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逆鱗に触れる

 カウンターの裏からハンドキャノンの弾薬箱を取り出し、テーブルの上に置く。他にも回復薬が二つ、ただの鉄で出来たナイフ、革袋に入った水、乾燥肉などが並べられた。


「持っていける使えそうな物はこれくらい、弾はもう多くない…」

「あっちの商館に行くだけだから十分だろ、ゾンビー劇が始まる訳じゃあるないし」

「魔物の中にゾンビーもいた、誰か食べられてたら増える」

「可愛いメスモンとかいねぇのか、メーガネーコーとかあばれホルスタインちゃんとか」

「今日はまだ見てない」

「ふん、じゃ行くか。ランちゃんハンドキャノン忘れてるぞ。相変わらず重いなこれ」

「…ありがとう。ヴィーアって力持ち?」

「ん?まぁ最強だからな」

「そっか」


 ヴィーアが何気なく片手で拾い上げたハンドキャノンだったが、重量にすると30kgもあり人間でもレベルが高ければ片手で持てないことも無いのだがそれでもこんなにも軽そうに持てた人間をランは知らなかった。


「ちょっと先のなんとかって商館を目指すぞ、そこでカレインちゃんとベルちゃんを拾って脱出する」

「わ、わかった...」

「ランちゃん、心配するな。俺様がいる、怖い事なんかなーんもねぇ。だから安心してついてこい!」

「うん、信じてるよ」


 酒場の扉を開けると匂いに釣られてきたのかスニーキーが物陰から現れ、更に数匹のアーリマンが近くを旋回しており、その広い視野で瞬く間の発見され接近してくる。


「飛んでるのは任せて」

「ビビるなよランちゃん、やばくなったらすぐ隠れろ!」

「もう、怖くないから大丈夫」


 ランがハンドキャノンを放ち、火薬によって高速で押し出された鉄の粒がアーリマンに飛んでいくと、大きな目玉から生えている翼までを容赦なくズタボロにしていく。

仲間がやられ、密集から散開したアーリマンは別方向から体当たり仕掛けてくる構えだ。

また、銃声を合図にスニーキー達も一斉に飛び掛かってヴィーアとランに殺到してくる。


「全部を相手する必要無いぞ!狭い路地に入れば飛んでるウザイのも痩せた犬も数を活かせなくなる!」

「わかった!どっちの敵を減らすの?」

「俺が突っ込むから援護してくれ!」


 来た道を戻ろうとヴィーアが衝撃斬を使うと前方にいたスニーキー達はまとめて吹き飛ぶが、店の屋根に展開していた別動隊が後方にいたランに飛び掛かる。


「ランちゃんあぶねぇ!」

「むん!」


 酒場、ランバージャック。の鉄で出来た看板を一気に引き抜くと片手で振り回すと金属の心地よい音が響いた後頭蓋が割られる嫌な音が聞こえる。


「やっぱぷち巨人族ってだけで強いな、さっきは何が怖くて泣いてたんだ」

「私は小柄だけど力は他のぷち巨人族に負けてないよ、ほら力こぶ、むん。それにさっきはずっと暗いお店に一人っきりだったから…でも今はヴィーアがいる」

「おぉ、そう言う可愛い所好きだぞ。そろそろ突破出来そうだな、俺様についてこい!」

「わかった」


 走りながらスニーキー達を斬り伏せるとランがなんとか通れる狭い路地に駆け込む。

これで一度に戦う数と警戒すべき方向がぐんと減るだけで戦いは楽になった。


「後は商館まで一気にゴーだ」

「こんなに走ったの、久しぶり…あっ」

「な、なんだどうした?」


 ランが急に艶かしい声を発し、驚いたヴィーアは止まり振り返ると、落ち着かなそうにランはしている。


「走ったからさっきのが、垂れてきたみたい…」

「こら!ムスコをイライラさせるな走りにくいんだぞ!」

「ごめんなさい」

「ちょっとどこかでご休憩とでもイキたいが今は先を急ぐぞ」

「ん、大丈夫」


 チンポジを修正し、再び走りだそうとした時、重量のある足音が聞こえてきた。

二人が音のする壁を見て動けなくなっているとなんと家の壁をぶち破って咆哮と共にマッドジャイアントが現れる。

マッドジャイアント、妊娠する確率は低いがどの種族とも交配が出来るぷち巨人族が魔族と交わり生まれたもの。言語を解せず気性は荒く人と共存する気は全く持ち合わせてはないのでぷち巨人族と言うより魔物としてカテゴライズされている。


