勝者を揺らした敗者
読んでいただきありがとうございます。
この話は、
トーナメントの延長でも、
王座を巡る戦いでもありません。
決勝で敗北し、進化したヴォルグ。
その姿を見て覚醒したレクス。
二体が
「王」「敗者」という立場を脱ぎ捨て、
互いの現在地を確かめるためだけに行う一戦です。
勝敗よりも、
“どこまで行ってしまったのか”。
そこに焦点を当てています。
それでは、最後の戦いをお楽しみください。
決勝戦場が、片付けられようとしていた。
崩れた地形。
残留する魔力。
王の誕生を祝う喧騒。
そのすべてを、
二体の沈黙が押しのけた。
「……来るな」
そう言ったのは、レクスだった。
王の刃は、まだ鞘に収まっている。
だが、
境界が、自然と引かれ始めていた。
ヴォルグの核が、
静かに脈動する。
立ち上がらない。
だが――
存在感だけが、増していく。
(……戦う気は、なかった)
それは本心だ。
だが。
(確かめたい)
自分が、
どこまで行ってしまったのかを。
「一撃だけだ」
レクスが言う。
「王としてではない。
殲滅者としてでもない」
刃が、抜かれる。
「――俺自身としてだ」
ヴォルグは、答えない。
代わりに、
空間が応えた。
世界が、ヴォルグ側へ傾く。
重なり合う在り方。
理解された地形。
戦場そのものが、彼の“領域”になる。
(……これが、進化か)
レクスは、踏み込む。
刃が、振るわれる。
境界指定。
存在の切断。
――だが。
刃は、届かなかった。
切ったはずの空間の“向こう側”に、
ヴォルグが、普通に在った。
「……なるほど」
レクスは、笑った。
次の瞬間。
刃が、変わる。
切るためでも、
排除するためでもない。
更新するための一閃。
境界そのものを書き換える刃。
世界が、再定義される。
その中心で、
ヴォルグの存在が、初めて揺れた。
(……王の覚醒、か)
今度は、ヴォルグが動く。
攻撃ではない。
侵食でもない。
重なり。
レクスの引いた境界に、
ヴォルグの“理解”が重なる。
越えない。
壊さない。
ただ、
境界の意味を変える。
「……はは」
レクスは、刃を止めた。
「ここまでだな」
次の一撃を放てば、
勝敗はつく。
だが――
それは、もう必要ない。
ヴォルグの核が、静まる。
戦場が、元に戻る。
「……分かったよ、レクス」
初めて、はっきりとした声。
「今の俺は、
お前を倒すための存在じゃない」
「俺もだ」
レクスは、刃を収める。
「お前を排除すべき存在だとも、思っていない」
二体は、向き合う。
もう、王と挑戦者ではない。
世界をどう進めるかを知ってしまった者同士だ。
「……また、やるか?」
ヴォルグが言う。
レクスは、頷いた。
「その時は、
今日とは違う世界だ」
一瞬、
二体の間に、笑みが走った。
この一戦は、
記録に残らない。
歴史にも、
伝説にもならない。
だが。
王ですら知らない場所で、
怪物と怪物が互いを認め合った。
それだけで――
世界は、もう後戻りできないほど前に進んでいた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この“もう一戦”は、
勝ち負けを決めるための戦いではありません。
・ヴォルグは、敗北を糧に進化した存在
・レクスは、その進化を受け止めて覚醒した王
二体は、
もはや同じルールの中で戦っていません。
だからこそ、
この戦いには明確な決着がなく、
同時に、はっきりとした「理解」があります。
――互いを倒す必要がない。
――互いを否定する理由もない。
それを確認できた時点で、
この物語はすでに終わっていました。
トーナメントは終わり、
王は決まりました。
けれど、
世界はまだ続いていきます。
王が守る世界の中で。
怪物が広げる世界の先で。
ここまで読み進めてくださった方、
本当にありがとうございました。
この物語が、
あなたの中で少しでも
“余韻として残る戦い”になっていれば幸いです。




