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バレなければ何も問題ない

 金持ちと言うのは、何をするにもスケールも無駄も大きい。

現に今もヴィーアとタークスの試合の為に近衛兵が二人を囲み盾を構え擬似的なフィールドを形成している。

近衛兵の給金がヴィーアには一体どれくらいかは分からないが、それでも安くは無いだろうと思いながら肉壁を見渡す。


「ヴィーア殿、さっきは友人と言ったがもう撤回しないとならないようだ。ラーナナ姫の騎士として」

「けっ、騎士だの国だの俺にはどーだっていい。ラーナナちゃんを奪う邪魔するってんなら死んでもらうまでだ」


 位置に付き相対する二人、タークスはフルプレートを装着し、遠目でも業物だと分かる大振りのブロードソードを構える。

それに対し未だに借りっぱなしのカレインの直刀だけでまともな防具も着けていないヴィーア。


「すまないが、本気でいかせてもらう」

「勝手にしやがれ」

「タークス!負けたら承知せぇへんぞ八つ裂きにしたれや!」


 周りの歓声に負けず国王が酒を片手にわめき散らす、まるで賭け事をしているその辺の親父の様だ。

「お辞めなさい」


 非常に興奮状態だったが女王の扇子で頭を叩かれ静かになったのを見て女王は宣言する。


「ではヴィーア殿、勝てばラーナナを…もちろん無理矢理は許しませんが双方の合意があった場合致す権利を。護衛騎士タークス、貴方は自分の…ただ使命を果たしなさい。それでは双方準備はよろしいですね?」

「いつでも」

「お、そうだ。少し待て…………」


 ヴィーアが閃いた顔をし、眼を瞑る。周りから見ると瞑想しているかに見える。


「私を巡って二人の男が戦うんだ…ドキドキ…ねぇリー、ルー、ロマンチックじゃない?」

「ラーちゃんの本と一緒なの」

「最後は裸で抱き合うのね」


「…よしいいぞ」


ヴィーアが静かに目を開ける。


「周辺を破壊するようなスキルの使用は無し、剣技等の接近戦のみで行うものとする…それでは始め!」


 開始の合図が出たものの二人は動かずお互いの出方を窺っている様で緊迫した様子が漂っている。


「来ないのであればこちらから!」


 タークスは油断が無く慎重でありながら訓練と実戦で鍛え上げられた確かな自信を持った足取りで素早くヴィーアの間合いに入り小手調べの一太刀を放つ。


(うわ、おっも…)

「よかったよ、あの程度で首が飛ばなくて!床を血で汚したくは無いからね」

「抜かせ!」


 その後も連続で攻撃が繰り出され、想像よりも重く速い、そして的確で嫌なところばかり狙われ、ヴィーアの防戦一方に見える。お互いに大振りの一撃を打ち、一旦距離を取る。


「やっぱタークスの勝ちよね、この国で一番強いもの」

「「ヴィーちゃんがんばえー」」


 初めは景品に処女を賭けられて不安げだったラーナナだがタークスの強さを見て安心して椅子にもたれ掛かった。


「甘いな、女の事になるとヴィーアは凄いんだゾ」

「あらカルちゃん、来たの」

「賑やかだったんでツイ。ヴィーアにはきっとろくでもない作戦がある、そんな顔してたからナァ」

「ふーん作戦ねぇ…ところで私に敬語使わないの?これでもお姫さまなんだけどなぁ」

「もうやめだ、だってお姫さん怒らないだロ?」

「へへ、まぁーねぇー」


何となくカルはラーナナが好きになった。


「かかってこないのか?」

「うるせぇ今どうやって恥掻かせてやろうか考えてる所だ!」

(おかしい、これだけ好戦的な男が何もしてこないなんて…何を待っている?)


