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一番良いシーンの記憶が無いんだが、夢じゃねぇよな

 ゴラート連邦は大陸で最も大きな国家だ。

縦にも広く横にも端から端まで領土であるので同じ国にいても場所によっては南部なら砂漠、北部なら雪が降ったりする。

南部暮らしが長かったヴィーアは雪なんて久しぶりに見たなと思いながら酒場で声をかけた女のふわふわした髪を見て思ったのだった。

他にも外套の下は軽鎧を着込んでおり、近づくまで分からなかったが背中に、布に巻かれた大振りの剣を背負っているのを見るとどうやら戦闘職のようだ。

上から下まで無遠慮に見回し、また顔を見る。

元は白かったろうに冒険を続けて少し茶色になってしまったのか、顔の日焼けと白いうなじのコントラストが衣服の下はどうなっているのかと想像を掻き立てた。


「気になりますか?わたくし、どうにもくせ毛でして、いくら手入れをしてもこうなってしまいますの。友人にも「まるで羊獣人みたいよ」ってよく言われます」

「いいや、ふわふわもこもこしてて可愛いと思うぞ。嫌いか?自分の髪」


 会話の途中でも手櫛をいれ少しでも直そうとする手を止めない女にヴィーアは感想を述べつつ質問をすると、髪から顎に手を当て少し考える素振りを見せる。


「どうでしょう…同性の友人からは手慰みように撫でられます。撫でられるのも悪い気はしないのですけれど初対面の方からはよく驚かれます」

「確かに最初は獣人かと思って驚いたが別に変じゃない、俺も撫でてみたいぞ」

「あら…それはまた次回にでも」

「ガードが固いな。ところで見たところ冒険者なのか?」

「いいえ、わたくし今傭兵を生業としています」

「ほーん、育ちも良さそうなのになんでまた傭兵なんかに」

「色々ありましてお金が必要なので。お仕事があればなんでも引き受けますよ?」

「なんでも…ね。一体どこまでやるんだろうな」

「ふふ、どうなんでしょうね」


 女はのらりくらりと質問を躱しコップのフチをなぞる指を離すと中身を一口煽った。

何を飲んでるかは分からないが果実酒のような可愛いものでは無いだろう、吐く吐息に混ざるアルコール臭はとても度数が高そうで隣に座っているヴィーアは鼻を鳴らす。


「ま、気が向いたら何か頼むとしよう。で、君の事は何て呼べばいいんだ?俺様はヴィーア、スーパーで最強の冒険者だ」

「ではリンヒと御呼び下さいませ。わたくしもこう見えて結構強いのですよ?ハイパーな傭兵です」

「む、ハイパーだと…スーパーより凄そうで負けた気分でなんかムカつくな」

「まぁ…それは申し訳ございません。ではヴィーア様、わたくしと勝負致しませんか?負けた方は一つ言うことを聞くと言うのはどうでしょう」

「勝負だぁ?なははは言ったな、最強に挑もうだなんて愚かな!どんな勝負だろうと俺様に負けは無い、何で勝負する?」


 既に勝ち誇った様に立ち上がり、椅子に片足を乗せるとリンヒを指差すヴィーアを、微笑みながら見て更に酒を飲むリンヒは飲み干したグラスをカウンターへ静かに置くと店主を呼ぶ。


「ふふふ、では…飲みくらべ勝負で。わたくしが買ったらここの払いをお願い致しますね。」

「良いだろう、俺様が買ったら一晩一緒に過ごして貰うぞ!」

「それはえっと…随分と正直ですのね」

「取り繕って紳士面してどうなる、それでチャンスを逃したらただのバカだ!」

「ふふふ…そうですわね!分かりました、お供致しましょう。すみません、お代わりを頂けますか?この方にも同じお酒を」

「はいよ、こっちとしちゃ金を払ってくれりゃなんでも良いんだがな、吐くなよ」

「なんだジジイ、俺が酒なんかで潰れる訳無いだろ良いから注げハゲ」

「おいなんか始まるみたいだぞ!」

「飲みくらべか?すぐ潰れんなよせいぜい楽しませろや!」

「あっちの姉さんすっげぇ美人じゃね?俺も参加しようかな!」

「やめとけよ昼間、腹に穴が空いたばっかだろ?あの瓶見てもまだやる気か?」

「…今日は勘弁しておいてやるか」


 カウンターが騒がしくなり、四人組が囃し立てる中親父はカウンター下から縦長の瓶を取り出し二人の前に置く。

白い液体の中に何かが浮いているおり、ヴィーアは顔を近付け正体を確かめると小さく唸り声をあげる。


「セクシーダイコンマーンドラゴラ酒…だと」

「はい!わたくし、このお酒が大好きでして…見て下さい、別れた下部が足を組んでる見たいに絡まっていますし盛り上がった背中はタオルを首から下げている様に見えますし、何より苦悶の表情でお酒を吐き出しているのが可愛くて可愛くて!」

「酒を吐き出してるんじゃなくてよだれなんだがな、解析してみると酒と変わらんってだけだったんだよ姉さん」


 でっぷりした奇形のダイコン型の魔物は狭い瓶に押し込められ座ることも出来ず体液を流し続けている。

ゴラートのとある極寒の場所にある最凶刑務所では囚人が24時間食事をする時も寝る時も横になる事が許されない刑務所があることをヴィーアは思い出し、普段は魔物などに慈悲のかけらのカスすらも与えないのだが、一種の憐れみを覚え視線を逸らした。

ちなみにこのダイコン魔物は、畑に寄生し周辺の作物の栄養を奪い取る為、農家からは野生動物とは比にならない程恨まれておりこのような拷問じみた事をしたら高い度数の酒が産まれたと言う話である。

