予選第一試合
読んでいただきありがとうございます。
第9話は、
ヴォルグのトーナメント初戦です。
洞窟や森とは違い、
ここでは一度の判断ミスが即敗北に繋がります。
最弱から始まった捕食者が、
この舞台で本当に通用するのか――
その答えの第一歩となる回です。
それでは、第9話をお楽しみください。
闘技場の中央。
俺――ヴォルグと、対戦相手が向かい合っていた。
相手は巨体。
四本の腕。
筋肉が岩のように盛り上がり、
骨の仮面の奥から、濁った視線がこちらを睨んでいる。
《種族:四腕戦鬼》
《戦闘特化個体》
――正面殴り合い型。
(わかりやすい)
観客席から、嘲笑が降る。
《粘体だぞ?》
《一撃で潰れる》
《捕食許可? 逆だろ》
鐘が鳴る。
その瞬間、
四腕戦鬼が地面を砕いて突進してきた。
速い。
質量が違う。
(真正面は無理)
俺は即座に体を低くし、
闘技場の床に広がる。
四腕戦鬼の拳が、俺を掠め――
床が陥没した。
「……当たったら終わりだな」
だが、相手は止まらない。
四本の腕が、
連続で振り下ろされる。
俺は分裂し、
薄く伸び、
床に溶けるように移動する。
「逃げてばっかりだぞ!」
戦鬼が吼える。
(いいや)
「準備だ」
俺は、相手の足元へ回り込む。
四腕戦鬼は力任せに踏みつけるが、
粘体の俺には決定打にならない。
その瞬間。
俺は、一気に収縮した。
足首を締め上げる。
「なっ――!?」
初めて、戦鬼の動きが止まる。
だが、すぐに筋肉が膨れ上がり、
拘束が引き剥がされる。
(……硬い)
一瞬の判断。
俺は、わざと体の一部を切り離した。
戦鬼の拳が、その部分を粉砕する。
「は?」
その隙に、俺は背後へ。
核を、背中へ叩きつける。
《捕食判定――失敗》
「……やっぱり、まだ足りないか」
四腕戦鬼が、怒り狂って振り返る。
腕が、俺の体を貫く。
「っ……!」
HPが、削られる感覚。
観客が湧く。
《決まった!》
《終わりだ!》
だが。
俺は、笑った。
「――捕まえた」
貫かれた部分から、
逆に絡みつく。
戦鬼の腕に、体を這わせる。
「離れろ!」
四腕が、俺を引き剥がそうとする。
だが、その動きこそが狙いだった。
俺は、体を一気に増殖させる。
腕。
胴。
首。
逃げ場を塞ぐ。
「な、何を――」
抵抗が、弱まっていく。
(……今だ)
俺は、核を戦鬼の胸元へ押し当てた。
《捕食条件達成》
一瞬の静寂。
次の瞬間、
四腕戦鬼の体が、内側から崩れ落ちた。
《捕食成功》
《大量エネルギーを吸収》
闘技場が、静まり返る。
数秒後――
爆発したような歓声。
《喰った!?》
《あの粘体が!?》
《捕食型だ!》
俺は、体を再構成しながら、静かに立ち上がる。
(……勝った)
HPは減っている。
余裕はない。
だが、確実に。
「これが……トーナメントか」
闘技場上空に、表示が浮かぶ。
勝者:ヴォルグ
観客の視線が、
嘲笑から――警戒へ変わっていた。
その中で。
一つだけ、鋭い視線を感じる。
観客席の上段。
刃殻種――レクスが、腕を組んで見ていた。
「……悪くない」
小さく、そう呟いたのが見えた。
俺は、視線を逸らさない。
(次は――)
まだ先だ。
だが、確実に。
最弱だった捕食者は、
この舞台で、生き残れる。
モンスター王トーナメント。
ヴォルグの戦いは、まだ始まったばかりだ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
予選第一試合、いかがだったでしょうか。
・力では不利
・正面衝突は避ける
・捕食型としての勝ち筋
を意識して書きました。
この一勝で、
ヴォルグは観客や他の参加者から
「要注意個体」として認識され始めます。
次回は
さらに相性の悪い相手や、
トーナメント特有の駆け引きが増えていく予定です。
感想・評価・ブックマークなどいただけると、
とても励みになります。
それでは、次話でまたお会いしましょう。




