表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/133

二個目の腕輪

 狭い空間、換気の悪い簡易テント、申し訳低度の網をおろしただけの窓から煙が排煙されるが殆どが室内に残っている。

普段煙草を吸わないヴィーアの鼻がムズムズし始め、何度目か分からない指で鼻の下を擦ったのを女医が気付くと謝りながら煙草を消してくれた。


「煙草、嫌い?」

「臭いからな。まぁ酒を飲んで酔ってればそんなに気にならんのだが。それに煙草吸った女とキスした事あるが嫌な味だったからな、しばらくやめとけ」

「そう。でもキミとキスする予定無いから大丈夫よ。キミ、いくつ?」

「いやいや分からんぞ、男と女が密室にいればな!あと俺様は二十歳だ」

「はいはい、じゃあもっと歳の近い娘と遊びなさいな。こんな二十七の不良の医者なんかよりね…それで、話を戻したいんだけど」

「あぁ、手より股間を見て欲しいんだが」

「そこじゃないから…この事件を起こしてるのが私達ダラン教っての。思い入れ無いとは言え父親も現場に出てるし自分の所属してる教会が謂れの無い言い掛かりを付けられてるのはいい気分じゃないのだけれど、証拠は?」

「あるが、証明は出来ない」

「なにそれ、糾弾するには筋が通ってない。頑張って話してみなさい」


 椅子に座る女医はヴィーアの返答に苛ついた様に足を組み直し、煙草に手を伸ばそうとして…やめた代わりに睨み付ける。


「網タイツか、似合ってるしエロイな」

「ありがとう。それで真面目に聞いてるんだけど?」

「ふむ…ほれ」

「首輪?…キミ、俺様系なのにご主人様がいるの?変わってるわね」

「違う。この腕輪か首輪を付けられたヤツは魔力暴走みたいなの起こして爆発するんだ。なんでいの一番にダラン教が現場に駆け付けると?爆発現場を知ってるしこの呪われたブツを回収して証拠を隠滅してるんだ」

「…証拠としては弱いわね、私達が付けてる証拠があれば別だけど。キミは誰に付けられたの?」


 女医の問いに改めてあの晩の事を思い出そうとする。


「それが酔っててなぁ…もこもこ羊…セクシーマーンドラゴラダイコン酒…うっ、頭が!」


 ヴィーアが頭を押さえ片膝を付くのを女医は冷めた目で見る。


「はいはい、それやりたいだけでしょ…どうして男ってガキなのかしら」

「なはははバレたか!ともかく、もこもこ頭の美人が居てそいつの寝床で起きたらこれが付いてた、俺としたことが顔は覚えてない!」

「…次の方どうぞ。じゃなくてもう帰りなさい、忍び込んだのは黙っててあげるから」

「いいや先生、今この現場で奴等が集めてる腕輪を奪うのに協力して貰うぞ」

「は?なんで私が…」

「さっき、親父が現場にいるって言ったな?家族が殺人に加担してるとしたらどうだ?」

「それは…確かに、嫌ね。けれど父は立派な人間だと思うわ、そんな事は絶対しない。それに地位があるのよ?そんなリスクを負うとは思えないのだけれど」

「バクンの街来たのは…なんだっけ…インポテンツみたいな名前の…樽族の…バカ面した偉そうな奴」

「何その苛められっ子みたいな名前…もしかして、ンポテツ大司教?」

「おーたぶんそれだ!そいつがしゃしゃり出てきたんだぞ、地位なんか関係ねーよ」

「そう、ねぇ…」

「な、確かめたくなったろ」

「…はぁ、少し待って。患者に治癒をもう一度掛けてからよ。タイムリミットは次の治癒まで」

「ま、いいだろ。早くしろよ」


 女医は立ち上がりポケットに煙草のパックをねじ込むと準備完了のようで、再び患者に治癒を掛けにいった。


「さ、父の所へ行こうか。でもその格好のままだと目立つわね。これでも着て」

「白衣?もっと目立たねぇかこれ」

「剣ぶら下げた冒険者よりマシよ、私の助手って事にするから。治癒使えたりする?」

「初級ならな…きついなこれ」

「私の白衣だし、文句言わない」


 列を並んでいた市民達が休憩中の看板が出て以来停滞していたが、ようやく医者出てきたかと思えば自分達を無視し通り過ぎて行くのを見て抗議の声をあげられ、女医は足を止める。


