対決、切断鬼
ヴィーアは珍しく焦っている、普通に魔物が強いのだ。せめてまともな剣があればと思うが今手元にあるのは歯こぼれした折れかけの剣のみであり道具袋に回復ポーション1個とパンが入ってるのみだ。
「だぁーりゃああ!!」
オークの最後の一体を倒し辺りを見渡すと、先に倒した三体の死体の中にドロップした革の鎧を装備する。
「いったいなんだってこんな低レベルダンジョンにオークが出てくるんだ…駆け出しの雑魚どもなんて一撃で殺されちまうぞ」
握った剣を見る、今にも折れそうで心許ない。流石のヴィーアでも武器も無いまま助けに行くのは危険であり、他人の為にそこまでするヒロイズムも鼻から持ち合わせていない。
「トーロルしっかりして!お願い目を開けてよ!」
戦闘音はもうすぐそこだ。
「チッ、連れて帰ったらぜぇーったい仲良しするぞ、朝までヤッてやる!」
ヴィーアは音の方に駆け出した。
二人は人は床に倒れており手足が遠くに落ちている。一人は壁に叩き付けられ染みになっている。
「うわああああああ!」
魔法使いの男が発狂したようにファイアーボールを放っているが相手はオークなどより大きく体長は2、5メートルはある厄介な魔物、切断鬼だ。意に介さず歩みを止める様子は無い。盾と剣を持ったガード職が及び腰なものの仲間の盾となるべく前に立ちはだかるが、切断鬼は大した勢いもつけず鉈を振り、盾ごとガードを切断する。
「かはっ」
辛うじて生きているがあのままでは1分と持つまい。
「ヌーバーしっかりして!今治すから…だめ、もう魔力が…」
治癒師の女の子が駆け寄り魔力を振り絞るが、致命傷の傷に傷の治りが早くなる程度の低級魔法では焼け石に水で、ガードの目はみるみる力を失っていった。
「もうだめだ、死ぬんだ…」
「おい、どうにかしろよ!お前がこんな所に入ってみようなんて言わなきゃこんなことにならなかったんだぞ!」
レンジャー風の男が剣を持った戦士に詰め寄る。
「なに言ってるんだ、みんな乗り気だったじゃないか!俺一人のせいにするんじゃねぇ!」
「何をやってるんだあいつらは」
通路を挟んで、ヴィーア・切断鬼・冒険者パーティーの順でいるが敵に一番近いのが治癒師と死にかけのガード、比較的元気な戦士とレンジャーが一番後方で魔法使いがその間におり既にパーティーとしての陣形は崩壊している。
「ねぇ、今そんなこと言ってる場合なの?手伝ってよ!」
治癒師が言い争ってる二人に視線を向けた。もう二人は争ってなどいなかったが、背筋の凍るような目を向けられた。
「悪いな…オリー」
二人はさっきより後ずさっている。
「ちょっと二人とも…」
「せいぜいそいつと仲良くな!俺達はここで死死ぬべき人間じゃねぇんだ!」
「ま、待ってくれ俺も連れていってくれ!」
レンジャーと戦士は通路の奥に消えていき追い掛けるように魔法使いも消えていった。
「何よそれ…ふざけんじゃないわよ!」
裏切られて一瞬絶望したがすぐ怒り纏わせる。息を引き取ったガードから剣を取ると切断鬼と対峙する。
(怖い、魔力切れで余計に足も震える…)
オリーがまだ希望を捨ててないのはさっき救助に来てくれた人と話したからだ。きっともうすぐそこだ、こんな化物倒してくれる。そう信じているからだ。
切断鬼が不気味な笑みを浮かべながらゆっくり鉈を持ち上げる。
「早く、助けに来てよー!!!!」
オリーはたまらず絶叫した。
「衝撃斬!」
ヴィーアは大きく跳躍し切断鬼の首に必殺技を浴びたがあと少しで致命傷と言うところで剣が折れてしまった。
「あ、あなたは!」
「待たせたなオリービアちゃん、助けに来たぞ」
オリーの横に着地したヴィーアは折れた剣を捨てるとオリーの手からガードの剣を取る。
「本当は一撃で倒したかったが、そこで待ってろオリービアちゃん、すぐにここから出してやるからな」
オリーは助けが来たことに脱力しその場にへたり込む。死んだガードの血がスカートに染み込むが気にならなかった。
剣を方に担ぎながら切断鬼を見ると首から出血が止まらずかなり弱っている。
「どりゃあさっさとくたばれ!!」
ヴィーアが駆け出し、一瞬遅れて鉈が垂直に振り下ろされたが最低限のステップで交わし足元に潜り込み回転斬りを放つ。両足のふくらはぎに斬り込みが入り僅かに体勢を崩すがダウンには至らなかった。
ヴィーアは振り抜いた勢いを殺さず走り壁にジャンプ、壁に着地すると弓矢の様に切断鬼に跳ぶ、軌道は首だ。
「死ぃねぇええええええ!」
ヴィーアが吼える、切断鬼も迎撃に突き出した鉈が胴体をかすめる、ほんの少し掠めただけで革の鎧が斬り裂かれたがヴィーアの剣が首を捉えた。
切断鬼の首に深々突き刺さりぶら下がるヴィーアはダメ押しに錆びた短剣を目に突き刺す。
一際大きな声をあげ遂に切断鬼は絶命したのだった。
「はぁ、はぁ。あー、つっかれた…おわっ!」
脱力したヴィーアにオリーが抱きつく。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「あー、うん。よしよし」
ヴィーアの服が血と鼻水で汚れていくが、構わず頭を撫でてあげたのだった。
やっとネームドヒロインが出ました