その紋章ってチン…
生命の源、と言えば聞こえは良いがとにかくヴィーアが放った精でプリヴィディの透明度が少し下がり、死人に使うには疑問な表現ではあるが元気が出てきたようでヴィーアの周りをふよふよ浮いている。
「気持ち良かったが、なんか抜かずに5回したくらい疲れたぞ…」
「そもそも幽体にあれだけ長時間接触して生きている事が変。でもお陰でプリヴィディ、ちょっと元気出た気がする」
「当然死なん、俺様は特別だからな!…うーん、もっと肉体を取り戻すにはもう何回かヤらんとな」
「またする?」
「いや、後でだ。先に助けんとならん女がいる。あとここカビ臭いからもう出たいし」
「そうなんだ、プリヴィディも憑いて行っても良い?」
「もちろんだ、行くぞー!」
「おー」
同行者を得たヴィーアは、先へと進む。
幸いにも目印はある、恐らくガリーナが敵を倒した事で生成される白い土塊だ。
分かれ道を進んだり、段差を上ったり、時には斜面を滑り降りたが、これにより入り組んだ地下墓地だったが進むべき方向は分かった。
「ヴィーア、これでいい?」
「念動力って言うのか?触ってないのに物が浮いて便利だな」
「幽体の基本的技能、ポルターガイスト現象」
「ふーん、俺は使えるかな…おぉ出来るじゃねぇか!プリヴィディはそっちだじゃんじゃん拾え!」
「はい…どうして出来るの?」
「なははは気にするな!しかし、なんでガリーナちゃんは拾っていかなかったんだろうな?結構使えるアイテムだろうに」
「取るとね、消えるから…」
「あ?何が」
「この白いの」
「…」
ヴィーアは、背筋が凍った。
ここに来て幽霊やら動く死体やら見てきたが、そんな物など比にならない程恐ろしい怪談を聞いた気分になり、ゆっくりと後ろを振り向いた。
先ほどまであった白土は悉く消えており、直近で玉を抜いた白土がたった今霧散した所だった。
「…俺はどっから来た?」
「プリヴィディには分からない」
「なんか急に腹減ってきた気がする、遭難したと分かった途端食料の心配になる奴だ!」
「プリヴィディはお腹が減らない」
「ええいとにかく、さっさとガリーナちゃんを見付ける。ま、なんとかなるだろ、俺様に続け!」
一日以上先行しているガリーナを探し、ヴィーアは歩き始める、白土を崩さないように気を付けながら。
「右の壁から出てくる」
「そこか!」
「後ろの棺」
「別の棺乗っけて塞いでやるわ!」
「ゾンビー、武器持ってる」
「バラバラにして壁の隙間に押し込んでやる!」
「おぉ~ヴィーア強い」
「そうだろうそうだろう!しかし…急に敵が多いな、白土も無いし道間違えたか?」
「うーん…!ヴィーア、生きている人間向こうにいる」
「分かるのか?」
「幽体は魔物だから、人間が餌…プリヴィディも魔物…」
「いいや違う、ちょっと身体が半透明なだけでちゃんと女の子だ。しかも可愛い。俺を襲わないのがその証拠だ」
「ヴィーアは襲わなくても、生気をくれる変な人」
「そのスケスケの身体を元に戻して思いっきり揉みし抱かんといかんしな、心配せんでもたっぷりくれてやる!」
「あっ…」
生気抜けると言うのに嫌な顔せずプリヴィディの頭を撫でる。
プリヴィディも、このまま撫でて欲しかったがヴィーアの生気を必要以上に奪いたくなくて離れると、人の気配がする方を指差す。
「こっち、プリヴィディが案内する」
「おう頼む」
「こっちよこっち!」
「あ、おい」
主人と遊びたくてはしゃぐ大型犬の様にすっ飛んでいったプリヴィディは、壁に入りそのまま消えた。
「………」
「どうして来てくれないの!」
「行けるか!!」
「…人間は壁を抜けられない事を、プリヴィディは忘れていた」
「手とか捕まれてなくて良かったよ!壁に激突したらたまったもんじゃない!」
「ううん…じゃあこっち」
「安全で近くて楽な道だぞ!」
「そこまでは分からないよ…」
改めて人の気配へと歩き出すヴィーア達、相変わらず敵が多く本当にガリーナが先を歩いているのか疑問を抱きながら進むが、こんな所にいる人間など他にいる訳も無いと歩き続け、一本道だけだった通路から少し広い部屋に出る。
相変わらず沢山の棺と骨壺だけだったが、その内一つの棺の埃を手で払うと、その上にどっかりと座る。
「ちょっと休憩入れるか…水…ってもうほとんど残ってねぇ。あらよっと氷魔法、水はなんとかなるがそろそろなんとかしねぇとな」
「もうすぐだよ、下の階層に反応あるからこの調子なら一日も歩けば着く」
「…幽霊になると時間の感覚も終わるんだな」
「今が何時とか、暑いとか寒いとか、プリヴィディには全てどうでもいいの」
「あぁそうかい…ん?」
ふと、地響きを感じ顔を上げる。ぱらぱらと砂が落ち、目に入る前に顔を振り防ぐ。