「うお、なんだこいつ!」

「一族の忌み子…魔族に捕まって、無理矢理生まされた可哀相な子…ヴィーア、あの子を楽にしてあげたい」

「ランちゃんの頼みなら仕方ない、直々にインドーを渡してやろう」

「私も、がんばるから」


 ランが先制して放ったハンドキャノンは硬い皮膚と身に付けていた防具に弾かれ効果はいまいちだと判断したので破壊された壁の鉄筋つきの塊を拾い上げフルスイングする。

重い一撃を食らいマッドジャイアントの鉄兜が大きくひしゃげるがまだ死ぬ様子は無く、その大きな巨体だけを武器にただ突っ込む。


「やべぇ避けられねぇ!」

「ヴィーア!」


 狭かった路地では上にしか逃げ道がなく、マッドジャイアントの身長を越す程のジャンプも出来ないので防ぐしか無いのだが、見た目どおりの豪腕から繰り出されるただのパンチですら即死繋がる一撃が筋力を生かした速度で放たれる。

ヴィーアは剣で一か八か防御しようとしたが、間にランが間に入り…顔を殴られ吹き飛んでしまった。


「ランちゃん!」

「あうっ…痛い、よ…」

「あんのクソがぁ俺様の女殴りやがって、絶対殺す!」


 ランを殴れて喜んでいるのか、両腕を挙げ雄叫びをあげているマッドジャイアントに突撃したヴィーア。その接近に気付き挙げていた両腕組み、ハンマーの様に振り下ろした。


「そんな、ヴィーア…ダメだよ…イヤだよ…死んじゃいや…」


 振り下ろされた両腕が地面に当たるとその衝撃で土煙があがり、ヴィーアはどうなったのか、殴られ出血した血が視界を遮りランからは見えないがマッドジャイアントは狂った様に声を出している。

ふと何かがランの顔に掛かる、はじめは自分の血だと思ったが不規則に降り注ぐそれは身体や足にもかかり、ヴィーアが死んでしまったかも知れない衝撃から意識を変える事が出来たので、何が起きているのかを確かめるべくなんとか身体を起こすと、煙から声が聞こえてくる。


「言ったろ、俺は最強だから安心しろってな」

「ヴィーア!」


 土煙が晴れると振り下ろした時に組んでいたままの状態で肘から先が切断された両腕が落ちており、残った腕から吹き出ている血がヴィーアとランを汚していた。


「きったねぇなぁ、もうさっさと死ねや」


 両腕を失い、手負いの獣のごとく決死の体当たりをしてくるマッドジャイアントに最低限の動きだけですれ違い、腹を斬るとたまらず地に倒れるマッドジャイアントの上に飛び乗るとヴィーアはその顔をおもいっきり踏み付けた。


「おらぁ死ねやボケが!よくも俺様の女に手を出しやがって!可愛い顔に傷が!出来たらどうすんだゴミ野郎がーー!」


 止めとばかりにジャンプして踏みつけると、辛うじて形を保っていた鉄兜が割れ、割れた歯が地面に転がり、マッドジャイアントは絶命した。


「ヴィーア!いきてた…いきてた…良かったよう

「おわ、大丈夫かランちゃん、あーあこんな顔腫らしちまって。確か回復薬あったな…ほら顔に塗るぞー」


 立ち上がったランはヴィーアを強く抱き締めるが、言われた事を覚えており痛みは無かった。



 

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