色の輝きに包まれ、金色に輝く総番ボタンを大帝様の胸元に輝く時だけ虹色の光を放ったという。以来時の大和大帝様は現人神に成らせられ、大和上皇の名で100余年余りの間、都に御座しその威徳を持って大和皇国を統べている。


 言ってみれば他宗教の教祖様が一切老いずに実在してるわけだ。しかも自分の国の帝より上の上皇様って名前で。これで他の宗教に転ぶ奴なんてよっぽどの奴しか居ないだろ。


 と、ついさっきまでは思ってたんだけどね。


 いやぁ、どこの世界にも居るんだな。マジモンのカルトってのが。



「こいつらの厄介な所は、信心の基礎は上皇様にある事よ。上皇様を奉り、上皇様を信じ、そして上皇様のお役に立つために功徳を積まねばならぬ、と信者を唆している」

「あー。なるほどなるほど。上手いな、そいつら」


 

 私の疑問に青年の後から慌てて駆けつけてきたおじ様がそう応える。坂東ます成と名乗った彼は九州1区の番長、州番を補佐する番格の一人で本来の依頼主様である。多分2区か3区の番長かな?


 なるほど、本来自分だけで対応する予定だったのにいきなり上役が突っ込んできたと。そら慌てて駆けつけもするわな。苦労してそうなおじ様だこと。

 新興宗教に沼らせる時、一番簡単な方法は相手と共通の属性を持つことだ。共通の属性を持つ者同士での会話は共感が生まれやすく、共感は次第に信頼へと変わっていく。そして一度信頼されれば後は簡単だ。相手の常識を少しずつ少しずつ自分たちに都合が良いように組み替えていけばいい。


 その新興宗教の信者は今現在も自分は大和大神道を信じている上皇様の赤子であると認識してるだろう。いや、教祖自身ももしかしたらそうなのかもしれないが、名前すら知らない現状ではなんとも判断がつかない。



「というか、そういう案件なら学領ではなくて皇国軍のお仕事では?」

「無論、本来ならばそう動くべきだろう。だが、それは聊か不味いのだ」

「不味い? 州番直下の貴方が動いているのに」



 こんだけの権力者がうかつに動けない事態ってのも珍しい。大和皇国は完全縦社会だから、九州1区の州番がやれと言えば大体の事は通ってしまうんだ。まぁ、だからこそ州番はうかつに動けないくらい重い存在なんだけどな。この兄ちゃんは普通に屋台のラーメン食ってたけど。


 私の疑問に答えたのは坂東氏ではなく、私たちのやり取りを眺めていた州番だった。



「その宗教にな、俺の妹がハマっとーと。軍に助けば求めたらうちの学領ごと吹っ飛ぶかもしれん」



 さもこれからの天気を語るかのような彼の声に、思わずすとん、と違和感が腑に落ちる。それは。確かに、動けないのも無理ないかぁ。州番の一族が参加した新興宗教なんて、下手したら内乱罪までいっちゃうもん。


 これ、思った以上にヘヴィーなお仕事じゃないか?







「若! なぜ、なぜ妹御様の事まで!」

「言うな、ます成。必要な事ば言うただけたい」



 神野せん子が去った後の料亭で、九州1区の州番たる青年は側近であるます成の小言を受けていた。青年の名は黒田かん兵衛。由緒正しき黒田家の家祖の名と胸元に輝く銀色の州番ボタンを受け継ぐ、九州学領1区の支配者だ。


 九州学領2区の薩摩の鬼を除けば九州最強の兵でもあり、全国でも片手で数えた方が早い序列の強者である。たいていの相手なら。それこそ歴戦の皇国軍の士官であろうとも己の敵ではない。その自負は今もしっかりとかん兵衛の中に根付いている。


 だからこそ。分かる事もあるし、分からない事もある。


 今。己が対峙していたあの女は、不味い。何故不味いと感じたかは分からない。ただ、そう感じた。


 アレが海から渡ってきた瞬間、それがはるか遠くから博多に向かっていることがかん兵衛には理解できていた。都の今生帝にお会いした時も、東都城の総番にお会いした時にもなかった全身の毛が総毛立つなどという経験。海から来るナニカを捉えるために港に向かったかん兵衛は船から降り立つこの世の物とは思えない美しさの女を見て、かん兵衛は自身が刀を握り締め猿声を上げている前で、アレはそれを手のひらの上に収めて寝転がって眺めている姿を幻視した。


 九州1区の長である責任感。義務感。そういったなにかに背中を押されながらかん兵衛はアレに声をかけた。脂汗を流すなんて初めての経験をしながら。そうして共に美味いものを食べ、並んで会話をしてそしてだまし討ちのようにこの場に現れて。そこでようやく、アレの目が自分を捉えた。その瞬間の多幸感をかん兵衛は生涯忘れられないだろう。


 あれは魔物だ。国を傾けるほどの。もしもます成一人で会っていたら、瞬く間に飲まれていただろう。ます成が如弱なわけではない。ます成は学領の長を大過なく治めることが出来る器を持った良い男だ。けれど、アレの相手をするには貫禄が足りない。自分ですら、まるで足りていない。


 伝え聞く噂では並みいる番長達をなぎ倒す武勇の持ち主だと聞いていた。だが、アレを直接見たからこそわかる。そんな程度の存在では決してない。



「まぁ……期待しようか。番長狩りの神野に」



 アレが動くなら、酷い事になるだろう。だが、それもまた良し。今回、ます成が動いた件はかん兵衛には手出しがし辛い相手であり、対処に困っていたのだが……まるで縁故の無いアレならばなんの痛痒もなく膿を全て切り離してくれるだろう。


 あるいは膿どころか腕の一本や二本も持っていかれるかもしれないが。それも含めて州を預かる己の責任。州番とは、そういうものなのだ。


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