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(仮題)番長が幅を利かせる和風異世界に転生したけど前世日本に帰りたい  作者: ぱちぱち


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第4話 君は大事なアシスタントだからね

 学領の発展度はそこを統治する番長の力量によって大きく異なる。これは腕っぷしだけではなく統治の手腕も含めたものだが、腕っぷしがある番長の統治する学領の方が有利であるのは間違いない。強い番長は様々な理由で国から支給される配給券を多く手に入れることが出来、それを持って自身の治める学領に多くの物資を持ち込めるからだ。


 僕が所属する関東11区を治める番長、佐々木マサシさんは非常に強い番長だ。代変わりする一昨年まで関東でも下から数えた方が早い11区をたった2年で発展させていき、今では各町村に1台テレビジョンが置かれている。これは学領としては各地区の名家や資産家の子息が集う1区を除けば1,2を争うくらいの発展度である。


 彼は腕っぷしだけではなく頭もキレる番長で、傘下の番格を他所の地域に派遣する傭兵業で配給券を稼ぎ、その配給券を使って払い下げの軍用トラックやバイクを手に入れて体力自慢の学生による運送業を始めたり、通信機材を用意して東都のようなラジオ局を作ろうとしたりと積極的に11区の開発を行っている。学業も優秀で高等学校を卒業したら軍学校に行くのではなく帝大に行くのでは、という噂もまことしやかに聞こえてくる人物だ。


 そんな人物が治める11区で、学生ボタンの適性はあったがそれほど積極的に戦う事もできず、その才能もない。そんな落ちこぼれの学徒兵として僕は生きている。



「オウ、シャバ僧。俺らぁちぃっとばかし財布が寂しくてのぅ」

「テメどこ中だコラ。ココぁ乙球毛中の縄張りだぞコラ」



 そして今、絶賛大ピンチである。あ、ピンチっていうのは100年くらい内戦をやってる海の向こうの国の言葉だ。大和言葉だと危機という意味になる。大和皇国はこの内戦中の国家両方に100年くらい兵力を貸してあげているため、帰還した兵隊さんからそちらの言葉や文化も結構入ってきてるのだ。


 少し話がそれたが現実逃避をしている間に事態はもっとひどくなっているらしい。何も言わずにただ黙っている僕が気に食わないのか、目の前にいる隣街の少年二人は僕の胸倉を掴んでぐいっと体を釣り上げてきた。


 力が強い。明らかに学生ボタンを第二段階に進めている。余り戦わないせいで僕の学生ボタンは第一段階で止まっているため、どう考えても一人ではこの二人には勝てない。うん、ピンチどころではないな。詰みだ。



「……ぐふっ」

「んだコラビビッて喋れねーか?」

「早く財布出せつってんだよボケコラ」



 僕の胸倉を掴んだ方の少年。10円ハゲが見えたから10円ハゲと呼称しよう。10円ハゲはゆさゆさと僕を揺さぶりながら僕の顔に顔を近づけ、必殺のメンチを切ってくる。中等生の顔じゃないよ。怖い。でも10円ハゲのせいでイマイチ怖がり切れない。せめてどっちかに振ってくれ。怖いか面白いかのどっちかに。


 延々僕にメンチを切っても僕が何も言わないため10円ハゲはどんどんヒートアップしていく。彼の相棒の方、ハゲはないが髪の毛がギトギトしているから多分油を頭につけすぎたようだから油頭と呼称する。油頭の方は比較的冷静だが、イライラが募っているように見える。これは不味いな、そろそろ手が飛んでくる。


 殴られるのは嫌だ。痛いから。そう心の中でボヤきながら殴られる覚悟を決めていると、僕の胸倉を掴んでいた10円ハゲの顎が高速で飛んできた蹴りで砕かれ、「めきょ」と変な声を上げて上空にぶっ飛んでいった。



「おっと」



 掴まれていた僕も一緒に上空に飛びそうになったが、10円ハゲの数倍は力強い誰かの腕で肩を抑えられたため、僕の胸倉を掴んでいた10円ハゲの手はずるんと音を立てて外れた。



「おた松っちゃん、ダイジョブ?」

(わが)命、輝きを失わず」

「あ。つまり元気って事ね」



 10円ハゲを蹴り飛ばし、俺の肩を掴んでいた相手がそう言って安否を確認してくる。僕が所属する塵芥中の番長、神野せん平くんだ。九死に一生を得た心地で返事を返すとせん平くんはにこにこと笑って親指を立てた。


 せん平くんは俺をぐっと自らの後ろに立たせるとにこにこと笑ったまま油頭の前に立ち、首をかしげて油頭に声をかけた。



「で。なんでおた松っちゃんが乙球毛中の奴に絡まれてんのかな」

「っ、てめ! 神野かぁ!?」

「お、知ってんのか。じゃあ俺がそっちの番とダチで、互いの町の出入りは自由にしようぜって約束してんのも知ってんよな? テメーん所の番長が他所の番長と交わした約定を、知らねーとは言わせねーぞ?」



