おう、久しぶりだな
言われればその事件の時、誰かがいた。
強敵だった人に成り済まし、その強さまで自身の力に上乗せする異形の怪物こと、魔族リミキン。
オリーの事やカレインはもちろん鮮明に覚えている。
カレインの相方が…顔は出てこないが殺られてリミキンに化けられたのも覚えている。
それが思いの外強敵で、男二人くらいと共闘したのも曖昧ながら覚えてるのだが…つまりその場にいた男だけは軒並み顔を覚えていないと言うか覚える必要を感じなかったので記憶が無いと言うべきか。
「ちょっと待てよ、流石に冗談だよな?コルト兄弟の弟、アレクだ」
コルト兄弟のデカイ方、弟のアレクサンダー事アレクは大袈裟な手振りをし親指で自分を指差し、どう?みたいな感じで眉を上げる。
「知らん、鬱陶しい顔すんな」
「こいつ…」
「まぁまぁ、アレクは直接一緒に戦ってないからな、覚えちゃいないのも無理はないお前はそんな奴だもんな。だが肩を並べて戦った俺の事は覚えてんだろ?」
「屋敷の兵士Aを一々覚えてる訳ないだろ」
「よし決めた、舐めやがってぶっ飛ばす」
「おいザック落ち着けって!」
「コルト兄弟…?」
やれやれと余裕の表情で出てきたザックだったがその他大勢扱いされ額に青筋が浮かべながら掴みかかろうとするのをアレクに羽交い締めにされ制止される。
アリーナはコルト兄弟と聞いて訝しげな顔を見せた。
「ほら、カレインさんや、君の連れの彼女が怪我した時僕が治したろオリービアさんだっけ?君は確か僕にこう言った「おい、デカイ方今すぐ回復だ!」ってね」
「デカイ方…デカイ方…おぉ、いたなお前!たぶん思い出したぞ!」
「よしっ!」
「なんでお前の方が先に思い出されんだよ!」
「残念だったな兄貴、珍しく兄貴が買ってたヴィーアは兄貴なんか覚えちゃいないってさ!」
「ねぇ、なんなのこいつら」
「ヴィーアさんの知り合い?なのかな…敵では無さそう」
「本人はあまり覚えてないみたいだけどね…」
どうでも良い事で張り合いだしたコルト兄弟を冷めた目で見るアリーナ達だったが敵じゃない事が分かり構えを解く。
「それで、なんとかブラザーズが何の用だ。見ての通り俺様は忙しい」
「ブラザ…まぁいい、さっきも言ったけど素材が欲しい。とあるヤマを解決するのに必要でね」
「また取ってくればいいじゃねぇか、戻れば落ちてんだろ」
「プロビホスはあるだろうが羽なんて激レアだ、そう易々落ちてるもんじゃねぇ」
「そうかそうか!激レアだとよ良かったなカチューシャちゃん!」
「うん知ってるけどぉ…困ってるみたいだし譲ってあげようよぉ、今回の錬金には使わないしさぁ」
「ダメだダメだ!俺達が命懸けで取ってきたんだぞ、アドランがちょっとこっち来ただけで俺以外全員殺られてもおかしくないくらい危険な場所だったんだ!」
「だから金なら払うって…」
「ただーし!俺様も鬼じゃない、そこまで言うなら売ってやろう。ただし条件がある。羽の代わりに道すがら拾える物全部拾え。カチューシャちゃんへの補填だ」
「調子乗んな俺達は荷馬車じゃねぇぞ」
「え゛ぇいい、いいですそんな!」
「おい兄貴…分かった、手を打とう」
「チッ、何が悲しくて大荷物持って山を降りなきゃならねぇんだ、お次はピラミッドでも作るか?そんで蘇ったダランの母親をそこに押し込めようぜ」
「ちょっと待って下さい、今なんと言いました?」
ぶつぶつとふてくされながら足元の石ころを袋に詰めたザックをガリーナは呼び止める。
今確かに聞こえた、しかも大分聞き捨てならない事をだ。
