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雨宿り後言えば

 バクンより北、ルィンルィン砂漠前の街リィドニレイ。

元々中規模の広さだったが魔道列車が出来てからは発展が目覚ましく、首都モスカナから送られてくる物資と出稼ぎ労働者で経済活動が活発だ。

最近はバクンの街の殉教者のクレーターにダラン教の巨大な教会が出来てからはルクセニア教の一強だった信仰のシェアが揺らいでおり、それに対抗すべく負けじと立派な神殿を建設し足場固めをし安定したかに思えたのだが、ルクセニア教徒が自爆テロでダラン教徒に死者まで出したと連絡が来てからはルクセニア教枢機卿であるメリルは神殿に備え付けられた執務室で頭を抱える。

ここ数日で更に老けた気がする顔を鏡で見て眼鏡を外し、目を揉み深いため息をつくとグラスに酒を注ぎ勢い良く飲み干す。


「一体何がどうなっておる…」


 夕日に差し掛かり、太陽が執務室にある聖ルクセニアの像を照らす。

メリルはこの時間帯に照らされ醸し出される像の雰囲気が、昼や夜とまた違った神々しさを感じられ一層の信仰心を捧げようと身が引き締まる感じが好きだった。

だが、ダラン・マラの母を名乗るミイラに復活の報告から立て続けに起こった事件に頭を抱えていたメリルには黄金色に反射する像の光ですら鬱陶しく思い、また目を揉んだ。

もう一杯飲もうかと思った時に、部屋の扉がノックされ部下に入るように促す。


「失礼します、ダランの母親に関する資料が纏まりました」

「ご苦労。それでどういう人物だ?」

「種族は人間、名はカミラ、生まれは不明。まぁ昔のゴ連の杜撰な管理では珍しく有りません…幼少時代から二系統の魔法が使え十四になる頃には殆どの中級魔法を修得。そのまま魔法を極めるかと思いきや樽属冒険者でありダランの父親であるシーンと結婚、その1年後にダランが生まれます」

「簡潔に頼むよ、頭痛が酷くてね…」

「分かりました。そうですね…そんな魔術の天才と呼ばれた彼女でしたが17年後人魔大戦で例の究極魔法が発見され…ちなみに見付けたのはシーンです。そして彼女は会得出来ませんでした。しかしそんな母親の代わりに、いや、誰よりも先に会得出来たのが…」

「息子のダランと言う訳か」

「はい、自らも前線に立ち大戦で活躍し息子も究極魔法を会得し、敵軍に大打撃を与えました。まさに戦争で活躍した家庭ですね…」

「読めたぞ、それなのになおのこと崇拝されなかったのが気に入らないと言う訳か」

「我々としてもダラン教を敵として見たことは一度も無いのですが、たまたま陣頭指揮を取っていただけでルクセニア様一色になったのが許せないそうです。特に終戦まで戦い続けたカミラにとっては」


 目を瞑り静かに報告を聞いていた枢機卿と、部下が一枚ページを捲る音が部屋に響き、ただ続きを待った。


「ダラン本人も大した人格者だったそうですね、伝記に魔大陸に全ての殉教者が向かったと記載がありましたが実際にはダランはバクンに残り侵攻してきた魔人と大軍一泡吹かせる事に成功しています。これがなければフーキまで侵入を許し、上陸作戦その物が破綻していたかもしれなかったとの事です」

「…その話はどこから?何故伝記と真実が異なる」

「ニコラウス枢機卿からです…耳長族は長命でいらっしゃいますからね。ニコラウス枢機卿も当時は従軍聖職者として出兵もしています」

「よく、あの偏屈爺から話が聞けたな…一体どんな手を使った」

「カミラの話をしたらすぐ御話し下さいました…それほどに危惧しているとも取れました。三日後の会議を待っている暇などない、今すぐ討伐するべきだとも」

「ふむ、悩ましいのは分かるがそこまで怖れる程だろうか…聞くところによると、一介の戦士がたった一人で退けたのであろう?取り逃がしたとしても力を失った状態では大したことは出来まい…それ本当に生きているかも疑わしいものだ」

「ニコラウス枢機卿はそうは思っていないようでした。死にたくなければ今すぐ防備を固めろと仰っておりましたが、如何しますか?」


 メリルは椅子から立ち上がり、窓の外を眺める。

参拝を終え疎らに帰路に着く参列者が見える何時もと変わらぬ風景、仲睦まじい家族を見ているとモスカナにいる息子家族を思い出す。

次の新年は孫と目一杯遊ぶ約束あるのだ、念には念をいれるかと決める。


「普段なら一蹴するような話だが、折角友人の助言だ。悪しきものを遠ざける結界を張る、明日から暫くは閉館とし信徒に被害が及ばぬ様にするのと同時に討伐隊を派遣する…カミラと戦ったとか言う戦士を呼んでもよいな……聞いているのか?」

