洞窟の終わり、世界の始まり
読んでいただきありがとうございます。
第4話は、
洞窟編のクライマックスです。
主人公にとって初めての
「格上との本気の戦い」、
そして洞窟という閉じた世界の終わりを描いています。
ここを越えたことで、
物語の舞台は少しずつ
モンスター界全体へと広がっていきます。
それでは、第4話をお楽しみください。
洞窟に入ってから、どれくらい経っただろう。
俺は今、はっきりと理解していた。
――この洞窟には、序列がある。
弱い個体は、奥へ行けない。
中位のモンスターは、決まった縄張りを持つ。
そして――
「……ここが、一番奥か」
空気が違った。
湿った匂いの奥に、鉄のような血臭が混じっている。
床には、砕けた骨。
壁には、深く抉られた爪痕。
この場所に辿り着くまで、俺は何体ものモンスターを喰ってきた。
だが、ここだけは――誰も寄りつかない。
奥の闇が、動いた。
ずしん、と洞窟全体が揺れる。
現れたのは、巨体の獣だった。
岩のような皮膚。
太い四肢。
額には折れた角の名残。
「……洞窟ボス、ってやつか」
脳内に表示が走る。
種族:岩皮獣(洞窟支配個体)
危険度:高
正直、強い。
今まで喰ってきた相手とは、格が違う。
だが――
「逃げない」
ここを越えなければ、先はない。
岩皮獣が吼え、突進してくる。
速度は遅いが、質量が違う。
正面衝突は危険だ。
俺は床を滑るように移動し、側面へ回り込む。
岩皮獣の前脚が振り下ろされ、
洞窟の床が砕けた。
(当たったら、終わるな)
だが、動きは単調だ。
俺は形状操作で体を薄く伸ばし、
攻撃をかわしながら脚に絡みつく。
「――今だ」
体を急激に収縮。
核を押しつける。
岩皮獣が暴れ、俺の体が弾き飛ばされる。
「っ……!」
HPが削れる感覚。
初めて感じる、明確なダメージ。
だが、逃げない。
再び飛びかかり、今度は首元へ。
岩皮獣が吼え、天井が崩れる。
瓦礫が落ち、視界が塞がれる。
その瞬間――
俺は、全身を一気に広げた。
包む。
逃がさない。
岩皮獣の抵抗が、徐々に弱まっていく。
「……終わりだ」
最後の一撃は必要なかった。
《捕食成功》
《大量の進化エネルギーを吸収》
体が、震える。
これは――
さっきとは比べ物にならない。
《進化条件を満たしました》
《個体ランク上昇》
進化は、まだ始まらない。
だが、明らかに次の段階が近い。
洞窟は、静まり返った。
俺は理解する。
「……俺が、この洞窟の一番上だ」
そのときだった。
洞窟の入口付近から、声が聞こえた。
「……死臭が消えたな」
低く、理知的な声。
現れたのは、人型のモンスターだった。
角を持ち、黒いローブを纏っている。
「洞窟支配個体が倒された……ということは」
視線が、俺に向く。
「お前か」
敵意はない。
だが、完全な格上だと直感した。
「面白い個体だ」
そいつは、楽しそうに笑った。
「知っているか?
この世界には――モンスター王トーナメントがある」
俺は、黙って聞く。
「百年に一度、全種族参加。
勝者は、モンスター界の王」
軽い口調で、とんでもないことを言う。
「洞窟の王になったくらいで満足するなよ」
「強い個体は、
すべて、そこに集まる」
――喰い甲斐しかない。
「生き残れば、出場資格も得られる」
人型モンスターは踵を返す。
「覚えておけ。
次の戦場は、洞窟じゃない」
その背中を見送りながら、俺は確信した。
この世界は、
もっと広くて、もっと残酷で、もっと美味い。
「……いいな」
洞窟を出る時が来た。
最弱モンスターは、
次なる舞台――王を決める戦場へ、歩み始める。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
洞窟ボス戦、いかがだったでしょうか。
・正面衝突は危険
・知恵と形状操作で勝つ
・大量捕食による次段階への布石
といった点を意識して書きました。
ラストで少しだけ触れた
モンスター王トーナメントは、
この物語のメイン舞台になります。
次回からは
洞窟の外、より危険で広い世界が始まります。
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それでは、第5話でまたお会いしましょう。