「おい俺達はいつまで待ってればいい!?」

「…そんな大声出せるなら死にはしないわ、大人しく座っていて」

「なんだと、あんた医者だろ!?」

「まだ用があんのか?怪我してぇか?怪我してからなら診てやるぞ」


 呼び止めた男は更に声を荒げようとしたがヴィーアに睨まれると渋々と下がっていった。


「良いわねキミ、荒事に慣れてる。それも相当」

「こんな事仕事終わりに酒場に行ったらしょっちゅうだ。野郎に絡まれたってなんの得もねぇからすぐ殺してたが」

「冒険者ってそんな荒れてるの?流石に殺したら問題にならない?」

「フーキには決闘法があるからな、お互い武器持ってて絡んだならそっから先は自己責任だ」

「そう言えばフーキは戦闘民族だもんね。昔から内乱してて…なんだっけ、戦国時代って呼ばれてるんだっけ?」

「そうらしいな。この規制線…この先が爆発現場か?」

「父がいるとしたらこの先の筈、行こう」


 幸いにも見張りも居ない、膝まで垂れたちゃんと張られていない規制線を踏みつけて跨ぐ。

爆心地ともあって建物や道路の損壊は激しく、血も多く飛び散っている。

瓦礫には掘り出されていない死体の腕が伸びているし、既に事切れている遺体も運び出されずそのままだ。


「どういう事、まだ遺体がこんなに…救助もせす何をしているって言うの…?」

「言ったろ探してんのは()()だ」


 ヴィーアが首を傾げ改めて首輪を見せると、顔をしかめた女医はポケットから煙草取り出し火を付ける。


「外くらい大目に見なさい」

「何も言ってねぇだろ、好きに吸え。けどこっちに煙を吐くなよ、なんかムカつくから」

「ふん…」


 不機嫌なオーラを纏ったまま瓦礫を乗り越え人を探すと裏路地にダラン教徒達ががいるのが見えて咄嗟に隠れた。

何かを探しているようだ。


「おいあったか?どこだよ一体」

「いや見付からん…この辺だと思うんだがな」

「ある程度の制御は出来るが、最後はソイツの感情次第だから成果に安定感が無いのがな、どこに飛ぶか分からないし」

「見付かるまで帰ってくるなって、チーチンさんも酷いよね」

「仕方ないだろ、誰にも拾わせる訳にはいかないしな」


 ヴィーアは女医が息を飲むのに気付き、顔はダラン教信者のまま横目で見ると奥歯で煙草を噛み締めている女医がいた。


「チーチン…」

「親父か」

「そんなとこ」

「お、あったぞ!」

「なに、どこだ?」

「腕ごと街灯に引っ掛かってる。面倒だな…梯子取りに行くか」

「そうしよう」


 ダラン教信者達がこちらにやってくる。どうやら梯子を取りに行くようだ。


「やば、こっちに来る」

「一旦離れるぞ。そこの建物に入れ」

「命令とは言え心に来るよな、ダラン教信者も巻き添えにしないとルクセニア教を詰められないし」

「全て御母堂様の為だ」

「そうだけどさ…うん?」

「どうした?」

「煙草の臭いがした気がする」

「煙草だぁ?…気のせいだろ、大方どこかの火事で人が燃えてるのさ、さぁ急ごう」

「かもな…」


 扉から様子を見ていたヴィーア達の目の前をダラン教信者達はぞろぞろと通過していった。


「バレたかと思った…禁煙しよっかな」

「そうしろ、こんなに近いのに女の良い匂いがしない」

「すんすん…そんなに臭う?」

「喫煙者は自分の臭いが分からんってのは本当だな。二階に行くぞ、窓から屋根に上がって腕輪を頂いちまおう」

「うーんそんなに臭くないと思うんだけど…」


 いまだに服や腕の臭いを嗅いでいる女医を無視し二階上がり適当な扉を開ける、この家の夫婦の寝室の様だ。

