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潮大さじ300ml

 ヴィーアを除く一同は驚愕した。

本来精霊とは契約者以外の呼び掛けには応じないものだ。

そしてその契約者も、代々受け継がれる王族だったりその土地の豪族であり間違っても一介の冒険者が呼び出せる筈もないのだが、呼び出した本人は、羞恥と困惑の表情をこれでもかと張り付けた精霊を膝の上に座らせ高笑いしていた。


「あ、あのヴィーアさん…お尻を撫でないで…下さい…皆さんが見ているので…」

「なははは大丈夫だ俺は気にしない!」

「私がします…」


 フィルギーはこれ以上下がりようが無いくらい困り眉は下がり、ヴィーアの手を抑えてみるが効果は無く遠慮無しにスカートの中を蹂躙されているのでガリーナ達が助け船を出す。


「ちょっと精霊様が嫌がってるじゃないやめなさいよ!」

「うん、ヴィーアさんその辺にしようか」

「ふん、まぁいい。困らせて楽しんでただけだからな」

「あう…それで、私は何故呼ばれたのでしょうか…?」

「この変態どもがフィルギーちゃんの血が欲しいそうだ」

「ひっ、血を抜かれる!?あわわわわ…」

「おいなんて言い方すんだよ!」

「警戒するに決まってるじゃないか!」

「うはははフィルギーちゃんはこうやって遊ぶのが面白いのだ!」

「アンタ精霊様になんて畏れ多い事を…」

「あう、いいんです!本気で嫌な事はしてこないですしヴィーアさんは恩人なので、こんな事で楽しんでくれるなら…」

「ほらみろ。これがフィルギーちゃんとの絆だ」

「ううん…じゃあそろそろ本題に入ろうよ」

「ガリーナちゃんがご機嫌斜めだ!」

「変な餅焼いてんのよ、ほっときなさい」

「違うってば!」


 またもや脱線仕掛けたのですぐさまアレクが割って入り、要求を口にする。


「精霊様、貴女の涙、汗、涎。なんでも構いません、ほんの少しで良いので僕らに分けて下さい。人を救う為に必要なんです」

「血じゃなくても良かったんですね、それくらいならすぐにでも…」

「ストーップ!人の命が懸かってるんだ。やるならしっかりやらんとダメだ!」


 話が纏まりかけていた所にヴィーアが声を張り上げ制止し、兄弟がうんざりした顔で視線を向ける。


「おいいい加減にしろよ、今解決しそうだったろ!?」

「…じゃあヴィーア、君ならどうする?」

「もっと良い体液をいっぱい採取してやる。だからお前らは外で時間潰してろ」

「いっぱい!いっぱいあるなら私も欲しい!」

「任せろ、カチューシャちゃんにも分けてやろう!口のデカイフラスコはあるか?」

「フラスコでも桶でもなんでも使って!はいこれ!」


 壺やらフラスコやら木で出来た桶、哺乳瓶まであるのだが持ってきたカチューシャは、思わぬ最高素材入手に大興奮の様子だ。


「あわわわわ…私何を採られるの…!?」

「心配するな、何も痛いことは無いぞ!…そう言う訳だからさっさと出ていくんだ。そうだな、一時間後にでも帰ってこい。カチューシャちゃんベットを借りるぞー」

「いくらでもどうぞー!」


 他の人間を退出させ、フィルギーの手を掴みらんらんとした気分でカーチャの寝室へと移動すると口の大きなフラスコと共にフィルギーを横たえさせる。


「あうあう…ヴィーアさんがベットに連れてきた時点でそう言うことをされちゃうのは分かったんですけど…一体何を…」

「フィルギーちゃん、役目は大変か?あの悪魔を封じている鏡だ」


 すぐにでもよからぬ事をされると思っていたフィルギーは固く瞑った眼を開く。

そこには優しそうな顔をしたヴィーアがいつもの不敵な笑みを浮かべており意図が分かりかねた。


「いえ、今のところは何も起こらず平和ですよ?」

「そか、アビラバは良い子にしてるか?」

「はい!アビラバさんがいるおかげでお話もボードゲームも出来ますし、私達は食事や睡眠は必要無いんですけど交代で食事当番なんかして相手に振る舞ったりしていますよ」

「ふーん、寂しい思いしてないか心配だったんだがアビラバもたまには役に立つようだな」

「アビラバさんは、たまにヴィーアさんに呼び出されたと思ったら結構ぼろぼろになって返ってくるんですよ、もっと優しくしてあげて下さい、きっとその方が喜びますから」

「まぁ…気が向いたらな」


 話を挟んだことでフィルギーの緊張が大分解けたようで、いつもの困り眉が若干水平に戻っている。

笑顔でアビラバの話をするフィルギーの銀髪頭を撫でてやるといよいよナニかが始まると顔を赤らめた。


「あうあう…それでヴィーアさん、一体どうするんですか?」

「ちょっと俺の指舐めてを濡らせ」

「んぐ」


 突然中指と薬指を口内に入れられ、訳も分からずそれを舐め続ける。

満遍なく涎が行き渡ったのを感じたヴィーアは指を引き抜くと邪魔な下着をずらし、指をあてがう。


「あっ…」

「心配するな、今まで何人も吹かせてきた、快楽に身を委ねると良い!うりゃうりゃ」

「あぐっ!待ってぇ!」 

「激しくやらんと吹いてこんから待ってやらんのだ!おほー出てきた出てきた!」


 カーチャの錬金工房にフィルギーの悲鳴が木霊した。


 十分な量を採取したヴィーアは、その後勿論自分の()()も済ませると皆が帰ってくるのを待っていたが、恥ずかしくなったフィルギーは用が終わるとすぐに帰っていった。


