もうすぐ城
補給も人員補充も絶たれ既に包囲された部隊が、包囲外の味方と連携せず突破出来る可能性と言うのは余りにも低い。
人間同士の戦争であったのならば闇夜に乗じて離脱したり、見張りの慢心につけ込み逃げ出す事が出来るかも知れないが魔物には夜目が利くものもいれば寝ない者もいる。そもそもの常識が人間とはかけ離れているのだから。
その包囲下を女子供、老人に負傷者を連れていこうと言うのだから余程の奇跡が起きなければならないのだが…。
「ハンス、右の路地を爆破しろ!そっちに用はねぇから敵ごと埋めちまえ!」
「分かりました!」
「パウエル、3人連れてあの建物を制圧するんだ!上からの魔物攻撃が酷い、上の魔物を倒すまであそこに避難する!」
「聞いたなお前ら、俺のケツについてこい!」
避難民を中心に円形防御で進んでおり、地上からの攻撃は防御出来るが空を飛んでいる魔物からの遠距離攻撃に弱い。
ランのハンドキャノンと、他冒険者の弓で迎撃しているが戦果はいまいちだ。
「でかいのが突っ込んでくるぞ、誰か止めてくれ!」
「後ろからもデカスリバーが来た!」
「チッ、だらしない奴らだ。俺様がやってやる」
「前を頼めるか、後ろは俺がやる」
「ええい一々出てこんでもやってやる、やる気がなくなるからむさ苦しい顔を近付けるな」
「ふっ、この歳になってこんなガキに生意気な口をきかれるなんてな…人生なんて、どうなるか分からんもんだなぁ!」
アデルの身体が一回り大きくなり、筋肉が盛り上がった。武器のナックルを確認すると首を鳴らし、回転するスリバーを手で受け止めると、甲高い金属音が鳴り響き勢いがどんどん無くなっていく。
「カレイン、こいつの首を刎ねろ!」
「承知した!大将肩を失礼する」
カレインがアデルの肩を踏み台にして大きく跳躍すると、二刀の直刀を左右から振り込むと固い皮膚の感触がカレインの手に伝わるが、抵抗ののち、首を斬り飛ばした。
「ヴィーア、一人で大丈夫?」
「当たり前だ、ランちゃんはここでベルちゃんを守っていてくれ」
「ヴィーア様、足を引っ張ってしまい申し訳ありません…」
「なぁに、あんなもんなんの障害にもならん。だから謝る必要は無いぞ」
「せやでベル、こないな奴に謝る事なんかなぁんもありゃせん」
「うるせぇぞババア引っ込んでろ」
「お婆様、とても顔色が悪いです…さぁ一緒に下がりましょう」
「さて…」
会話している間にも、もう一体のデカスリバーが家や木を凪払いながら接近してきている。
他の冒険者達の遠距離攻撃が回転するスリバーに殺到し血が吹き出すが回転は止まらない。
「だったら俺様の回転斬りと勝負だオラァ!」
「んな無茶な、死んじまうぞ!」
冒険者の叫びを無視し、スリバーの回転とは逆に回転し真っ向から刃を合わせる。
同等の力が加わったのか、まるで鐘を鳴らしたような大きな音が響くと、スリバーは一気に回転が止まる。
「いてて、流石に手が痺れる…」
「ヴィーアすごい。回転が止まったなら、私の攻撃が通用する」
ランが三発のハンドキャノンを撃つと、散弾が頭蓋を砕きスリバーは倒れる。
冒険者や避難民達から歓声があがるが、上から毒液が飛来してきてすぐに悲鳴に変わる。
「ボサッとするな!建物まで走れ!」
「皆行くぞ、諦めるな!」
更に落ちてくる毒液を魔法使いのバリアで防ぎながらなんとか建物に走ると、先行していた冒険者が弓と魔法で援護が行われ何とか逃げ込む事が出来たのだった。
「はー疲れた」
「はぁ、はぁ、息が…わっ、ヴィーア様」
「これ、大人しくせい」
真っ先に椅子に座りこんだヴィーア、その横でベルも肩で息をしていたので膝に座らせた。避難民達も疲れ果てた様子で床に座り込み、知り合い同士で身を寄せ合う。