「何でもないぜシスター忘れてくれ」
「今ダランの母親と仰いましたよね?隠さないで下さい、実は私も母親の復活に居合わせました。生け贄にされそうな所をヴィーアさんに助けて頂いた身です」
「なんてこったまたテメェが絡んでやがんのかよヴィーア、相変わらず女の為ならってか」
「んだよ馴れ馴れしいなおっさん」
「政府と教皇しか知らない極秘の計画をバラされて兄貴をぶっ飛ばそうかと思ってた所だけど、そう言う事なら話は早い。彼女を封印するまじないに必要なんだ」
「まじないだぁ?お前らそんなこと出来んのか」
「こう見えて僕らは賢人機関だからね。怪物や魔族退治から悪魔祓い、この世の超常的な現象に対処するのを家業としてる」
「嘘、賢人機関ですって!賢人機関のコルトってもしかしなくても【悪魔手帳】を公開したガバメント・コルトの家族かしら!」
「アリーナ、愛読してるよね」
「聖職者なら誰しも読む一冊でしょ?正規のお行儀の良い悪魔祓いとは違うアウトローでハードボイルドな渋さがたまらないの、こんなところで会えるなんて嬉しいわ!」
まさか愛読してる本の筆者の家族と知って、今までに無い程のはしゃぎ様を見せるアリーナはガリーナの肩に手を置き跳び跳ねる。
「ガバメントは僕らの親父だ、もう死んでるけどね」
「そう、なの…お悔やみを。魂がルクセニアの元安らかに有らんことを」
「勝手に親父を殺すな、行方不明なだけだ」
「認めろよ、もう10年も姿を見せやしない。僕らがいくら死にかけてても助けにも来ないじゃないか。覚えてるよな?雪に閉ざされた村で狼男に囲まれて親指と人差し指を食いちぎられかけバカデカイハンマーで吹っ飛ばされたって助けなんて来なかった!」
「俺達言えない仕事の最中なんだよ!」
「僕らの命より大事仕事ってなんだよ、僕は兄貴を助けられるなら仕事なんかほっとくね!」
「アレク…お前」
「おいもう良いかきもい兄弟愛みせんな、姉妹愛以外見る気は無いんだよ、さっさと進め」
「…そうだね、ここで話してる場合じゃない。下山しよう」
「へいへい、やりゃいいんだろ」
「うぅ、私の為になんかごめんなさぁい…あ、あの魔物の糞も拾っておいてくださいねぇ」
「お前ひでぇ事言うな…流石の俺様もそこまでは言わんぞ」
「ボクも引くよカーチャ」
「外道ポンコツ」
「幽霊にまでバカにされてる!?」
一向は一日かけて下山し、次の日の夜にカーチャの錬金工房へ帰還したのだった。
「あんまりだ…人の尊厳を踏みにじられた気分だぜ…見ろこれ、ポケットにまでクソみてぇな石ころが入ってやがる」
「限界だ、流石に疲れた…兄貴なんかマシじゃないか僕はフードに本物のクソが入ってんだぞ!」
「あはは、で、でも綺麗な糞だから大丈夫ですよ!きっと!」
「きっとってなんだよクソに良いも悪いも、まして綺麗なんて無ぇんだよ!」
「うるさい奴等だな、さっさと荷物置いて消えろ」
「ヴィーアさん、それは流石に酷いかな…」
「そうよ、ほら荷物下ろすの手伝うわ」
「ありがとう…紐が骨まで食い込んでる気分だ」
「よぉヴィーア、約束忘れんなよ。ここまでさせといて冗談じゃすまされねぇぞ」
「あぁ私が払いますから、はい羽と角膜!」
「ったく、割に合わねぇぜ。用が済んだらビールでも飲みに行こうぜ」
「そう言うな、これでまじないに向けてまた前進だ」
「あの、良ければどういうまじないか聞いても良いですか?」
「私もとっても気になるわ」