大きな窓はガラスが割れ片方の枠が外れかかっている。


「この窓から向こうの屋根に飛んで、屋根伝いに行けば手が届くだろ」

「冒険者って本当凄いわよね、そんな事も出来るんだから。じゃ、ここで待ってるから」

「おい、禁煙したんじゃなかったのか」

「してたでしょ、()()()


 そう言うと女医は新しい煙草に火を付けるとベッドに寝転び、寝タバコの構えを取った。


「…まぁ待ってろって言うつもりだったんだが、なんかムカつくな…」

「ほら怒ってないで、彼等が戻ってくるわよ」


 窓枠に足を掛け、向かいの屋根を見る。

首都で街が栄えているのもあって家の間隔が短いのが幸いし難なく跳び移れそうだ。

体を揺らし反動を付けると一気に飛び乗ると、爆発で破損していた屋根がパラパラと落ちたが大きな音は鳴らずに一安心し、腕輪の引っ掛かった街灯を目指す。


「どこだっけ」

(あっちよあっち。その隣)

「これだな。念動力で引っ張って取れりゃ良かったが、引っ張るしか出来ないからこうも引っ掛かってちゃ取れん」


 街灯を見下ろす位置からなら念動力が使え、引っ掛かりから抜ける様に()()()ごと腕輪を引き寄せる。


「きもいな」

(そうね、けど焼けたおかげで血は出てないから良いじゃない)


本当は腕を外したかったが時間が無かったのでそのまま袋に入れ引き返そうとした時だった。

足音と金属が鳴る音、そして話し声が聞こえてくる。


(奴等よ!)

「もう戻ってきやがったか…」

「この辺りですチーチン大司教」

「そうか、すぐに回収して食事にしよう。今日は肉以外がいいな」

「ははっ、そうですね」


 ヴィーアは見付からぬ様に姿勢を低くし、女医のいる建物に戻ろうとしたが、また屋根が崩れ石が落下する音が響く。


「くっそ…」

「なんの音だ、誰か居るのか!?」

「屋根が崩れた、上に誰かいるのかも知れん」

「探しに行くぞ、ここから上がれそうだ!」


 信者達が屋根に上がろうと近場の建物に殺到しようとした時だった。


「父さん」

「これは先生…」

「マリア?ここで何しているんだ。救護所の仕事はどうした?」

「知ってるでしょ、連続で治癒を掛けても身体への負担が大きい。だから次の治癒まで散歩に」

「規制線を張ってたはずだ、こんな所まで来るのは感心しないな」

「それについては謝るけど、そっちこそ何をしているの?見たところ救助が進んでない様だけど」

「それは…良いから戻りなさい、今は救助の計画を立てていた所だ」

「ふーん…」


 マリアと呼ばれた女医は自然な感じに首を回しながらそっと屋根上を見ると一瞬だけ親指が立った腕が出てきたので話を切り上げる。


「分かった、私も戻るから。父さんも頑張って」

「あぁ、一段落したら一緒にご飯にしよう」


 マリアは振り返らず左手をあげる事で返事とし、その場を去った。


「おう先生、ナイス機転だ。それともマリアちゃんと呼ぶか」

「年下にちゃん付けされたくないから」

「じゃあマリア先生だ」


 路地裏を抜け、救護所に戻ってきた二人。

ヴィーアは手近なテーブルに向かうと袋をから腕輪を乗せる。


「勝手にしなさい…それで、これが例の?」

「あぁそうだ、付けたら最後、爆発するまで外せない呪いのアイテムだ」

「ふぅん…ところでさっき親指立ててたのってこれ?」

「なはははバレたか!」

「本当男って…」


 ヴィーアの笑い声が響き、寝ていた患者が目を覚ましたが、痛みですぐに気絶した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