息を吐く様に密入国
フーキの国を襲った魔物達を退けてから三日目。
各国から支援物資、再建の人材、災害に乗じての賊の活動を抑止するパトロール等が順調に行われ、悲しみに暮れていた多くの人にも少し希望が見えてきていた頃だ。
『酒場、ランバージャック』の前に立ったランは血の付いた看板を地面に挿し直し、穴だらけになったドアを力任せに外すと通りに放り投げ、あの時のままの店内を見渡す。隠れるために積み上げた椅子や机のバリケード、割れた酒瓶、干からびてハエのたかったスニーキードッグの死体、そして思い出のビリヤード台だ。
自分の顔が自然と綻ぶのを感じた時、外から知り合いの声が聞こえてきた。
「おーいラーン、酒の配達だゾー」
「カルさんこんにちは…道は開通したみたいね」
「まぁなーまだ道の端に死体や瓦礫避けただけの所が多いから臭いけど。ほら、姫さんの計らいの酒だ、木箱にいっぱいダ」
「ん、ありがとう」
見るからに重そうな木箱を重ねると纏めて三つ持ち上げ、店内へと運び込む。
「まだ中は汚れてる、少し待って」
「手伝うヨ」
廃材や死体を外に投げ捨て、使えそうな椅子を一つカウンターの前に持ってくるとようやく一息つく。
早速木箱から酒を一本取り出し、グラスを二つ出すと注ぐ。
「これは私のおごり」
「へへっ悪いな、じゃあ、まぁーお疲れ。お互い元気に終わって良かったヨ」
「…ヴィーアも元気かな」
「ンァァ?殺しても死なない奴だろ、どっかで女の尻でも追い掛けてるサ」
「そう、だといいね」
「その内ひょっこり現れるよ、それかまた大事件に巻き込まれてたりナ!」
「ふふ、ヴィーアならありえる」
「それにしても黙って消える事ぁねぇじゃんかナァ、姫さんと結婚嫌だったのかナ」
「ラーナナ姫の事は好き、でも色んな好きをもっと探しに行ったんだと思う…見つけられるといいね」
ふと、ランが天井に空いた穴から空をあおいだのでカルも釣られて見上げる。雲一つ無い青空にヴィーアの高笑いが聞こえた気がした。
「入国証は?」
「無い!」
「そんな堂々と言うか普通…まぁ大変な事があったばかりだしそう言うこともあるか。では身分証は?」
「無い!」
「…次の方」
「あぁ!?いたいけな難民を中に入れねぇってのかドクズ野郎!」
「お前みたいな奴は賊って言うんだよ!入りたければフーキに入国証か身分証発行して貰え!」
ここはフーキの首都アカンから北上し、ゴラート連邦の関所。
事件で家や身寄りを失い、親戚がゴラートにいる人々が押し寄せており長蛇の列が形成されている。
その列でやっとヴィーアの出番が来たと言うのに身分証がなく門前払いされてしまった。
「ムカつくぜ役人野郎が…どうにか入れんかな。お、あれは…」
ヴィーアが目を付けたのは、難民の列とは別の支援物資を輸送し終わり空になった馬車の列、荷台には十分な広さがあり見張りの確認も外から軽く見渡す程度だ。
早々に列を離れると草むらに潜伏し次の馬車を待つ事少し一台の馬車が来た。幸い周囲に人はおらず御者にさえ気付かれなければ潜り込めそうだ。
(今だ!)
荷台の中に乗り込む事はしない、地面を転がると荷台の下に潜り込み、しがみつく。
タイミングがずれれば馬に踏みつけられるか車輪に引かれる事になるが持ち前の反射神経で難なくこなすと壁を越えるのを待つ。
「やぁこんにちは、フーキの様子はどうだったんだい?」
「酷いもんさ、流石に人間のは目につく所には無いがそこかしこに死体が転がってるんだからな。けどすぐ立て直すぞアレは…魔物のドロップアイテムもそうだが魔物素材もたんまりあるからな、金には困らなそうだ」
「ほう、景気がいいんだか悪いんだか…荷台は空だな、行って良いぞ。聖ルクセニア様の加護があらん事を」
馬車が再び走りだし、ついに関所を越える。しばらく進み人気の無いことを確認すると馬車から離れる。
「あーしんど…長々と無駄話しやがって」
服についた汚れを払うと馬車が走っていった方を見る。
フーキの一番近くで一番大きな都市、バクン。
魔道具に注入するエネルギーが多く湧き出て、それを輸出する事により多大な利益をあげ、華々しい発展を遂げた都市だが、エネルギーがやがて枯渇しだすと経済的地位が低下したが、代わりにかつての大戦で殉教者が自らの命を賭し発動させた究極魔法で魔軍を退けた際にあいた大きなクレーターがある事から宗教的に重要な地となった。
平地には大きな街があり、少し離れたクレーターからはもっと大きな教会が建っていた。
「ま、行ってみるか」
歩き出すかと思いきや先ほどの馬車に静かに忍び寄ると、気付かれぬよう荷台に座り都市に着くまでの足とした。
都市の門をくぐり適当に降りると街並みを見渡す。近くに砂漠があるので全体的に埃っぽいが、栄えていた面影を感じさせる様に小綺麗な建物、程よく広さがある道幅はもちろん穴も空いてなく躓く事も無さそう、そして全盛期程では無いがどの店も呼び込みが盛んで活気に溢れており、熱気がヴィーアに叩き付けられる。
近くに出ていた串に刺さった何かの肉の売店の売り子が可愛いかったので話し掛ける。
「ほぉー初めて来たが栄えているではないか。お、可愛い姉ちゃん一本くれ」
「はい!お兄さん、観光?」
「そんなとこだ、良い女探しにな!」
「お嫁さん探し?」
「いや、結婚はしない…それで、この辺で美人って言ったら誰だ?」
「うーんそう言うのは男に聞いた方が良いんじゃない?あ、でも教会のシスターは可愛いって評判よ」
「教会?クレーターにあるでかい奴か」
「いいえ、あっちじゃなくてこの街の小さな教会よ。クレーターの方は威張り腐った奴が多いダラン教の教会、信徒でもなきゃ近付かない事をオススメするわ」
「ふーん、じゃあその当たりの小さな教会はどこだ?」
「当たりって…広い街だから口で説明するのが難しいわね…ここを真っ直ぐ行って二つ目を右へ入って工房通りへ、そこを抜けると樽族タウンがあるから左へ…………なんだけど分かった?」
「分かるか!」
「でしょうね、だから観光がてら街を歩きなさいな。方角だけ教えるから、あっちよ。時間が合えば教会の鐘の音が聴こえるかもね」
「そうするか、じゃあな」
屋台の売り子と別れると気ままに歩き出す、美女を求めて。気ままに。