タークスが不審に思い警戒した所に、ヴィーアが急に独り言を言い始めた。


「ん、そーかよーしよし!」


 突然ヴィーアが満足げに頷き始め、タークスは訳が分からず動きを止める。


「さて待たせたなターコヤーキー君、ここからは何もさせてやらん。圧倒的な実力差と言う物を特別に見せてやろう!」


 直刀を持っていない左手でタークスを手招きし挑発する。


「それは恐ろしいなっ!」


 フルプレートを着込んでいるとは思えない爆発的な踏み込みで一気に間合いを詰めるタークス、ハッタリだか何だか分からないがこれ以上何かをさせる前に決着を着けてしまおうと言う算段だったのだが…


何かに蹴躓いた。


 いや、床のどこかが思ったより低くなった感覚があった。まるで穴でも空いてるかのような…ともかく、想定していなかった段差にバランスを大きく崩し、そこをヴィーアが猛攻をかける。


「そりゃうりゃとりゃー!」


 初めて攻撃を受ける側になったタークス、型も何も無いヴィーアの太刀筋だったが様々な強敵と戦ってきた経験に裏付けされた鋭い一撃が襲いかかってくる。


「転べ!」


 回転斬りと合わせた回し蹴りをくらい後ろによろめく。


「ぐっ、まだまだ!」


 三歩下がっただけなのに、さっきとは違う場所でまた床が沈んだ感覚があり体勢を崩し片膝をついてしまう。


(さっきから一体何が!?)


 違和感があった床を見てみても平らなままだ。幻術魔法の類いだろうか、しかし自分の装備にはそれらを打ち消す効果があるものもあるし、レベルによるパラメーターの高さもある。戦士にしか見えないヴィーアが簡単にこの守りを上回ってくる程の幻術を使えるとは考えにくかったが、何か仕掛けてきているのは間違いなかった。


「余所見をするとはバカな奴め、これで終わりだ!」

「しまった!」


 ヴィーアは鈍器を振るかの様なスイングでブロードソードを弾き飛ばし、タークスの顔面に蹴りを入れ床に倒す。

起き上がろうとしたタークスだったが胸に足を乗せ体重をかけられ、剣を顔に向けられた。


「ふははははは!どうだ?どーだまいったか!」


 高笑いしながら剣の腹でタークスの頬をピチピチ叩いてると女王が試合終了を宣言する。


「そこまで、勝者 ヴィーア殿!」


 白熱した試合ぶりに観客が沸き上がり拍手が飛び交う。

苦虫を潰した顔でタークスは立ち上がり、ヴィーアは手を振り上機嫌に声援に答えながら女王の元に向かう。


「約束通りラーナナちゃんを貰うぞ!」

「まずはおめでとうございます、素晴らしい勝負でした。先程も言いましたが無理矢理は許可しません。破った場合は国の総力を上げて貴方を処刑すると言っておきましょう。国外に逃げても無駄ですよ、国際指名手配にします。懸賞金も賭けて市民からの情報募り…」

「あぁもういい、分かってるそんなことはしねぇ」

「では後は御自由に……それでは皆様方、これにて演目は終了です。引き続きお食事をお楽しみ下さい!」


「タークス、お疲れ様。痛いとこ無い?」

「ラーナナ姫、申し訳ございません…自分の力不足で純血を…御守り出来ませんでした…」

「大丈夫大丈夫、さっきのってつまり私が良いって言わなければ何も起きないんでしょ?いいから席に戻りましょ」

「…はい」


 ラーナナが俯いているタークスに声をかけ席に戻っていく。

「ヴィーちゃん凄いの!」

「タークス倒しちゃうなんてカッコいいのね!」

「あんな奴楽勝だ!」

「ようヴィーア、一体どんな悪いことしたんダ?」

「ふはははは!それはな…」


貴族達が元のテーブルに戻っていく。


「いやぁ良い勝負でしたな」

「儂もあと40若ければのぉ」


 後に残されたのは散らかったゴミと真っ白になった国王だけだった。

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