コルト兄弟は袋はもちろん、服装の至るところから用途不明の様々な物体が吐き出し終え目的の物を浮けとると店を出ようとするが、ガリーナ達はまじないの詳細が気になるようで引き留める。
兄弟は、少し顔を見合わせるが休憩も兼ねて少し椅子に座ると話すことにした。
「聞いても面白いもんじゃねぇぞ、聖なる火で閉じ込め足止めして、これまた聖なる素材をふんだんに使った物を銀のインゴットと混ぜ合わせて作った剣で首を落とす」
「端的に言うとそんな感じ」
「呪文はあるの?」
「あのレベルの相手に一般的な呪文やら聖なる祈りなんかは効かない。だから所謂、古典的なので行く」
「さっきも言った剣で死ななかったら、知り合いの死神に頼んで強制送還して貰う予定」
「人間が死神と知り合いになんかなれるのかい?」
「待って、まさか知り合いの死神って…デーザ?」
アリーナは興奮した面持ちで何かに勘づいた様で眼を見開き口に手を当てている。
「そう、良く知ってるね。昔親父の魂を取りに来たけど、運命が変わって死ななくても良くなったせいで手ぶらで帰る事になった死神さ」
「もちろん知ってるわよ!ガバメントさんのあんなカッコいい話はきっと生涯忘れないわ…」
「なんじゃそりゃ、随分間抜けだな」
「親父の悪運がすげぇってこった。まぁとにかく、物理的と精神的と二段階で行く」
「材料はもう集まったんですかぁ?」
「足止めの火はね。剣の方も、後は精霊の体液があれば完成するんだけど…」
「精霊様ですか…」
「ほとんどいないし滅多に人前に出てこないからね…一番の難関なんだ。フーキの国にいるみたいだからそこまで行く予定だけどかなり遠い…それまで何も起きなければいいんだけど」
「精霊様ってぇこの国にはいないんですかぁ?」
「この国で言うと、近くのルィンルィン砂漠にいるらしいが…祀られている祠は砂に埋まっちまってもはやどこかすらわからんらしい。ちまちま穴掘ってたんじゃ終わるもんも終わらないからな、確定でいる方にするぜ」
「そう、だから僕らには時間が無くてね。そろそろ行くよ、馬車で一眠りしながらフーキを目指さなきゃ」
「ぐっふっふ」
今度こそ立ち上がり自分達の荷物をまとめ始めるが、そこにヴィーアの妙な笑い声が耳に入る。
「なんだよいかにも話しかけろってわざとらしい笑い声出しやがって」
「いやぁ何、君達は実にツイている。いや勿論凄いのは俺様でお前らはちっとも凄くないんだが…聞きたいかね?いいやどうして笑っているか聞きたいはずだ!」
「勿体ぶらず言えよ、時間がねぇって言ったろ!」
「頼むよヴィーア、何か知ってるなら教えてくれ」
「そこまで頼まれちゃ仕方ない。お望みの精霊に会わせてやろう!」
「…何を言うかと思えば、んなもんどこにいやがんだ」
「そうだよヴィーアさん、そう簡単に会えるモノじゃないよ」
「ついに頭おかしくなったのね」
周囲を見渡して、手頃な鏡を探し、ここで良いかと商品を飾るガラス張りのショーケースの前に移動すると手を叩く。
「やかましい!あそれパンパン、いでよフィルギーちゃん!」
「精霊様は売ってないよぉ…あれ、なんだか光が!」
「うお、なんだってんだ!」
急にショーケースを中心に店内が明るくなり、光が収束したかと思うと今まの誰でもない、少し困った様な声が聞こえてくる。
「お久し振りですヴィーアさん、な、何か御用でしょうか…?」
「おう、相変わらず困った顔してんな!」
「おい見ろアレク、マジかよ…」
「あぁ、見てるよ…」
鏡の精霊、フィルギーが姿を現したのだった。




