ご褒美次第だ
さて、この世には失礼を働いたら怒られる場所と言うのは存在する。それで済めば良いが些細なミスで評価が下がったり、閑職に飛ばされたり、クビにされたり、物理的に首が飛ぶこともある。
そんなまさしく綱渡り会場の様な食事会にヴィーアはおり、もう始まっている様で賑やかな雰囲気だ。
ちなみにカルミティは早々に辞退したため別れている。
「うっほーいつかの屋敷で出てきた飯より豪華じゃねぇか!」
「この瞬間においてはここより豪華なご飯が出る場所はルクセニア大陸には存在しないの」
「国民の血税なのね、私達の席はあっちなのね」
「なんかいちいちムカつくがきんちょどもだな…」
赤い絨毯の上に様々な料理が並んだテーブル、見るからに高級な酒、奥には国賓席と王族が座る席。
それでも部屋の中央には広い空間がある。
そんな中双子はすたすた歩いていく。
「おい飯はいつ食えるんだ」
「私達のはテーブルにあるの、ヴィーアは食べれないの」
「かわいそうね」
「なんだとガキども!」
期待したのに食べれないと知って頭に来たヴィーアは一人一本腕を掴み回転する。
「「きゃっきゃ」」
もちろん本気ではないので器用にぶん回しながら席まで行くとラーナナが話しかけてきた。
「ヴィーアったらリーとルーにとっても懐かれてて本当の兄妹みたいよ、お姉ちゃん妬けちゃうじゃない」
「ラーナナちゃんも俺を兄と呼ぶと良い、色々甘やかしてやるぞ!」
「「ヴィーちゃんー」」
「やめい兄ちゃんみたいに言うな」
「あははは!」
「ラーナナ姫、国王女王陛下が見ておられます。自重下さいませ」
ヴィーアも、少しぽっちゃりした背の低い国王の方を見ると他国の貴族達と和やかに話しながら視線はこちらに向いているのに気付いた。
「いいじゃない、パパとママだって賑やかなの大好きだしー」
「今は他国の視線もありますので」
ラーナナと話してると後ろに控えていた優男が会話に入ってくる。
「貴方がどなたか存じませんが、騎士であるなら品位を持って控えた方が良い。でないと貴族達に睨まれて何をするにもやりにくくなってしまうよ」
「む、お前はさっきの」
「申し遅れました、ラーナナ姫護衛騎士のタークス・ヤーキーです」
タークスは右手を胸の前で拳を握り、優雅にお辞儀をした。
「そうか」
ヴィーアは全く興味無さそうに会場を見渡しているとクーデリアと目が合う。その眼は薄く笑っており、次は何をして余を楽しませるのだ?と言われている気分になったので目を逸らす、他にはコースゥゲン共和国の姫ミーティアがおろおろしていて、クーデリアに話しかけ様としてやめるを繰り返している。
その隣はゴラート連邦の姫リュドミラがワインを優雅に飲んでは悩ましげなため息を大げさに吐いてはその豊かな胸を揺らし周りの貴族達の目を釘付けにしている。
「はいはいダメよ、ちゃんとヴィーアも名乗ってねー、貴方も私に無視されたらかなしーでしょ?」
ラーナナに言われ嫌々と言った顔でタークスと向き合う。
南国のフーキ特有の褐色肌に紫の短く揃えられた髪、優しそうな顔をしているがしっかりと鍛えられた身体だ。
「…ヴィーアだ」
「よろしくヴィーア殿、貴方が国に害をなさない限り、これで友人だ」
「ふん」
タークスはやっと拳を解いた。
「それで、いつの間にリーとルーの護衛騎士になったの?お姉ちゃん何も聞いてないんだけど?」
「おう、ラーナナちゃんが追悼式に行っている間にな。この前も中庭で茶菓子を一緒に食った仲だぞ」
「流れる様に嘘をつくのね」
「全部嘘じゃない辺り、大人って汚いの」
「ふーーーん…、じゃあヴィーアって本当に強いのかしら?大事な妹達を任せられる?」
「とーぜんだ!少なくともこの部屋の誰よりも強いぞ、だからそんな奴より俺を護衛に…」
「我が騎士タークス」
「はっ」
今までのおちゃらけた話し方から一転、タークスに強く声を掛ける。
「ヴィーアと手合わせなさい」
「仰せのままに」
「…は?なんで俺がそんなことを」
「なんやおもろそうな事話してるなぁ!」
「パパ!」
突然決闘しろと言われヴィーアがおもいっきり顔をしかめていると国王がやって来て国王らしく好き勝手言い始めた。
「せや、ちょっとした演武っちゅう事でこの部屋の真ん中でやってええで!話しによるとニィちゃんが悪魔倒して精霊さまを救ってくれたんやろ?強いんやろ?あの精霊さまは先代の先代の、そのまた先代くらいから契約してるらしいで!知らんけど。まぁとにかくその件は助かったわ、おおきにな!」
ラーナナのお喋り好きは父親似の様だ。
「勝手に決めんな、そんな疲れるだけの面倒な事やらんぞ」
「あい分かった、ほんなら盛り上がったら金一封やろう、冒険者にはこれが一番やろ!」
「金なんか別にいらん、やらん」
「くぅー交渉がうまいのぉ!ほなら何が欲しい、なぁんでも王ちゃんに言うてみぃ?」
国王は肘でヴィーアの脇腹をぐりぐりしている。
「何でもいいのか?」
「国王に二言はない!」
言質を取ったヴィーアはニヤリとし、言い放つ。
「よーしそこまで言うなら言ってやる。俺様が欲しいのは、ラーナナちゃんだ!」
「あれま」
ヴィーアの大声が部屋中に響き渡り、ラーナナの短い言葉を最後に静まり返り国王は驚き口をぱくぱくさせていたかと思うと震えだし顔が真っ赤になり烈火のごとく怒りだす。
「王である前に親の前で自分何言ってるんか分かっとるんかボケコラ!どつき回したあと沿岸砲台に詰めてアカン湾に流されたいんか!?」
唾が飛ぶのも周囲の目も憚らず国王の怒声が飛び、貴族達がざわつき遠くではクーデリアは腹を抱えて笑っている。
「お前が何でもって言ったんだろうが!それとも何か、まさか王が約束破る訳ねぇよなぁ!?」
「ぐぬぬ貴っ様ぁ…」
「お辞めなさい、見苦しい」
人混みが割れると女王が歩いてくる。
「ママ!」
「王であるならばその程度で狼狽えるのはやめなさい!それとラーナナ、公の場では女王と呼びなさいといつも言ってるでしょう」
この国の最高権力者、女王が現れたのである。