「おや、どうやら何も聞こえちゃいないようだねぇ」


 返事が無いことを怪訝に思い、再び室内に視線を戻すとそこに今までいた部下は、いつの間にか出現した赤い布のミイラに音もなく氷の槍で心臓を貫かれいた。

身体は痙攣しているが、生きてはいないだろう事だけは分かった。


「貴様がカミラか!」

「ご明察、よく調べたもんだね、ご苦労さん。いやぁ危なかったよ、お前さんの判断があと少し早くて結界を張られていたら今の私じゃ入れなかっただろうからねぇ」

「自らも祓われに来たか、今すぐ極魔に送り返してやる!」


 メリルは直ぐに魔法を行使する。

大人の頭程ある光弾を両手に生成すると、力任せに、融合させるように合わせる。

磁石の同じ極を合わせる様に反発していたがやがて混ざり合うとメリルの胴体より大きな光弾となる。


「そうそう、今の私には光属性がよく効く。しっかり狙うんだよ」

「神よ私の戦う心に力を与え下さい、大いなる殉教を持って我ら子をお救いした強き力を!」


 久しく出していない気合いの掛け声と共に光弾を放つと周囲の物を巻き込み、眩い光と大きな爆発を生む。

メリルが使える最大級の攻撃魔法、直接的な威力としても勿論、この魔法が着弾した所は数年浄化され悪魔や霊が近付くことも無くなる虐殺光弾、今までどんな悪魔も深く根付いた怨霊も一撃で屠った自信から勝利を確信したメリルは爆風でずれた眼鏡を直す。

だが油断はしない、今は煙で何も見えないがそれでもあと一撃放つつもりで手に光弾を貯めようとした時だった。


「いやぁーお見事。光属性であれば私より上かね」

「…無傷だと」

「それにこりゃ浄化かい?素晴らしいじゃないか、どれ…こうかい?」

「何故貴様が使える!?」


 見よう見まねで発動させたカミラは両手に光弾を作る、しかも始めからメリルより大きな弾を見て驚愕する。


「化物め!」

「お褒めに預かり光栄だよ、だがね、周りはよく見るもんさ。もう少し冷静だったら幻術だと気付けたろうに」

「ごふっ…後ろ、だと…」


 部下と同じく突き入れられた腕が心臓を抉り出し、メリルは自分の心臓を見ることになる。


「言っただろう、今の私にそんな力は無いってさ。せいぜいハッタリをかませるだけさね」


 勢い良く腕が引き抜かれると、支え利かなくなったメリルは床に崩れ落ちる。

大理石の床に血液が流れ、身体が急速に冷たくなるのを感じるがどうすることも出来ず、心臓から溢れでる血を浴びているカミラをただただ眺める事しか出来ず、やがて目から光が消えた。


「ふぅ、流石徳の高い神官様だ、これでだいぶ生き返ったよ…さて、次へ行くとしようか」


 最後の一滴まで血を絞り尽くし顔を拭ったカミラは、今まで骨と乾燥した肌しか無かった筈だが皮膚は再生し、剥き出しだった歯には唇が生まれていた。


「メリル枢機卿!」

「これは一体…今すぐ治療を!」

「…もう亡くなられております」


 爆発を聞き入ってきた神官が見たものは、不気味な程赤い夕焼けに照らされながら聖ルクセニアの像に縛られる様に吊るされていたメリルの遺体だった。



「雨止まないわね、もう陽も沈むじゃない」

「そーだな、どのみち今日はもう遅いからここで寝るぞ」

「出来ることならこんな寝袋に入る前に帰りたかったわ」

「まぁまぁ、たまには良いじゃない」

「なんで姉さんはそんなに楽しそうなのよ、そんなにあの男が…もういいわ」

「そそそそんなんじゃ無いって何言ってるのさ!」


 洞穴から顔を出すアリーナだったが顔に雨が当たり慌てて引っ込めると、寝袋を設置していたガリーナに胡乱な目を向けると慌てて否定しする。


「カーチャ、ロープあるかしら。それっぽいものでも良いわ」

「えぇっとねぇ…このツタとかでもいいかな?」

「十分よ、皆濡れた服脱いでここに掛けなさい風邪引くわよ」

「はぁい」

「なるほど、良い考えだね」

 

 洞穴天井からつらら状に下がる鍾乳石に括り端から端からまで延ばすと濡れた服を掛ける。


「お、ストリップか」

「バカ言わないで。それとアンタはこのツタからこっち立ち入り禁止だから」

「なんだとふざけた事言うな!おわっメイスを振り下ろすな!」

「…本気だからね」

「ごめんねヴィーアさん、また明日」

「おやすみなさぁい」

「チッ…」


 無情にも最後の服が掛けられると向こう側が完全に見えなくなり、ヴィーアは隔絶される。


「本当だったらくんずほぐれつ四人で濡れた身体を温め合う楽しいイベントを予定していたのに…」

「ヴィーア可哀想だからプリヴィディが一緒に居てあげるね。だから生気頂戴」

「しゃあねぇな、俺は外を見張ってるからこっちきてしゃぶれ」

「ふふふ、口ではそう言ってもここはもう準備万端」

「当然だ、いつでもどこでもがモットーなのが俺様だぞ!おぉうひんやり…」

「もごもご」


 手頃な岩に座ると遠く神殿で起きた事など露しらず、夜は更けていく。

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