ベルを探せ
朝の散歩に行ったお婆様が帰ってこない、それなのに街では爆発音が鳴り響き人々が魔物が来たから逃げろと言う。
私はどうするべきなのだろうか?教えてくれるお婆様はいない。自分で考えなければ…。
とにかくお婆様を探しにいこう、そう思い店にあるお客様からの鑑定待ちの品を装備する事になろうが使える物は何でも使い生き残ろう。
きっと大好きなあの人ならそうする。
自分如きを助けに来てくれるとは思っていない、それでもあの人にもう一度会いたい、そんな思いでシルバーベルは店のアイテムを吟味し、使えそうな物を探していく。
(編み物が上手くなる棒針…料理が上手くなる包丁…踊りが上手くなる靴…どれも役に立たなそうです…)
この局面を打破する為の魔道具を片っ端から漁っていくが、そもそも戦闘に適した魔道具などは多くなく、ベルの店にも一月に三つ依頼が来るかどうかであり、そして運悪くあまり店に置いてなかった、それだけの事だ。
「私では鑑定出来ない物も多いです…もっとお婆様からいっぱい学ぶべきでした…」
唯一見付けたこの依頼待ちの剣に一体どんな付与効果があるのか?分からないままだが護身用として使えそうな武器はこれだけであり、使いこなせるかどうかは置いておいて持っているだけで嫌な気分になるロングソードを両手で抱く。
「今探しに行きますわ!お婆様」
ベルが怒号と悲鳴が渦巻く街に身を投じた少し後にヴィーアは到着した。
馬を降りて繋ぐ事もせず辺りを見回すが、この辺にはまだ魔物が到達していないのか破壊の跡は無く、まだ中にいるかもと期待し店内に入るが人気は無かった。
「ベルちゃんいないのか!…無事に逃げてんならいいんだが」
声を出してみるがやはり反応はなく、外を探しに行く事にしたが馬の姿が消えていた。
「あのバカ馬逃げやがった!後で見付けたら食ってやる…」
仕方なく徒歩で移動し、ベルを探しながら街の海側へ向かう。
内陸側に逃げる人混みを掻き分けあても無く走っていると近くで子供の悲鳴が聞こえる。
「はよう逃げぇ!」
「お婆ちゃんありがとう!」
鑑定屋の老婆は転んでしまった子供を立ち上がらせると犬型の魔物、スニーキードッグ二体と対峙する。
杖を構え詠唱し火球を放つと避け損なった一体に命中し燃え盛る。
「よしっ」
スニーキーは単体であってもその速度は脅威だが、複数で狩りを行う魔物であり、本当に恐いところは囮役と本隊の連携だ。
物陰から別の三体が一斉に飛びかかると両足と杖を持った右腕を噛まれ痛みに杖を落としてしまう。
そして囮役の生き残りが首筋を狙って跳び…
「どりゃああ!」
「うぅっ、ヴィーア坊か!?」
ヴィーアは飛び掛かったスニーキーの前に出ると水平に輪切りにし、老婆に噛み付いている三体も瞬く間に切り捨てた。
「ぐっ」
「待てまだ死ぬなババア!」
「なんや、こんな老い耄れを心配してくれるんか…?」
「違うわ!ベルちゃんはどこだ!?せめてそれを言ってから死ね!」
「店におらんかったのか!?…もしかしたらワシを探して散歩コースに向かっているかもしれんのぉ」
「そりゃ一体どこだ?」
「ここを左に曲がった水路沿いの道や、ほらあのちぃーちゃなぷち巨人族の娘がやっとる酒場あるやろ?あそこで右に曲がって戻ってくるのが日課や」
「ぷち巨人族のちっちゃい女?ランちゃんの店か!?」
「名前は知らん入ったことも無い、朝に酒場はやってへんからのぉ」
「ふん、使えんババアだ。健康の為に散歩なんかしてなきゃもう少し生きられたのにな」
「まだ死なんわアホ」
「…連れていかんぞ」
「あぁ、ええからベルを頼む…ワシはその辺に隠れとくわ」
「任せておけ、ベルちゃんは俺の予約が入ってるからな。だから安心して眠れババア!」
「だから死なん言うとるやろが!…行ってもうた」
奥に進むごとに戦闘は激化してゆく、各冒険者ギルドが奮戦して生存者を避難所に連れていきかろうじて保持しているがそう長くは持たないだろう。
水路沿いにある道を進んでいると壁の高い商館を避難所にした冒険者が襲ってきていた最後の魔物を倒したようだ。
「おいそこのアンタ危ないぞこっちに避難しろ!」
「うるせー!お前らこそさっさと移動しろ、こんなとこじゃ包囲されるだろうが!」
「俺達もそうしたいが子供も老人も負傷者もいて動けないんだ!あんた戦えるなら手伝ってくれ!」
「銀髪の可愛い女はいるか?16歳くらいだ」
「は?あんた一体何を言って…」
「いるのか?答えろ」
「…あんたも誰かを探しているんだな?おい、確認してこい」
「分かりました、その子の名前は?」
「シルバーベル、鑑定屋の娘だ」
ヴィーアのあまりにも真剣な表情で何かを察した冒険者は、部下に指示すると避難所を探しに行かせた。
「ヴィーア様!」
「よう無事だったかベルちゃん」
「お婆様が…お婆様が見つからないのです!だから私探しにいって!でも見つからなくて!」
「分かったから落ち着け、俺がさっき助けたからまだ生きてる、その後は知らんが」
「本当ですか!無事なのですね!?」
「あぁうん、無事無事」
「よかったです…ありがとうございます…ありがとうございます…」
ベルがヴィーアに抱きつき涙を流しているのを、背中をぽんぽんしてやった。
「しかし、よく無事だった。ベルちゃん戦えないだろ?」
「実際魔物に襲われ、戦闘出来ないのに武器なんか持っていても何も出来ませんでした…でもある人に助けて頂けて…あっあの人です、あの綺麗な女性」
「うん、どうした?…ってヴィーア殿ではないか!」
そうして命の恩人に手を振ったベルの先にはカレインがいた。
戦闘した後なのか多少傷付き、返り血を浴びているが元気そうだ。
「おぉ!カレインちゃんじゃないか、さては俺に会いたくてここに来たな?」
「何を言っている、ここの商館…避難所は今アデルギルド…つまり私の所属しているギルドが守っているぞ」




