今からどう楽しむか考えるのも楽しい
教皇庁で治療を受けていたニコラウスだったが、体内に突き刺さった異物を取り除き止血が終わるや否や教皇への謁見を求め治療を切り上げ部屋から出ていくのをシスター達が大慌てで引き留める。
「まだ歩いてはいけません、死んでしまいますよ!」
「ぐっ、今動かねばもっと大勢死ぬ!手伝わないのなら邪魔をするな!」
「伯父様!」
「居てくれたかシャノン、すぐに教皇の元へ行かねばならん。連れていってくれ」
「分かりました、さぁ肩を」
「あぁもう…誰か来て下さい!」
恰幅のいいシスターの制止を振り切り教皇の間へと向かう二人。
「…どれくらい気を失っていた?」
「四時間程、日が変わったばかりです」
「そうか、何か報告は?」
「また問題が。別れた後ヴィーアが一連の自爆事件の首謀者として指名手配されました。事件後、救助活動をしていたダラン教を強襲、信者を殺傷し腕輪を奪ったと軍の放送により全国放送で発表されてしまいました」
「奴等め、隠れ蓑にするつもりか…しかしあの男は、よくも面倒ばかり起こせるものだ」
ニコラウスが苦虫を噛み潰した様な顔をしたのは痛みからか、はたまた別の原因の何かか。
ともあれ痛みに耐え教皇の部屋へと到着した二人だが、扉の前に控えていた武装神官に止められる。
「ニコラウス枢機卿。今はどなたも通せません」
「非常時だ、それは分かっている。ただどうしても教皇と話をする必要がある、今すぐにだ」
「教皇様はお休みになっておられます。後程、明朝にお越し下さい」
「それでは遅いのだ、一刻を争う!」
「下がってください、私達は武器の使用が認められています!」
「どうしても止めたくば、私を斬るのだな」
更に踏み出したニコラウスに剣を抜いた武装神官達と同時にシャノンも剣を抜き一触即発な雰囲気が漂う。
だが剣呑な雰囲気を打ち破ったのは、内側から部屋の扉が開き教皇のアルマーニが眼鏡の汚れを拭きながら出てきたのだ。
「何事ですか?…おぉ、ニコラウス枢機卿、会えて嬉しいです」
「お久し振りに御座います、今すぐ御報告したく参上したのですが…」
「教皇様、今はお部屋にお戻り下さい」
「この方達は大丈夫です、通して上げて下さい」
「しかし...」
「分かりましたね?」
「御心のままに…」
寝心地の良さそうなベッド、身なりを正す大きな鏡、同じく教皇服が何着も入ったクローゼット、書き物をするための机と椅子。
それが教皇部屋の全てで、必要最低限の家具しか無いがどれも最高品質で、それは誰がどう見ても上等だと分かる。
「すみませんね、椅子無くて…」
「構いません、お心遣い感謝します。それより本題です」
「分かりました、聞きましょう」
「封鎖を解除し、外にいる枢機卿達を中へ入れて下さい」
「…それは何故ですか?現在明らかに攻撃受けていますが」
「この状況こそカミラの思うツボです、孤立した枢機卿達を狙うのは容易い」
「カミラですか。先の大戦の亡霊、勇ましき、大いなる殉教者である息子の母親……。ニコラウス枢機卿は、カミラがどれ程力を付けたと思いますか?」
「…既に私では、よくて相討ち。しかも十分に準備、計画し、人数を揃えて。です」
「ふぅむ…」
「これ以上力を付けさせない為にも枢機卿達を保護し、一丸となって戦うべきです」
「…分かりました。信徒を守るのも教皇の務め、すぐに取り掛かりましょう」
「賢明な判断です…」
「それはさておき…傷を見せてください」
「む…御心配なく」
「見せてくれますね?」
ニコラウスは傷を押さえている手を退けると痛々しい血の滲んだ包帯が現れ、シャノンが息を飲むのが聞こえた。
アルマーニは傷口に手を当て、詠唱の代わりに神に祈ると力を行使した。
強い光が差したかと思えば直ぐに収まり、ニコラウスに微笑む。
「さぁ終わりましたが、お加減はどうでしょう?」
「…今までの痛みが嘘の様です。相変わらず神の御技と言うべき御力ですな」
「はっは、信仰の賜物です。ただ、抜けた血液までは回復しませんので暫くは安静にして下さい」
「感謝致します、では私はこれにて…」
「教皇様」
「おや…なんでしょう?」
「今、外で起きている自爆事件の犯人にされてしまった男の件をご存知ですか?」
「すみません、今まで寝ていたもので何も分かりませんが…教えていただけますか?」
「濡れ衣を着せられた男の名はヴィーア、私の友人。そして、カミラを倒せる力を持っている男です」
ヴィーアは流れの強い水流をひたすら泳いでいた。
それは鮭が産卵の為に滝を登るかの様に、または向かい風に逆らい飛ぶ鳥の様に進んでは戻されている。
「こんな流れがすげぇなんて聞いてねぇぇぞー!」
常人や並みの冒険者では進むことすら叶わないのだが、持ち前のパラメーターとリュドミラに会うと言う目標の為に突き進んでいる。