 にこにこと笑いながら、せん平くんは一歩。油頭に向かって足を進める。その一歩に気圧されたように油頭が一歩後ずさる。ああ、そこで頭を下げれば良いのに。そう思った瞬間、油頭の頭を掴んだせん平くんが、上から抑え込むようにして地面に油頭の顔を叩きつけた。



「うげ、なんだこいつ。頭、油でぎっとぎとじゃん」

(われ)、えんがちょ」

「ヒデーよおた松っちゃん。助けたんだぜ俺」



 手で障壁をつくってせん平くんに向けると、せん平くんは顔を顰めてそうぼやく様に言った。番長相手にこんな事をして殴られないのかというと、他所の番長なら殴られるかもしれないがうちの場合はまずそう言う事はない。


 せん平くんはうちの学校、塵芥中の番長ではあるが、おだやかな性格で自分の学校の学生にはほとんど手を上げる事がない人なのだ。お姉さんが地獄の閻魔様のような人だから、その分仏のように優しく育ったと専らの評判である。もちろん今みたいに舐めた真似をしてくる相手には容赦しないけれど。


 故に彼は周辺の学生に仏のせん平と呼ばれて慕われている。女癖が悪い所以外は僕たちの学校の自慢の番長だ。



「なんか失礼な事考えてない?」

「否。真実はただ一つ」

「そこまで否定されると怪しいって。あ、そういえばおた松っちゃんって絵が上手かったよね。ちょーっと絵が上手い人探してるんだけど力、貸してくんない?」

(わが)右手をご所望か」

「うんうん。所望するする」



 せん平くんの言う通り、自慢じゃないが僕は絵が上手い。将来的には大和皇国軍が発行している大和皇国新聞の挿絵書きを狙っている程度には絵心があるから、せん平くんが言うちょっとがどれくらいかは分からないが力になる事は出来るだろう。ただ、画材の補充のために隣町まで来たので購買商店による時間は欲しい。


 そう言うとせん平くんはニコニコ笑って了承し、こっちが頼んだからと画材を持つのも手伝ってくれた。ありがたいのだが、ちょっと優しすぎるのが少し引っかかる。


 隣町からバスで塵芥町に戻り、そのまま使うかもしれないからと画材を持ったまません平くんの家に行く。中に入ってくれと言われ、どんどん嫌な予感が増して行く中せん平くんの先導に従い二階へと上がる。


 二階に上がった瞬間、ゾワリと背中を冷や汗が垂れていく。いる。そこに。何が居るのかとかそういう考えは一切湧いてこず、ただただ自分にとって恐ろしい何かがその襖の向こうに居るのを感じ取った。学生ボタンがほとんど育っていない僕でも分かるほどの熱量が、そこにはあった。



「姉ちゃん、絵が出来るダチ連れてきたぞー」

「おー。入ってくれー」



 いま姉ちゃんっていったかこいつ。去年卒業した我が中学でも伝説となった触れてはいけないあの人がこの襖の向こうに居るのが確定してしまった。


 まるで時がゆっくりと流れるかのようにゆるやかに開かれていく襖の向こう。逃げる事も出来ずそれを見守る僕。ああ、これが走馬灯と呼ばれるものだろうか。生まれた瞬間から今に至るまでが頭を過ると聞いたけどそういう訳でもないのか。ただ苦しみをゆっくりと味わうだけだな。


 そんな事を現実逃避気味に考えていると、開け放たれた襖の向こうに居る人の後ろ姿が目に入った。背中に『鉄板』と刺繍が入ったどてらを着た女性が、カリカリと音を立てて何かをひたすら書き綴っている。


 圧力すら感じる後ろ姿に思わず吐き気を催しながら、僕はごくりと唾を飲み込んだ。ゆっくりに感じる時間の流れの中、女性は上体をそらしてこちらに振り向く。


 『鉄板』と刺繍が入った鉢巻をつけた女性。せん平くんの姉であり、塵芥中地獄の3年間を生み出した人物。神野せんこ様が僕を見た。その瞳に捉えられた瞬間、僕は自身の生殺与奪の権利を全て彼女に握られたのを理解した。


 せんこ様は僕が持つ画材を見て満足そうに頷くと、くいっと部屋の中にあるちゃぶ台を指さした。座れという命令だ。



「さぁ、闘いの始まりだ。まずはベタ塗りを教えよう。大丈夫、なんでも聞いてくれたまえ。君は大事なアシスタントだからね」



 言葉の意味は全く分からないが、とんでもない所に連れてこられたのは間違いない。それだけを理解した僕はその場に膝をついて座り、なんとか命だけはご勘弁をと頭を下げた。


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