地響きはやがて無視できない程の音となり、危険を感じたヴィーアが立ち上がろうとした時だった。
可愛く言えば直径5メートルの巨大なミミズ、悪く言えば対角に生えた大きな牙で家をも噛み砕く凶悪な化物、グレイヴディガーが現れた。
「ヴィーア危ない!」
「チッ、こっち来い!」
ヴィーア達休んでいる部屋の地面を割って出てくると、出てきた勢いそのままヴィーア達には目もくれずそのまま上へ上へと進んでいった。
音が遠ざかり、遮蔽にした棺の裏から顔を出したヴィーアは何もいないことを確認すると勢いよく立ち上がる。
「…どうやら俺様に恐れをなして逃げたようだな!」
「そうなの?アレは誰にも興味無いよ。穴を掘るだけ」
「ビビった奴の言い訳だな、とにかく!下への道が出来た、これで一気に進めるぞ!」
「どうやって下に降りる?」
「布とか集めてロープ作ればいいだろ」
「布?布なんてどこに」
「甘いなプリヴィディ、現場にあるものを活用してこそプロの冒険者なのだ!ふんふんふーんっと」
そう言うと棺を片っ端から開け、遺体を巻いている包帯やらかつて煌びやかだっただろう死装束やらをひっぺがし切り裂き一本のロープにしていき、裸になった遺体はそこらに投げ捨てる。
続いて骨壺をカチ割ると、足を掛けやすいように等間隔に丈夫な大腿骨を編んでいくとみるみる内に罰当たりな梯子が完成した。
「ちと耐久性が怖いが重ねたしなんとかなるだろ!」
「ヴィーア、プリヴィディがいなかったら沢山悪霊が憑くよ…」
「だったらしっかり俺様を守るんだな!」
杭として何本か骨を地面に突き刺し踏みつけ奥深く埋め込んだあと蹴飛ばすように梯子を落とし一番下の骨が床に当たったようで小気味の良い音がした。
「よーし、行くぞ」
「呪物によく命預けられるね、プリヴィディなら出来ない」
「それは死んでるからだ!そして死んで骨になった奴も何も出来ん、せいぜいスケルトンになるくらいだ」
降りた先は通路だったが、近くで松明以外の光源を感じ警戒しながら進んでいく。
そうすると、それなりに広い空間を見付け慎重に中を窺う。
プリヴィディの話では人がいるらしいのだが、やはり話し声が聞こえ、どうやら複数人おり一人は紫色の外套を被った女の声で、後は黒い外套を着たボソボソ喋る五人の男達の声だ。
戦前の旧大陸の文字が書き込まれた赤い布を巻き付け、貼り付けにされたミイラの前で男達が一心不乱に祈りを捧げており、今さっきグレイヴディガーによる大きな揺れすら何も感じていないようだ。
よく見るとミイラの足元に縛られ、目と口を布で塞がれた青髪のシスター服の女が見える、こちらも気を失っているのか身動ぎもしない。
「なんじゃアイツら、全員外套で顔を隠して…それにあの紋章、逆さまのキノコ?む、あれはガリーナちゃんか?縛られてるが」
「ヴィーア、アレは良くないモノ…プリヴィディと逃げた方が良い」
「何故俺様が逃げなきゃならん。あの女の顔を見るまでは動かんぞ、美人の予感がする!ガリーナちゃんも助けなきゃならんしな」
男達より一歩先で祈っていた女が立ち上がり、男達に声を掛ける。
「お前達の祈りがもうすぐ届くよ。休まず祈りを捧げなさい!」
そう言われた男達は一層祝詞に力を込め、声が少し大きくなる。
そして女はシスターの元に行くと、外套を外し見下ろすその目には侮辱が込められていた。
野暮ったい自然に任せたボサボサの黒髪、不健康そうな白い顔、スラッとした体型の女だ。
「愚かなルクセニア教徒め…せめて贄として役立ちなさい」
「おぉ見ろ、やはり美人だ」
「じゃあどうする?」
「決まっている。イケニエとか言ってるならガリーナちゃんは生きてるし、あれは悪い奴だ。悪い奴はお仕置きしても良いことになってるから俺様が成敗してやらんとな!」
「プリヴィディも何かする?」
「おう、それじゃあの男達だが多分集中しすぎて何されても分からん状態だ。プリヴィディは見付からないように地面通って奴らの真下へ行って、生気吸いとっちまえ!」
「分かった」
地面潜航したプリヴィディが男達の真下に到着すると、地面から手を出し一人の男に触れる。
生気を吸われていると言うのに気付かず懸命に祈りを捧げていたが、やがて崩れ落ちた。
女は信者が一人倒れたのに気付いたが、飲まず食わず祈りを捧げていたのだ、力尽きる事もあるだろうと捨て置いたが一人、また一人と倒れ、もう二人しか残ってなくようやく異常があることを悟った。
「お前達、敵だ何かいる!」
「うははは気付くのが遅いわ!」
「なっ、お前は一体!?」
祈りを一旦中断し、足音がする方へと振り返った信者達を一気に斬り殺すと、剣を肩に乗せ名乗る。
「ヴィーア様華麗に参上!悪い娘にお仕置きしに来たぞ!」