「おう戻ったぞ、きっかり一時間だ」

「うまく行った?」

「ほらよ、これがお前らの分だ」

「こんなに!せいぜい涎が採れれば良いと思ってたのにコップ半分も!」

「私の!私のは!?」

「カチューシャちゃんには特別だ」

「フラスコに半分も入ってる!」

「なんだこの差はよ」

「まぁいいじゃないか、少しあれば事足りるのにその10倍は手に入った」

「精霊様は?もう帰っちゃったの?」

「恥ずかしがり屋だからな、それに悪魔の鏡を封印してて忙しい」

「うん、鏡の世界にあるって聞いたことあるね…でも本当にあるだなんて」

「と言うか何がどうなってアンタなんかが精霊様と繋がりが持てんのよ。しかも恩人だなんて」

「どうだ惚れただろ」

「あり得ないから」

「アレク、詰め替え終わったか?じゃあ俺達はもう行く。モスカナまですぐ戻らなきゃならん」


 コップから小瓶に移し終え、頑丈なケースに閉まったアレクはザックに頷くと二人は立ち上がり出口へと向かう。


「あっと、忘れてた。これ素材の代金」

「ん、ちょろまかしてないだろうな」

「僕らの金じゃないからな、別に痛まないしそんなことしないさ」

「お前ら魔道列車で行くのか?」

「もちろん、今から行けば最終便には間に合うし」

「ふーん、ちなみにこれだけあればチケット買えるか?」

「砂漠を渡って最初の街までくらいならな。あばよ、世話になった」

「それじゃあ精霊の件は助かった。そっちも気を付けて」

「…元気な奴等だ。俺達も飯にしようぜ」

「もう済ませちゃったわよ」

「なんだと!?」

「ボク達もお腹空いたし、一時間もあったからさ…」

「ガリーナちゃんの知ってるお店美味しかったよねぇ」

「なんて薄情な連中だ…一人で行くか」


 カウンターに置いてあった素材代をいくらか握りしめると夜の街へと繰り出す。

ガリーナ達が行った頃は食事時だったが、一時間経った今となっては殆ど閉店準備をしており、開いているのは酒場くらいだった。

外から覗きウェイターがある程度可愛いかったので適当に店に入りカウンター席に座ると、注文を取りに来た店主の親父と話す。


「ビールをくれ、あとここでうまいもんはなんだ?肉が良い」

「揚げた薄い生地と米と一緒に食べる羊肉料理が人気だな」

「よく分からんがそれくれ」

「はいよ」


 厨房に注文を伝えると仕事は終わったとばかりに定位置に戻る親父から視線を店内の客に変える、同じパーティーなのか随分と酒が入っているようで今日あった出来事を大声で喋っている男四人組と、ゆっくりと食事をしている老夫婦、二つ離れたカウンター席に外套で顔を隠した人物が一人いた。

ヴィーアは男のパーティーも老夫婦も直ぐ様興味を失いその外套の人物を注視するが顔は見えず、時折酒を口に運ぶときに見える手が女性のように見えるが確信は持てず暫く睨んでいた所に料理と酒が運ばれた。

「お待ち」

「ほぉ、まぁ悪くない」


 説明だけでは分かりずらかった料理を口にすると、様々な野菜や乾燥した果実で炊き込まれた米とサクサクの生地にこってりと味付けされた肉が絶妙に絡み合いヴィーアは舌鼓を打った。


「しっかし、あの娘可愛かったよなぁ!」

「顔は隠してたからちゃんとは見れなかったけど、声だけで美少女って分かるよな!」

「いいよなぁお前ら、そんな事だったら俺も怪我しとけば良かったぜ」

「後衛だからな、俺達が食らってたらそれはそれでどうかと思う」


 食事を一気に半分ほど掻き込み一杯目のビールを飲み終わった時だった、男四人組が発した可愛いと言う言葉に耳が行く。

ビールのおかわりを持ってきた親父には目もくれず男達の言葉を聞く。


「治癒師の女の子と老人と、戦士の女の子が一人いたけど普通にあんな場所に居られるって凄くね?」

「矢面に立てそうなのあの戦士だけだったのに砂漠の魔物と戦えているって事だもんな」

「俺達なんて四人いてもきついのにな」

「言うなよ情けなくなる…」


 そう言えばとガリーナと食事をしている時に辻ヒーラーの話を聞いた事を思い出す。

なんでも無償で傷を癒してくれて、去っていく女の子がいて、その美しさに見惚れてしまう者も多いのだとか。

これは是非ともどの辺りで会ったのか問いたださなければと思い腰を上げようとした時だった。


「すみません、お代わりを頂けますか?」

「はいよ、姉さんお酒強いね」

「む、良い女の気配!」


 今しがた話を聞こうとしていた事も忘れ声の方に目を向ける。

相変わらず顔は見えないが、夜中にこんな酒場に一人で居るには不釣り合いな上品な声が聞こえるとヴィーアは自分の酒を持って急いで隣に移動し、口説き始める。


「よう、良かったら奢るぜ」

「まぁ…それは一体どうして?」

「一人で呑むのも飽きてきた所だ、どうせなら美人と飲みたいだろう」

「美人?この状態で顔が見えるのですか?」

「見えん、だが俺様には分かる。そんな可愛い声して美人以外はあり得んからな!」

「まぁ…がっかりされなければ良いのですが」

「おっほ大当たりだ!」


 女性は外套を外し、固まった髪を正すように頭を振る。

真綿の様な真っ白で長い髪が揺れる度に柑橘系の爽やかな香りがヴィーアの鼻と股間を刺激するのだった。

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