更に余談だが、引き抜かれると奇声ををあげながら人間のすねに全速力で突っ込んでくる。

もちろん悶絶する程の痛みに襲われるのだが、当のダイコンはへし折れ自滅しており、怒りをぶつける先が無くなるのも中々恨みポイントが高く、運良く生捕りにした際は拷問もとい酒の抽出作業に農家は精を出すのだ。


「あ、見て下さいませ!こっちみて笑いましたわ!」

「酔っ払ってんのかよ、どうみても殺してくれって表情じゃねぇか」

「いいえ、まだ序の口ですわ。さぁ注いで下さいませ、勝負と致しましょう!」

「はいよ…兄ちゃん、吐いたら別料金だかんな」

「だ、誰に向かってモノ言ってやがる…さっさと寄越せ!」


 アルコール度数68%、余裕で火が着く度数の酒が、二人の前に置かれたショットグラスに並々と注がれる

ヴィーアとて酒に弱い訳では無い、ウィスキーやラム酒、40度前後の酒ならよく飲む。

ただそれ以上高い度数の酒は、舌と喉が痛いだけで旨くも何とも無いと思っており飲んでこなかったのだが、既に杯を持ったリンヒは急かす様にヴィーアを見るので覚悟を決める。


「さぁヴィーア様、持ち時間は十秒。それまでにグラスが空になっていなければそこで勝負は終わりです」

「やってやろうじゃねぇか、いつでもいいぞ」

「はい、じゃあ開始」


 やる気の無い親父の合図と共に二人は飲み始める。

リンヒは喉を鳴らし味わって飲んでいるがヴィーアは舌を引っ込め味が残らないように一気に飲み干す。


(お、少し辛いが意外とまろやかな味と風味だな。これなら行けるかも知れん!)

「初めて飲んだが旨いなこれ」

「ええ、ええ!ヴィーア様も分かりますかこの良さが!さぁお代わりを!」

「おうどんどん寄越せ!」


 順調に飲んでいたヴィーアだったが五杯目に入った時には既に酔いが回り、酒が脳を浸し、思考が纏まらなくなっていた。

二人の勝負を肴に好き勝手喚く四人組の喧騒すらどこか遠くに感じ、ゆっくりと時間をかけてなんとか飲み干す。

既に飲み終わっていたリンヒは、辛そうに飲むヴィーアをどこか嗜虐的な目で見つめ、頬を紅潮させ鼻で荒い呼吸を繰り返している。


「ほら頑張って下さいませ、もうすぐ十秒経っちゃいますよ?」

「んぐ…ほらどうだ…飲んでやったぞ」

「素敵ですわ…さぁ次のお酒が来ましたよ。ちゃんと飲まないと負けちゃいますわよ?」

「なにをう…まだまだいけるぞ…」


 リンヒは注がれ酒を一瞬で飲み終わるとボーッとしているヴィーアの耳元に口を近付ける。


「飲まないのですか?負けを認めますか?」

「ふざけろ…俺様が勝って、一発ヤるんだい…」

「そうですわよね?私と一緒に寝たいですわよね?でももう時間がありませんわ、ほら、5…4…3…2…1…ぜーろっ」

「も…むり…」

「はい姉さんの勝ち、金を払いな。ってもう聞いちゃいねぇか」

「うぉぉすげえぞあの女!」

「どうなってんだ全然酔ってないぞ」

「店主様、私が払うのでご心配無く。では私はこの方を連れて引き上げますので、どうもお騒がせ致しましたわ。さぁヴィーア様、歩きましょうね」

「はいよ…またどうぞ」


 ありゃ何かに巻き込まれるなと、リンヒに担がれるヴィーアを見ながら改めて酒の恐ろしさと、心にも無い無事を自らの神に祈りを捧げた。


(うぅ…ここはどこだ?頭いってぇ…)


 何処か薄暗い部屋のベッドで目を覚ましたヴィーアは痛む頭を動かさず視線だけで巡らすがどうにも見覚えが無い。


(あれ、なんで裸なんだ…?)

「おぉーい、ガリーナちゃん…いるかぁ、水くれぇ」

「まぁ、酷いですわ。今他の女性の名前を出すなんて」

「リンヒちゃん?…てことは俺が勝ったんだな、流石俺様だ…」

「えぇ、もう完敗でしたわ。さぁヴィーア様はお疲れのご様子。わたくしに任せてくださいませ」


 あの後リンヒの宿に連れてこられたヴィーアは勝ったと思いケラケラと笑い、熱っぽい視線を向けるリンヒは薄いネグリジェ姿だけで椅子に座っていたが、ヴィーアが目を覚ましたのでそのままベッドに入る。


「はぁー…たまらない…お酒でダメになる殿方を見るのは何時見ても疼いてしまいます。あんなに強気だったのに、今ではこんなだらしない顔で…きっと首にナイフを突き刺しても笑っているのでしょうね…ここも既に訳も分からず硬くして」


 そういう性癖だったリンヒは既に準備が出来おり、同じく準備万端のヴィーアに跨がり、押し付ける様にスライドする。


「おおう…」

「そのお顔…入っていないのに気持ちが良いんですか?負けたのだから入れなくても良いですわよね?」

「嫌だい嫌だい、絶対入れるんだ…」

「くぅっ…なんて可愛いのでしょう!そんなに入りたいんですか?無様に負けたのに?仕方ないですわね!」

「うはははー最高ー!」


 ヴィーアは珍しく一方的に攻められ続けるが気持ち良い夜を過ごしたのだが、残念な事にきっと朝には記憶がないだろう。

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