冒険者達にも疲れが見えるが、アデルはすぐに指示を出す。
「休んでる暇は無いぞ、怪我した奴はすぐに治療だ。まだ動ける奴は二階に上がり窓から飛んでる奴を狙ってくれ。残りは出入口を塞ぐんだ!」
「ヴィーア、私行ってくる。残りの弾もう殆ど無いけど」
「ランちゃん疲れてないか?」
「大丈夫、ぷち巨人族は頑丈」
ランはそう言うと、ハンドキャノンに弾薬箱から取り出した残りの弾を詰め込み、窓から射撃を開始した。
今ここにいる冒険者と避難民は40人程だ、そのほとんどはすぐに動き出したのだが、10人は動こうとはせず座ったままだ。
「おめぇら、今がどういう状況か分かって座ってんのか?」
「大将よ…いい加減避難民助けるのやめませんか?自分達だけでも生き残るのに精一杯だってのに庇いながらなんて命が幾つ有っても足りねぇ」
「その通りでさぁ、俺達は国を守る為の兵隊じゃねぇ。人を助ける前に自分を助けてぇ訳ですわ」
「大将は強い、だからワシらも黙ってついてきた。でもこのままだと皆死んじまいやす」
「…なんだと?」
避難民達が顔を伏せた。それは申し訳無さからか、何も出来ない自分の不甲斐なさからなのか。その中から一人が発言してくる。
「皆様、儂ら動けない老い耄れはここに置いていって貰っても構いやせん。だが子供だけはどうか。頼みますわ」
「え?嫌だよ僕はお爺ちゃんと一緒にいる!」
少し大きな子供が話を理解し、泣いてしまった。そうすると子供の泣き声と言うのは周りの子供にも伝播する、一人が泣くと意味も分からず他の子も泣いてしまうのだ。
「…おめぇらが言いてぇ事も分かる、だがそうやって、この子達を見捨ててまで生きて何をする?確かに生きてりゃまだ色んな事が出来る歳だ、だから長い人生後で今日の事を思い出す日が来るだろう、結婚して子供が出来る奴もいるだろう…その時おめぇらが後悔しねぇか?それでも後悔しねぇって奴だけ、どこへなりとも行くといい」
「…すまねぇ大将、俺達は知らない奴を守って死にたくないんだ。でも城に辿り着いて軍を見付けたらここの事を知らせる。だから死なないでくれよ」
「分かった…達者でな」
アデルの説得も虚しく、不満を抱えた冒険者10人の内7人が裏口から出ていったのだった。
「大した結束だな」
「みんなテメェが可愛いのさ、この騒ぎが始まって人を助けるって言い出したのは俺の我が儘だ。だからって死ぬまで付き合わせるつもりは無ぇよ…せめてクアール達と合流出来れば他の奴らも士気を取り戻せるんだがな」
「こっちの人員弱いし女っ気が無さすぎるぞ」
「強い奴らはクアール達と前線で戦って貰ってたからな、カレインはお前の知り合いってんで残ってて貰ったが正解だった」
カレインは一階の扉の前に陣取り、バリケードの隙間から入ってこようとするゴブリンを切り刻んでいた。
「右の窓からも入ってくるぞ、誰か防いでくれ!ラン殿、上の魔物はまだいるだろうか!」
「まだいる、でももう弾切れ…」
「包囲されてないのは裏口くらいか…大将、どうする?」
「初めより減ったはずだ、これ以上減らせないならこれで出発するしかねぇ」
「分かった、さぁ皆立って!我々が必ず守る、心配しないでくれ!」
「ごめんなさいヴィーア、あまりうまく当てられなかった…弾も無くなった」
「ま、なんとかなるだろ。俺に任せろ」
「大将、裏口から物音がするぞ!」
ランはハンドキャノンを捨てると近くにあった鎖を拾い上げ、先程冒険者達が数人逃げた裏口を睨み、構える。
そして扉がゆっくりと開き…
「あ、本当にイタ」
「お、カルじゃねぇか」
「なになに、こいつがカルが探してた英雄様か」
「だから探してねーシ!」
カルミティ達獣人部隊が入ってきたのだった。




