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1キロ離れてても臭うイカ臭い奴

 カニドゥーラック要塞にたどり着いた王族達は直ぐ様事態に対応するべく応援の人員を周辺の領地からかき集める。

更に隣国のゴラート連邦に魔道無線機で援軍を要請した後、続いてコナモン城に連絡すると驚きの返答があり連絡を担当していたラーナナが激怒し椅子から立ち上がった。


「はぁ!?勝手に出撃したってどう言うことよ!…そんなに行っちゃったの?え、戦力が予定の2割も消えてるじゃないの!?」

「指揮官戦死により我々も何が何だか分かりません!先行した貴族の私兵は壊走、誰かが用意した獣人傭兵団はまだ機能していて助かっていますがね!おい上から来るぞ、砲台を避難させろ!」

「ちょっと、大丈夫?ってかクシカッツ死んじゃったの!?今の指揮官は誰?」

「先程まではコノミヤック大佐でしたが今は分かりません!とにかく城を守るのにも人手が足りないんです姫様!まもなく城が全周包囲されますので市民を避難させている所です…壁を登ってきてる、熱い油を浴びせてやれ!」

「分かったわ、とにかく今向かっているから耐えて頂戴、ゴ連からも援軍来るから諦めちゃだめよ、いーい?死んだら打ち首だからね!」

「分かりました姫様!では死ぬほどクソ忙しいので失礼します!」

「行くわよタークス!」

「はっ」


 魔道無線を乱暴に置き、通信室から出ると次々と出発していく兵士達を中庭で見送っている女王にこの事を報告する為に向かった。


「皆の者、頼みましたよ。死んではなりませんよ…ラーナナ、どうでしたか?」

「パパはリーとルーと一緒にゴ連まで下がってもらう事にして貰ったからもう安全よ、リューと話したからバッチリ!援軍もすぐ送ってくれるってさ」

「そうですか。後程私からもリュドミラ王女には感謝を伝えましょう。城の方は?」

「手柄が欲しくて勝手に出撃してやられちゃった人達がいたみたいでね、お城はまだ無事だけど人手不足だし包囲されちゃうから保護してた避難民達をこっちに逃がすって」

「愚かな…ではラーナナ、国民の受け入れ態勢を整えましょう。最悪の場合アカン以外にまで魔物が侵出してくるかもしれませんから領地の封鎖も合わせて行います」

「あっ、うん…分かった」


 早速と側に控えていた要塞指揮官に炊き出しの準備と一時休憩するための仮設天幕の設置を指示し、近衛も動員しての作業が始まる。

そんな様子を心ここにあらずといった様子でラーナナは眺めており、見かねた女王は問い掛けた。


「どうしましたか、呆けている暇は無い筈です」

「ママ、あのね…私もコナモン城に向かっちゃダメかな?」

「何をバカな事…、ダメに決まっているでしょう、戦えもしない貴女が行ってどうなると言うのです?」

「でも約束!…ヴィーアにね、約束しちゃったの。援軍連れて絶対戻ってくるからって…だから死なないでって」

「ヴィーア?…あの男ですか」


 女王が、絞り出す様に声を発する我が子を見詰めると悟った。この子は恋をしているのだと。

伊達にラーナナより長生きしている訳ではない、母親として、何より同じ女としてその顔には見覚えがあるのだ。


「…分かりました、近衛を連れて行きなさい。ただし、危険だと感じたら護衛騎士タークスの判断で逃げること。良いですね?」

「分かった!ありがとうママ!」


 ラーナナは女王に抱きつくとすぐに離れ馬へと向かい、城へ走らせる。間に合って欲しいと願いながら…。


 肩に剣を担ぎながら、外から安宿を眺める男がいる。魔物ですら壊す価値が無いと思ったのか幸いにもあの時のままだなと思いながらヴィーアは中に入った。

もちろん中は無人で、愛想は無かったが可愛い部類に入る宿屋の娘の顔を思い出した所で、自分の部屋を目指すことにした。

安宿にありがちな、くたびれて歩くだけで軋む廊下。少し埃っぽい空気が漂っている、早朝から始まったこの騒動も収集の目処は立たず既に夕方になり、廊下には夕陽が差し込む。

金目の物など無いに等しいのでいつも鍵を掛けていない扉を開けると、ヴィーアはオリービアの姿を探した。


「ま、いるとは思ってなかったがな」


 あの時に部屋を出たままだった、オリーが書いた手紙と、食べたパンのカスがテーブル落ちているだけで何か変わった様子は無い。

パントリーを覗き、ぬるいビールを1本取り出すと寝転びながら飲み始めた。

この辺にはもう誰もいないのか、逃げ惑う人々の声は、もう聞こえない。

ヴィーアは飲み終えた瓶を床に転がすと、今度は段々とイライラしてきて、身体を起こす。


「だいたい、あいつが勝手にどこかへ行かなきゃこんな疲れることも無かったのによ、これはあれだな、お仕置きが必要だな…いやそもそもどこのバカが魔物なんか送り込んできてやがるんだ?」


 生憎窓を開けても見えるのは隣の建物の壁だけだが、海の方向へと目を向けると一際大きな魔物の声が聞こえ、驚きの声をあげる。


「なんじゃ今の鳴き声は…今のが親玉か?それにこの音…」


 遠くから何かが落下し叩きつけられる振動と音が響く、それは段々とヴィーアの方に近付いてきて、やがて船と思わしき残骸が安宿の屋根を突き破り目の前を通過し、破片が飛散するとその衝撃で思わずひっくり返ってしまった。


「げほっ、げほっ、ぺっぺっ…いったいどこのクソがこんな真似、を…」


 立ち上がり、顔を上げ見えた光景が思わず現実離れしており立ち尽くしてしまう。

海まで距離はあると言うのにしっかり確認出来る程の大きなイカが顔を出し、近くで砲撃している戦艦を触手で掴むとまた街に放り投げる。

それはヴィーアのいる方向では無かったが街が大きく破壊された。


「流石の俺様でもあれとは戦わんぞ…」


 あんな大きな魔物は戦艦に任せるとしよう、そう判断し回れ右をしたところで、飛行している魔物の群れが何かを抱えているのが目に入った。

女性の様だ、それも若くて見た目も良さそうなのばかりを運んでいる。

それはやがてイカの魔物の頭の部分に着陸すると次々と女性達を下ろしていった。


「女拐って何してんだコイツら。てか可愛い女が多かった気がする。俺の女は拐われて無いだろうな…魔物の分際でなんかムカついてきたぞ」


 ヴィーアは言い知れぬ不安に駆られ、やはり海へと向かうのであった。

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