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Ⅲ パーティでの出会い(ⅱ)

驚いたロクスタは振り返った。そこには時代遅れのドレスを身にまとった婦人がいた。


婦人も驚いたロクスタに驚いたようだ。


状況が把握できず、困惑するロクスタよりも先に口を開いたのは彼女だった。


「あら。この子私たちが見えるみたい!」


すると彼女の後ろにいた婦人達がこちらを見る。


「あら!ほんとだ。見える人っているのね!」

「てことは彼女、魔女かしら?バレたら大変なことになるわね。かわいそうに。」

「あなたどこの家の子?初めて見る顔ね。」

「珍しい翡翠色の瞳を持ってるわ!」

「その様子じゃ初めて宮殿に来たのかしら?」


次々と喋りまくる婦人達に圧倒される。かなり騒がしいのに、周りの人々は一切こちらを見ない。


「そういえば、ラニアド家の馬車に乗ってなかった?」

「そうだわ!あなたラニアドね?そうでしょ!」




突然の出来事に混乱する。婦人達の声が遠のいて、異常に早くなった鼓動が頭に響く。呼吸が早くなるのを感じた。



「…リア…ダリア…」



「ダリア?大丈夫?」


肩を叩かれ、ベルナードに気がついた。目を見開いたロクスタにベルナードは驚いた顔を見せる。


「ダリア?どうしたの、大丈夫?落ち着いて。」




ふと視線を戻すと、婦人達は相変わらず騒がしい様子だった。ベルナードが彼女達に気がついていないのを見て疑問が確信に変わる。



「ダリア?今日はもう帰ろうか?」

「いや、大丈夫です。ごめんなさい。」

「いいや、大丈夫ならいいんだ。でも辛かったら言ってね、休憩室で休むこともできるから。」

「はい。ありがとうございます。」




幽霊だ。幽霊。



その証拠に時代遅れの服装に第2皇子が死ぬだなんて不敬なことを大声で喋っていても誰も目を向けない。



(…死ぬ?死ぬって誰が?第2皇子が?!)



「ねぇ!ちょっと!」



先程の会話が気になり婦人達に声をかけた。だが、振り返ったのは彼女達だけではないことに気がつく。周りの人が不思議そうにダリアを見つめているのだった。



それもそのはず。彼女は今誰もいない空間に声をかけたのだ。


「ダリア?」


心配そうにベルナードがロクスタを見つめる。


「あっ。いや、あの、すみません。やっぱり体調が優れないようで。休憩室で少し休んできます。」


「そ、そう。大丈夫?僕と一緒に行きま…ダリア?!」



ベルナードの返事も待たずに急いで廊下に出る。








静かな廊下に浅くて早い呼吸が響く。




呼吸が落ち着き、辺りを見回そうと屈んでいた体を起こす。


顔を上げた瞬間、先程の婦人の目が覗き込んだ。



「うわぁっ!」



叫んだ声が反響する。


ロクスタは反応を見て楽しそうに笑う婦人達に少し苛立ちを覚えた。



辺りを見回し、人がいないのを確認する。



「ねぇ!あなたたちは誰なの?それにさっきの話は何?」


ロクスタの言葉に彼女達は驚いて顔を見合わせた。


「あなた、怖がらないのね。」


思ってもいなかった返答に言葉が詰まる。


「っ何よ。まさかあなたたちが見えたから私、死ぬの?」


「いいえ、そんなことはないわ。魔女だとバレない限り。ただ普通は驚くものでしょう?」

「驚いたわ。十分に。それに私、魔女じゃないわ。」

「私たちが見えるじゃないの。」

「今まで見たことなかったわよ。急に魔女になるなんてありえないわ!」



魔女だなんて冗談じゃない。ここはカゼルシア。魔法や呪術といったものは禁止だ。疑いをかけられた時点でおしまいだ。ダリア・ラニアドは偽物だし、クアドロのことまでバレたら処刑は免れないかもしれない。



「他の人はあなたたちのことは見えないのよね?」

「そうよ。」

「私があなたたちに話しかけていても、他の人には空間に向かって喋っているように見えると?」

「ええ、そうよ。」

「…なぜ私はあなたたちが見えるの?」

「知らないわよ。そんなこと。私たちだって初めて会ったのよ。彼の言うことは本当だったんだって驚いたんだから。」




「彼って?他にもいるの?幽霊?」

「ええ。私たちだけじゃないわ。ほら、あそこにもいるでしょ。」



指の指す方向を見ると男女が親しげに歩いていた。



「いやだいやだ。マルコのやつまた違う女といるよ。」

「あいつはずっと女癖が悪いわね。」



あそこにいる幽霊はマルコというらしい。そして彼女達だけでなく他にも幽霊がいると。


彼女達はなぜここにいるのか。ここは宮殿だ。帝国の皇帝が住むというのにこんなにも幽霊がいてもいいのだろうか。


様々な疑問が頭に浮かぶ。ロクスタは恐る恐る尋ねた。



「…ここにいる人は誰なんですか?なんで…ここにいるんですか?みなさんはすでに…亡くなられたのでは?」




しばらくの沈黙の後、1人の婦人が口を開いた。



「私たちは王族よ。…王族だったのよ。あなたの言う通りすでに死んだわ。でも、好き好んでここにいるわけではないわ。」


「…ここにいるのは自らの意思ではないのですか?」


「違うわよ。…でももう慣れたわ。今日みたいにパーティに参加できるし、あなたみたいな人に出会えるなんてね。私たちが見える人に会えるなんて。」



そう言った時の彼女の表情がどんなものなのかわからなかった。ロクスタの知らない感情だった。




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