第2話:剣神の空 ― リューク、東部へ降り立つ
チカノート魔国北部・ネノリゾート
白砂のビーチに、魔王ギルは寝そべっていた。
ビーチベッドに身を預け、片手には冷えたビール。
魔王とは思えぬほど、リラックスした姿だった。
「ギル様」
秘書スタインが静かに近づく。
「なんだよ」
ギルはビールを飲みながら、サングラス越しに目を細める。
「リク荒野ですが」
「ああ、あそこな。終わったか?」
スタインが一枚の魔導端末を差し出す。
「北部、隊長ゼノンが討たれました」
「……は?」
「北部およそ1万、全滅です」
「は?ゼノンだぞ?大魔導士の……全滅?」
「はい。ラグナ・インフェルノで、半径5kmが消失しました」
ギルの手が止まる。
「……おいおい、情報多すぎだろ。ラグナ・インフェルノって、そもそも伝説だぞ?」
「はい。ですが間違いございません。ゼノン様含む1万が、消失しました」
ギルはビールを置き、顔を覆った。
「くそ……何が起きてる……」
スタインが冷静に続ける。
「ですがギル様、東部隊には剣神ゴリアテ。西部隊にはゴーレム使いのドーナがいます。恐らくゼノン様は、油断したのではないかと」
ギルは立ち上がる。
「確かに、1万の損失はデカいが……必ず勝てよ!」
「は!」
リク荒野・東部上空
マジックBOX内。
三人が東部戦線を見下ろしていた。
アイが報告する。
「東部隊上空です。その数、約1万。剣神ゴリアテ率いる魔剣士十傑の部隊です」
タクが笑う。
「剣士だってさ。リューク、行く?」
リュークが剣を背負いながら頷く。
「ああ、ほっておけない。行くよ」
ラノが首を傾げる。
「一人で行くの?」
リュークが笑う。
「お前が1人で行くんだから、俺も行くだろ。アイ、出してくれ」
『了解です』
空間が開き、リュークが上空に出現する。
風を受けながら、ゆっくりと降下していく。
「……浮遊魔法、習ったばっかりで早く降りれない」
チカノート魔国軍・東部部隊
「ゴリアテ様!上空から降りてくる者がいます!」
剣神ゴリアテは、静かに目を開けた。
その瞳は、戦場を見通すように鋭い。
「……撃ち落とせ」
魔導弓が放たれ、空中に魔力の矢が飛ぶ。
リュークは剣を抜き、空中で一閃。
――カンッ!
矢が弾かれ、空に火花が散る。
「……剣で、空中防御……?」
兵士たちがざわめく。
リュークは、ゆっくりと地面に降り立つ。
その足音は、まるで剣の刃が地を刻むようだった。
「剣神ゴリアテ……だな?」
ゴリアテが剣を抜く。
「名乗れ。剣士として、礼儀は守れ」
リュークが笑う。
「リューク・リアント。――お前を斬る者だ」