アカン大侵攻
漁師の朝は早い、まだ陽が出ないうちから船に乗り込み魚を獲りに行く。
「親父ー!網の点検終わったで!」
「だったらさっさと投げ込まんかい、他の船に獲物かっさわられるやろが!」
この小さな漁船には父と息子だけであり、その息子だって漁を初めてまだ一月。筋も物覚えも悪くないのだが素人と大差無いので怒鳴ってしまう事も多いが、一緒に仕事がしたい!と言ってくれた息子の事が内心可愛くて仕方がない。
一生懸命網を張る息子の成長を感じながら、父は操縦桿を握って船を安定させようとしていた時だった。
「親父…おい親父!こっち来てくれ!!」
「こりゃぁ…えらいこっちゃ…すぐに城に報告や!」
「でもまだ網が!」
「ドアホ!網どころか街がなくなるかもしれんのやぞ!」
ただならぬ様子の息子の声にすぐ駆け付けた父が見たのは、気泡に包まれ水中を進む陸上魔物の群れだった…。
窓から日が差し込み、ヴィーアの顔を照らす、大きなベッドの上で目を覚ました。
隣ではラーナナが静かに眠っており、寝息をたてる度に胸が揺れるのでヴィーアはまた元気になってきたが、久し振りに自分の能力がどれくらい上がっているか確かめる事にした。
(おぉ、結構上がってる…アビラバとヤった時どれくらい上がったんだ?ラーナナちゃんは強くないからあまり上がってないが…)
二つスキルが増えている。
一つはアビラバの物で、異性を魅了するチャームだ。
(ふん、俺様はこんなもん無くてもモテモテだぞ)
大して興味無さそうに次を見た。
(なんじゃこりゃ…)
ヴィーアの女【10/1】
何が出来るでもパラメーターが増えるわけでも無い名指しのスキル。
名前を見る限り揃えたら良いことがありそうな予感するが、現状何か出来る訳ではなさそうだ。
「俺の女だぁ?言われんでもヤった女は俺のだ」
「うーん…どうしたのヴィーア?」
「いんや、何でも無い。それよりも…起きたなら朝の仲良しと洒落こむか!」
「いやよ!まだ挿入されてる気がするくらい痛むんだから!ヴィーアってもしかしてヘタクソなのかしら!」
「な、なんだと…」
生まれてきて初めて人の言葉で傷つけられたヴィーアは言葉を失うほどの衝撃を受け固まり、息をするのも忘れた。
「あ、あれヴィーア?嘘だからね?ちゃんと気持ちよくなれたから、大丈夫、上手よジョーズ、よしよし。お姉ちゃんに任せなさい」
「は?…俺様は何を?」
言葉のナイフで心臓を刺されて気絶していたヴィーアが息を吹き返し、ラーナナを見付けると豊満な胸の間に顔を埋めた。
「すーはー…」
「いやん!もう仕方ない人ねぇ」
「姫様、姫様!急ぎ逃げる準備をなさって下さいませ!」
そんな甘々な雰囲気を醸し出していると扉が乱暴にノックされ、あの時の文官の声が聞こえる。
「魔物が海から攻め入って来ました!不意をつかれ既にアカンの街が戦場ですぞ!両陛下もまもなく避難を始めます、姫様もおはやく!」
「何ですって?すぐに行くわ、タークスを呼んで頂戴!」
「既に下でお待ちですぞ!」
直ぐ様身体を起こしたラーナナは髪を解くのも程々に着替え凛々しい表情でヴィーアと向き合う。
「ここも危なくなるかも、ヴィーアも逃げて。北上してカニドゥーラック要塞を目指して、そこまで行けば安全だから…」
唇を噛み締め、一瞬で姫の顔になったラーナナは瞬時にだが無意識に ヴィーアの身を案じ戦火から逃れるように指示を出す。
「バカを言うな、逃げる訳無いだろ」
「ヴィーア…!」
「それに、この街には俺の女が沢山いる。魔物なんかに殺されてたまるかってんだ」
「もう、結局私が一番大事だからとか言ってくれ無いんだから…なんでこんな人好きになったのかしら!」
「ふははは!俺の一番はその時アレがハマっている女だからな!…まぁ死なれたくないのは本心だから逃げん、魔物が俺の女を殺そうってんなら、手伝ってやる」
タークスに勝てたヴィーアが手を貸してくれると聞いてラーナナは顔を綻ばせる。
「本当?無事に帰ってきてくれる?こんなこと初めてだから怖くて…ヴィーアも戦いに行って死んじゃうんじゃないかって…」
「心配するな、ラーナナちゃんはもう俺の女だからな。絶対見捨てん、魔物が100来たってんなら俺が全部倒してやる、魔王が来たって同じことだ」
「うん!」
「だからさっさと逃げろ、あの男も肉壁くらいにはなるだろ」
「他の領地から軍隊集めてすぐに助けにくるから!それまで無理しないでね?」
「あんな雑魚どもにいくら来ようが俺の敵では無いわ!」
ヴィーアの不敵な笑顔を見ていると、ラーナナはとても安心した気持ちになり、自然と笑顔になった。
アカンの街を見下ろす城壁の上は混乱の極みにあった。太陽がようやく昇ろうと言う時間に海岸防衛線から、陸の魔物が大挙して押し寄せてくると連絡が来た。
何かの見間違いだろう、誤報だろうと。
それからまもなく通信が断絶したかと思えば街から火の手が上がり市民から引っ切り無しに通報が入る。
「まだ来るぞ!海岸からくる後続に砲撃を浴びせろ!」
「師団の準備を急がせろ!前線を支えるんだ!」
「まもなく援軍が来るとの報告です!」
「さっきからそればっかりで誰も来ないじゃないか!」
「おーやってるな…うわすげぇいるじゃねぇか」
「誰だお前は!?…冒険者?」
そこへヴィーアがやってきて、忙しそうに動き回る兵士を押し退け黒煙が上がり燃えている街を見下ろす。
「おい、軍隊の姿が全く見えんぞ」
「まだ準備中だ、あと5分はかかる...」
「バカ言え!5分で何人死ぬと思うんだ!こんなとこで何十人も集まって大砲バカスカ撃ちまくってるだけじゃ誰も助けられんぞ!」
地上部隊が来ないと分かったヴィーアは忌々しげに街を蹂躙する魔物を見つめると階段を下りていく。
「あ、おい、どこへ行く気だ!?」
「街に決まってる!お前らも準備を急がせて突っ込ませろ!」
(とにかく俺の女達だけでも助けにいかんと…ここから一番近いのはベルちゃんの店か)
中庭で準備をしていた騎士がフルプレートを装着し、盾とランスを持ちいざ愛馬に跨がろとしていた時敵発見の報告があがりそちらを見た。
「あー!あそこに空の魔物が!」
「何、どこだ!?いないじゃないか…っておい!」
「ちょっと借りるぞ!」
「返せ馬泥棒!」
ヴィーアは嘘で注意を逸らすと馬を拝借し街を目指した。
果たして間に合うのだろうか




