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まずは紳士路線

 バクンの街、その外れ…区画整理に遅れ寂れた地区に存在する小さな教会。

本来は6人のシスターと一人の神父がいたが間も無く閉鎖予定とのことで人員が転属し、今では二人の姉妹しか残っていない。

近隣のルクセニア教信者達が祈る場所として日々を過ごす中、最近何故か良くない気が裏の墓地に溜まっており、遂に魔物やゴーストが現れ始める。

事態を重く見たガリーナは、妹のアリーナに留守を任せ墓地の偵察に出ることにした。どの程度の異変か見るに留めるだけにするつもりだったが、敷居に足を踏み入れた瞬間閉じ込められやむなく異変解決に乗り出したが、この広間に来た瞬間ダラン教信者達に気絶させられてしまう。


 ここまでがガリーナの気を失うまでの最後の記憶だ。

再び目を醒ました時には凌辱され、無理矢理純潔を奪われてしまう。目隠しをされているので余計に意識が集中し永遠にも思える時間を吐き気を催す感覚と痛みが襲うが、自分に覆い被さっている男が果て離れたあと、不意に別の男の声が聞こえた。

幻聴かと思ったが、ハッキリと聞こえた。


「こらー!よってたかって女を襲うとは変態どもめ、死ね!どかーばきー!待たせたなガリーナちゃん、助けに来たぞ!」

「…えっ?あっ…」

「縛られて可哀想に…ほら、解けたぞ」


 身体を巻いている縄を解かれ目隠しを外されたガリーナが見たのはバラバラになったダラン教信者達と、優しそうに微笑むヴィーアの顔だった。


「キミは一体?ボクはどうなって…いたた」

「俺はヴィーアだ、アリーナちゃんから話を聞いてこの墓地に来てみたら、ここで襲われている君がいたので助けたんだ」

「そう、だったんだ…助けて頂き、有り難う御座いました」

「もっと早く助けられればこんな奴らに汚されずに済んだのに…すまない」

「そんな謝らないで!ヴィーアさんはボクの命の恩人だ。この運命の巡り合わせをルクセニア様に感謝を…」


 悔しそうに目を瞑り顔を反らして謝るヴィーアを慌てて制止し感謝を述べるガリーナは、だいぶヴィーアを信頼しているように見える。


「何か御礼をさせて?お金は…無いけれど」

「金なんていらん」

「でもそれじゃ…」

「どうしてもと言うなら、俺とデートして欲しい」

「えぇ、デート!?無理だよムリムリ、ボクデートなんてしたこと無いし!」

「心配すんな誰でも最初は初めてだ!それに難しく考えるな、この街に来たばかりの俺に街を案内して欲しいだけだ」

「うぅ…それなら、まぁ…」

「よし、そうと決まったらさっさとここを出るぞ!」

「うん…でもどうやって出ようか?ヴィーアさんがどこから入ったか分からないけど、ボクが入った入り口は肉の蔦に覆われちゃったし…」

「あぁ確かに…ちょっと待て」

「うん?」

(アビラバ聞こえるか?もうここを覆う干渉とやらは解けたのか?)

(知らないけど声が聞こえるってことはそうなんじゃない)

(おぉ聞こえるな、コイツらぶっ殺したから解けたに違いない。ちょっと入り口見てこい)

(はぁ?自分で…いや、見てくるわ)

(よーやく自分の立場が分かったようだな!)

(アンタには何言っても無駄って事もね!………もう墓地は普通になってるわよ、死人も動かないし幽霊も無し)

(そーかそーか、もう帰って良いぞ!)

(あっそ)

