人の皮を被る悪魔
屋敷内に通された警備の冒険者達は詳しい説明があるとの事で応接間に連れてこられる。
「ようこそおいでくださいました、私は執事長です。多忙な旦那さまの代わりに説明しようと思います…この屋敷は人に化ける魔物の攻撃を受けております」
「リミキンか」
「だね」
「先日使用人の一人が宝物庫に押し入ろうとし警備の者が取り押さえようとしましたが物凄い力で振り払われ逃げられてしまいました。その後逃げたはずの使用人が物置で死んでいるのが発見されおり魔物ハンターの知恵と冒険者のお力をお借りしようと皆様を御呼びした次第です。頼りにしております、コルト兄弟」
どうやらこの男同士のパーティーは兄弟のようで魔物の生態に詳しいらしい。
ヴォルトが発言する。
「そのリミキンって言うのはどういう魔物なんだい?」
「奴らは触った人間に化ける事が出来て癖も記憶も引き継ぐ事が出来る。どれくらいの記憶引き継げるかは個体差がある。あと魔力を含むアイテムが大好き」
この兄弟はソフトモヒカンの方が兄貴の様で、弟が背のでかい方。その弟が続けて説明する。
「記憶があるから人語を喋れる、珍しい魔物だ。見分けるには銀を押し当てる、当てて肌が赤くなったらソイツはリミキンって訳」
「で、見付けたら銀の武器で心臓を…分かるだろ?」
「ご説明ありがとうございました、今回の舞踏会は当家の威信がかかっております。特別な魔道具の発表がありますゆえ何としてでも成功させたいと思いますのでどうかよろしくお願いいたします」
「そうだ執事長、食事に使うナイフとフォークを銀食器に変えられるか?」
「分かりました、では私も準備がありますのでこれで失礼します」
一礼すると、執事長が退室する。
「手分けしよう、俺達は人の多い広場を。お前達は怪しい人間でも探すなり宝物庫を見張るなりして大人しくしててくれ」
「兄貴、言い方」
「…俺達だけの方が早く見付けられる。下手に接触して化けられたら大変なんだ」
「前に似たような事件があって、冒険者の一人が化けられたんだけど相方が信じなくてね。リミキンを守るために僕達と戦うハメになった。最後はリミキンに後ろから刺されて殺されたよ」
「とにかく怪しい奴を見付けたら知らせてくれ。あと銀を見えるところに付けていてくれ、目印になる…行こう、アレク馬車から道具を持ってくるんだ」
「あぁ、じゃあ皆あとで」
解散して応接間を後にしたヴィーア達は歩き出す。
「ヴィーアどこへいくの?」
「広場だ、酒とうまいもんがあるに違いないぞ」
「でもさっきの魔物ハンターは大人しくしてろって…」
「ばかもん、何故俺がそんな命令聞かなきゃならんのだ。急がなきゃ食いもんが無くなるぞ俺に続け!」
「あぁ、待って。速いってば!」
ヴィーアはずんずん進んで広場のドアを開ける。
広場正面ステージには音楽団が演奏しており、貴族達が談笑していたりヒソヒソと内密な話をしている中給仕がワイングラスを持って参加者に配っている。
「中々豪華ではないか」
「こんな料理見たこと無いわ!」
「見ろ、タワーの先っちょからチーズが溢れてる!」
「こっちはカタツムリがいる!うぇー」
「よし食うぞ!」
ウキウキになったヴィーアは肉の乗った大皿の端からフォークを滑らせると一度に10枚の肉を拾い、一口で平らげた。
「ちょ、ちょっとヴィーアまずいわよ目立ちすぎちゃった」
「構うもんか、どうせ二度と会わん連中だ」
ヒソヒソ話の対象がヴィーア達になったようだ。
そこへ給仕のメイドが一人やってくる。眼鏡をかけた凛々しい表情の女性だ。
ヴィーア達の前で止まり美しい所作で一礼する。
「お客様、とてもお腹を空かせている様子です、よろしければ別室にて提供させて頂きます。ご同行願えますか?」
暗に他の客に迷惑だから他所へ行けと言われている。
「…ほう、君が接客してくれるのかな?」
ヴィーアの目が一瞬でだらしないものに変わった。
メイドさんってご主人様特権でどこまでいたずらして良いのか気になるよね