夜も更け、井戸に飛び込む少し前の事だ。
ヴィーアとマリアは闇に紛れ井戸の近くで最終確認を取っていた。
「道の下が水路、だからここから飛び込んで進み、別れ道は全部左へ行って。正しい道を選べれば城を囲う水路に出る」
「出たら城壁の上からロープを垂らして先生を引っ張り上げる。だな?…あの後地図描く為に紙を出したらそれが水路を描いた地図だったなんてな、流石俺様、ツイてる」
「そうね、普通こんな偶然は無いわ。運命的なモノを感じる」
「運命なんかどうだっていい、俺が気持ちいいように全てが進む事が重要だ。で、マリア先生は来ねぇのか?」
「…泳げないのよ。それに加え流れも速いみたいだから無理ね。ねぇ、本当に隠れ家で待っててはいけないのかしら」
「隠れ家に行く途中で何人にも顔を見られたろ、あの放送の後通報したヤツがいたっておかしくない、だったら俺様といた方が安全だぞ、守ってやれるからな!」
「言っている事は理解しているのだけれど…私、ただの女よ?魔物と戦ったことも術も持たないただの女…恐くないと言えば嘘になる」
「その先生を恐がらせる全部から俺が守ってやる、心配すんな。恐くなった時、神に祈る暇があるなら俺に祈るんだな!」
そう言って高笑いするヴィーアを、「見つかるから静かにして!」とマリアはたしなめるが、心が軽くなるのを感じた。
そして現在、うち上がった魚の様に床に倒れアビラバに腹を押されては水を吹いている。
ここは中庭の様で、無事に城の内部に入り込めたようだ。
「うぅ、ぐるじ…」
「めんどくさいわね…早く全部吐き出してよ」
「お前はあの水の流れを知らんからそんな酷い事が言えるんだ!それに流れてきたゴミだ!顔に避妊具が張り付いた時は死ぬかと思ったぞ!」
「それで死んだら天界の天使も大笑いでしょうね、その後悪行の数々を読み上げられ極魔に送られて悪魔にも笑われる。なんてかわいそうなご主人様…ぷっくくく…がはっ、ごべんなざいゆるじで!」
「てめぇこの野郎久し振りの首絞めはどうだ?あぁ!?」
アビラバへの折檻が終わると、ヴィーアは近くの扉を少し開け内部を伺う。
深夜だと言うのに松明や照明魔道具がふんだんに使われており明るい。
これでは遠くからでも発見されてしまうが、幸いにも兵士は見当たらなかったので中に入る。
城の構造などコナモン城しか知らないが似たようなモノだと当たりを付け進むと思った通りの場所に階段があり、それを上っていくと城壁の最上部に出る。
間反対に灯りを持った兵士が見え、近くにももう一人灯りを持った兵士がいる。どうやらお互いに時計回りと反時計回りで一定間隔で回って警備に当たっていると思われた。
「先生どっちかな」
「えっと、あっちかな」
「…お前だいぶ協力的になったよな」
「はぁ!?そんな事ないから!また首絞められたくないからやってるだけよ!」
「なはははそう言うことにしておいてやる、ほれお尻タッチ!」
「っ…やめて揉まないで!指をいれるな!」
「ん?誰かいるのか」
潜入していること等忘れいつもの様子で会話してしまうと近くの兵士が足を止め振り返り、こちらに向かってきた。
「どうすんのよバカご主人様!私帰るからね!」
「あ、おい!逃げやがった…どうするだって、決まってんだろぶっ飛ばして気絶させんだよ!おらぁ!」
「うわ誰だおまっ」
物陰から飛び出したヴィーアは兵士の兜を、整理を使い目にも止まらぬ速さで反対に向け視界を奪うと、引き倒しこめかみに蹴りを見舞い気絶させる。
「後は時間との勝負って訳だ!」
中腰になり発見のリスクを押さえながらマリアのいる方へ進み下を覗き込むと、裏路地から僅かに顔を出しこちらを覗いているマリアと目が合う。
ヴィーアは急いで肩に巻いていたロープを垂らしてマリアに手招きをすると、駆け寄ってきたマリアがロープを掴む。
しっかり掴み、腕に巻きつけたのを確認したヴィーアは勢いよく引っ張るとマリアが下で驚いた顔をし、城壁を走るように上ってきた。
「ちょっと加減してよ!」
「そうも言ってられんのだ、一人気絶させちまったからな。起きてもダメ、あそこにいるヤツが気絶させたヤツを見付てもダメな状況だ」
「なるほど…まかせて、この薬を飲めば直前の記憶を無くしてくれるわ」
「おぉ、ナイスだ」
そう言ってマリアがポケットから錠剤の入ったケースを取り出すと一つ気絶した兵士に与えた。
「これでよし、後は勝手に転んだとか解釈してくれるわ。行きましょう」
「よーし、リュドミラちゃんを探すぞー!どんなプレイしようかなーやっぱあのデカパイで一度挟んで貰わねば無作法と言うものだろう!」
「キミ、言ってる事ヤバいって」
来た道を戻り再び城内探索へ、ヴィーアはリュドミラを探しに行くのだった。