「もう地上は平気みたいだぞ」

「そんなことがどうして分かるんだい?」

「使い魔の報告だ」

「へぇ、良い使い魔を持ってるんだね」

「まぁ確かに良い具合だな」

「うん?…じゃあ帰ろうか、大丈夫、目印があるから出口まで迷わないよ!」

「あー…その事なんだが…」

「待って…もしかして…」


 バツの悪そうな顔をするヴィーアに言い知れぬ不安が過ったガリーナは恐る恐るその言葉の先を聞こうとした時だった。


「ねぇーヴィーア」

「うわぁぁ幽体!ヴィーアさん離れていま成仏させるから!」

「ストーップ!こいつは大丈夫だ光の輪っかを消せぇ!」

「ひょぉぉぉぉ」


 ガリーナの掌から出来た光の輪に吸い込まれそうになったプリヴィディを間一髪救った後、話を聞く。

どうやらグレイヴディガーが地上までの道を通ったらしく、そこを通れば地上に出れそうとの事だ。


「さっきの穴から上に出れそうだよ」

「この幽体もヴィーアさんの使い魔なのかい?」

「いや、さっきそこで拾った」

「そんな野良猫じゃあるまいし…」

「プリヴィディは捨てプリヴィディ」

「話は後だ、さっさと出るぞ」

「うぅん?」


 納得いっていない感じのガリーナだったが、とりあえず地上に出る事を優先しグレイヴディガーが通った穴から地上に上がる。

夜明け前の白み始めた空と、少し冷たい朝風が身体を撫でると、なんとも言えない疲労感が襲ってきた。


「なんとか上がれそうな斜面で良かったよ」

「あ゛ぁ~疲れた、もうすぐ朝じゃねぇか。帰ったら風呂だな」

「ふふっそうだね、しばらく死臭が取れなそうだよ…でも何で滅多に出てこないグレイヴディガーが地上に?ここから出て、すぐ地下に戻ったみたいだけど」

「あのババァ…まさかな」

「うん?どうかしたのかい?」

「いーや何でもない」


 ヴィーア達は墓地を後にし、揃って教会のドアを開けると完全武装したアリーナと同じく四名の神官達と目が合う。


「あ、お疲れ様です。ただいまアリーナ」


アリーナは目を見開いた後、怒ったようにつり上がると大股で近寄ってくる。


「アンタねぇ、行くなって言ったのに行った訳!?怪我するだけだって言ったわよね!」

「なんだなんだアリーナちゃん、心配してくれてたのか?」

「違うわよバカ!」

「あ、アリーナ落ち着いて!ヴィーアさんはボクを助けてくれたんだよ」

「そうだぞ」

「はっ、ただの戦士が徐霊や地勢を治めたって言うの?」

「徐霊なんていらん、やってたのはダラン教の奴らだったからな。全員殺したら治まった」

「待て、それはどういう事だ?」

「ええい顔を近付けるなジジイ、説明してやる」


 それからヴィーアは地下墓地で遭遇したダラン教がガリーナを生け贄にしダラン・マラの母親のミイラを生き返らせようしていた事、交戦し倒したが、トドメを刺す前にグレイヴディガーが連れていってしまった事を話した。


「最後に見た時は動いちゃいなかった、岩と化物に潰されて死んだろきっと」

「姉さん、見た?」

「うぅん…ボクはすぐ気絶させられちゃって次に目を醒ました時は……でも目隠しを取ってもらって見た時、確かにダラン教の信者達が死んでた。逆さキノコの紋章も見たよ」

「しかし、その話が本当ならダラン・マラの母上か…厄介ですな」

「死体を見るまでは安心できませんぞ」

「こうしてはおられん、今すぐ枢機卿に報告をしなければなりますまい」

「場合によっては教皇様まで話を通さなければ…」

「ではシスターガリーナ、シスターアリーナ。我々は用事が出来た。これで失礼する」

「あの、報告ならボクも同行したほうが…」

「不要だ。それと今回の事は他言無用、誰にも口外してはならぬ。よいな」 


 何やら深刻な表情で話し合いを始めた四人の神官達はヴィーア達を置いてさっさと出ていってしまった。


「ふぅ、田舎のタンス臭い連中だったな。まだ臭いが残ってやがる」

「田舎のタンスって…偉い人達なんだからやめてよ」

「ふんジジイに興味無いわ。それより風呂あるか?」

「あ、うん。こっちだよ」

「ちょっと姉さん!?お風呂貸すのは良いけどちょっと待って!」

「アリーナちゃんのパンツでも干してあるのか?俺は気にしないぞ!ガリーナちゃんも一緒に入ろうぜー」

「最っ低!デリカシーの無い男ね!」

「あはは…ヴィーアさんって女好きなのかな…」


 助けて貰った時のカッコいいヴィーアしか見ていなかったガリーナが違和感を覚え始め、最初に稼いだ好感度が早くも下がり始めたヴィーアだったが、本人はそもそも、もう覚えてなどいなかった。

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